欧州の「弱さ」の真因~ドイツ・自動車・財政出動~
欧州の突出した「弱さ」はどこから来るのか
世界的に景気の底入れを期待するムードが広がっているように感じますが、依然として欧州、とりわけユーロ圏は精彩を欠く状況が続いています。とりわけドイツの惨憺たる状況は未だ継続中です。主要国でも突出している「弱さ」の理由はどこにあるのでしょうか。要因は幾つかありましょうが、最も大きな要因としては経済が外需依存構造であること、とりわけ主力の輸出品である自動車販売が世界的に停滞していることがよく挙げられます。2018年を例にとれば、世界の自動車輸出の4分の1以上がドイツ、フランス、イタリア、スペインからの輸出ですから、自動車業界全体の浮沈がそのままユーロ圏の景気を左右してしまう部分があると言えます。
自動車産業が苦戦している理由
2018年は金融危機後で初めて自動車生産が縮小した年です。この背景としては2つ要因が指摘されており、いずれも広く知られた論点です。1つは中国の小型車減税が廃止されたこと、もう1つは欧州において厳格な排ガス基準が導入されたことです。
前者は2015年10月から導入されていたもので、本来は2016年に終了予定でしたが、2017年も減税幅を圧縮した上で継続されていました。2018年はこの反動で中国市場が低迷したという話です。財・サービスへの時限的な減税(値下げ)は当然、需要の先食いを生みます。2018年から2019年にかけてはその影響が色濃く出ていると言えるでしょう。
後者については、新たな排ガス基準に対応する自動車の生産が立ち遅れていることや規制対応によって生産コストがかさんでいることなどが生産・販売の動きを抑制したと考えられています。中国の減税終了の悪影響に関しては短期的な下押しで収束する見通しですが、環境規制対応に伴う需要減は中期的に残る構造的な要因だとの見方もあります。世界の鉱工業生産の6%弱が自動車産業と言われますから、その不調が昨年来の世界経済の減速の背景にあることは重要な事実であり、先行きを展望する上でも見逃せません。国別に見れば、やはり中国そしてドイツが自動車産業の足かせとなったことが明白です。また、よく知られているように、両国の政治・経済的な蜜月を踏まえれば、相互連関的に経済環境が悪化したことも推測されます。
ドイツの抱える構造問題:維持された輸出拠点としてのパワー
また、中国との結びつき以上に構造的な問題をドイツは抱えています。それは依然として国内が輸出拠点としてのパワーを持ってしまっていることです。ドイツの輸出依存度(輸出÷実質GDP)は40%弱と日本の20%弱に比較してかなり高いものです。世界輸出に占めるドイツの存在感は中国の台頭と共に日本が小さくなっていたことに比べると、しっかりと維持されています。この背景としてはシュレーダー政権下での労働市場改革(いわゆるハルツ改革)を通じて国内生産コストが押し下げられていたことや州単位での権限を拡大させたことなどによる競争力の高い中小企業(ミッテルスタンド)の存在など、前向きな論点が指摘されることも少なくありません。とはいえ、「永遠の割安通貨」である共通通貨ユーロの存在や東欧からの安価な労働供給なども国内に生産拠点を残置させる誘因として大きかったであろうことは想像に難くありません。輸出拠点としてのパワーが残っているということは国内で雇用を創出するパワーも残っているということです。ゆえに、これが巧く回っている時には「強み」として大いに持てはやされます。
しかし、「強い輸出にけん引された経済」というのは、海外の経済・金融環境という所与の条件が変われば今までの「強み」が一気に「弱み」に転じ、景気全体を押し下げます。2005~06年の円安バブルと呼ばれた時代、日本の製造業は薄型テレビなどの輸出を通じて大きな利益を上げました。そして円安環境を前提としつつ国内の生産能力を増強しました。ですが、危機を経て為替が円高に振れると、外需が一気に縮小し、業況が一変したのです。もちろん、今の減速局面に金融危機ほどの震度を見て取ることはできませんが、昨年来の世界経済減速の中で失速を強いられているドイツの姿はリーマンショック後の日本の姿とやや重なるものがあります。