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不確実性の高い時代に何を学ぶべきか。個人の学ぶ意欲だけに依存しない、組織的にできる5つの仕掛け。

皆さん、こんにちは。今回は「スキル形成」について書かせていただきます。

リスキリングブームが始まってから早3年。コロナ禍では特に、あらゆるメディアで「リスキリング」「DX」「デジタルスキル」「ジョブ型雇用」「スキルアップ」などの言葉が毎日のように並んでいました。ところが、スキル習得意識が確実に高まっている中で、「必要な学びが分からない」「必要な学びを実践できていない」という声も多数聞こえてきます。

新たな仕事や役割に備えるリスキリング。中高年はもちろん、20~30歳代の関心も高い。様々な学びに早くから取り組めば知識や技術は吸収しやすい。一方、何を学ぶべきか見極めきれず、悩みを抱える例も目立つ。キャリアの先行き不透明感が強く、戸惑う先輩を目にする機会も増え、若手が「学びの迷子」に陥りやすい状況が生まれている

具体的に社員一人ひとりが何を学び、どのようにそのスキルを仕事に生かすかについて、指針や方針を明確に打ち出している企業は思いのほか少なく、個人に判断が委ねられているという状況のように見えます。

実際に記事には、

もともと企業主導で新たな仕事や役割に移行するための学びを促す意味合いが強かったものの、現状は個人それぞれの自主的な努力や学習の重要性に主眼が置かれているとみる。キャリアを模索する若手の「今のうちに自分で学ばなければ」という焦りにつながっている

とあります。個人も企業も、学ぶことへの意欲や機運が高まっている今、改めてどのようなポイントを意識すれば良いか考えていきます。

■個人が学ぶ上で意識すること

一般的に、「思考力」「洞察力」「俯瞰力」「コミュニケーション力」「プレゼンテーション力」「交渉力」「ヒアリング力」「情報収集力」「資料作成力」「分析力」「戦略策定力」「問題解決力」「指導力」「決断力」「業務遂行力」「柔軟性」「先見性」など、いわゆるビジネスパーソンに必要な能力を挙げるとたくさん項目が出てきますが、それ以外の専門的なスキルも含め、何か新しいスキルを習得していくためには、以下のような方法があります。

学ぶスキルを決める方法

①既存の業務の延長線上で必要なスキルを定義する(このスキルを持っていればより成果が出ると思われるものを決める)
②現状のチームや組織に不足しているスキルを定義する(人が持っていないスキルを自分が埋める)
③これからの時代に必要だと思われるスキルを定義する(未来を予測し、これから必要だと思うスキルをから逆算して考える)


まずは①のように今の仕事の延長線上で必要なスキルを少しずつ身に着けていくことが現実的ですが、②のような手法を選択し、チームの中で明らかに不足している能力があるのであれば、それを最短で身に着けることで組織への貢献度が高まり、代替不可能な人材へと成長していける可能性が一気に高まることも事実です。

③の方法も選択肢としてはありますが、本業の業務内容と明らかに乖離しているものや、全く日々の業務には活用できないものであるとすると、継続して学習していくモチベーションが失われるだけでなく、既存の組織の目指す方向性や期待されている役割と合致せずにミスマッチを起こす(会社から評価されず、自分自信も貢献実感がない)可能性も出てくるので注意が必要です。

このようにスキルを習得するにあたっては、いくつかのステップや選択肢がありますが、誰もがまず最初に取り組むべきポイントは「自分自身の現状を正確に把握すること」ではないかと思います。これを「メタ認知能力」と呼ぶ企業も多いです。

※メタ認知とは、自分の認知活動を客観的に捉えることで、自らの認知(考える・感じる・記憶する・判断するなど)を認知すること」を指します。自分自身を客観的に見ることに加え、自分自身をコントロールし、冷静な判断や行動ができる能力までを含めて「メタ認知能力」と呼ばれています。

今の日本のビジネスシーンでよく見られるのは、「これからはDXの時代だから、デジタルスキルを学ぶと良さそう」というなんとなくの世の中の雰囲気や、あまりよく分かっていない上司からの指示などで、とりあえず目的が分からないままデジタル系のスキル講座を受講するというシーンです。そのようなケースほど、せっかく学んだ知識を業務に生かすこともなく、なぜ学んだのか分からないまま、組織に対する疑問や不信感だけが残る形になってしまいがちです。

まずは、「自分自身が現状を正しく評価すること」で、「新しいことを学び、新しいスキルを身に着け、それを実践する」ための足掛かりにする必要があります

  • 興味関心があることは何か

  • 解決したい課題は何か

  • 自分が得意なことは何か(逆に苦手なことは何か)

  • これまでのキャリアで何を得てきたか

  • これからのキャリアで何を実現していきたいか

  • チームや組織からどのような期待をされているのか

など、自分のことを客観的に捉え、現状と理想のゴールとのギャップをどのように埋めていくのが良いのかを考えることがファーストステップだと思います。

■何を学ぶかを定義する上で、陥りやすいワナ

「何を学ぶか」を考える時に陥りやすいパターンを考えると、以下のような項目が挙げられます。

①自分のキャリアプランが明確にならないうちに、学ぶ内容を絞り込み過ぎてしまうパターン
→キャリアの初期段階から、自分で学ぶスキルや、取得する資格などを決めてしまい、実際の仕事内容との連動がないまま、せっかくのスキルを生かす場がない状態。

②プログラミングなど、デジタルスキルを習得すれば問題ないと過信してしまうパターン
→「DX化」「デジタル系人材の不足」などという言葉だけを見て、たとえば、「デジタルスキル=プログラミング」だけであると勘違いしてしまい、プログラミングができれば将来必要なスキルはカバーできていると思い込んでしまう状態。

③自分の強みや弱み、得意なことや苦手なことを理解しないまま、机に向かって“勉強”さえすれば一定のスキルが習得できると思ってしまうパターン
→机やパソコンに向かって勉強する、オンライン講座を受けるなど、勉強する時間をある程度強制的に取り、勉強のために投下した時間がそのままスキル習得に直結すると思ってしまう状態。


「何を学ぶか」は非常に重要なテーマです。特に今はキャリアの先行き不透明感があり、早く何かを学ばなければいけないという焦燥感にかられている人が多いはずです。学ぶことに投下できる時間もお金も労力も限られている場合に、闇雲に思いついた順から無計画に手を出せばいいわけでもありません。

本当に必要なスキルや能力とは何かを考えた時に、リーダーシップや戦略的思考、チームマネジメントや組織育成力など、ベースのビジネススキルが土台としてあり、その上にさらに必要な能力を付け足していく過程で、自分が出せるバリューとは何か、組織から期待されている役割とは何かを見極めてから判断する必要がある
のではないでしょうか。

こちらの記事には、

デジタルトランスフォーメーション(DX)を重要課題ととらえ、社員のリスキリング(学び直し)に力を入れる企業が日本でも増えてきた。欧米への遅れを挽回したいところだが、気になるのは経営層の関与の度合いだ。「学ぶのは社員」と考え、現場任せになっていないだろうか

とあります。
「学ぶのは社員」であり、「社員が自主的に勝手に学べばいいだけ」と捉えている企業は少なくないはずです。しかし、個人の好奇心や学習意欲に依存していては、強いチーム、強い組織を作ることにはつながりません。
では、どのように“組織的に”それぞれの能力の向上を実現していけば良いのでしょうか。

■組織的に個々の能力を高めるには

社員一人ひとりの能力を高めるために組織的に取り組めることとして、以下5つを徹底して実行する仕組みが必要だと考えています。

1、経営幹部が率先して学ぶ
経営幹部が社員に対して「これから必要になりそうなスキルを習得するように」と現場に丸投げし、自らが学ぶ機会から逃げてしまっていては優秀な人材の流出につながりかねません。組織のリーダー自らが、新しい知識や経験を積極的に取り入れ、会社の変革を促すきっかけを作っていく必要があるのではないかと思います。

2、フィードバック文化を根付かせる
→業務上の目標に対して、または個人の能力開発に対して、率直にフィードバックする文化がある会社とそうでない会社の違いは明白です。若手社員だけでなく、年齢や経験を重ねた人に対してもフィードバック文化が根付いていると、「リスキリング」という言葉によって発破を掛けられなくとも、今後の会社の更なる発展のために、何を習得してほしいか、何をアップデートしてほしいかを明確に伝えることもできます。

3、自己認識と他者認識のギャップを可視化する
率直なフィードバックに加えて、上司、部下、同僚などから多角的に評価や指摘を受ける環境を構築することも重要です。たとえば、自己評価は5段階中「4」だとしても、上司評価は「2」かもしれません。その「2」の差は何なのか、何が不足しているのかを言い合える環境を作ることで、認識のズレや評価のズレを早期に発見し、軌道修正するアクションを取りやすくなります。

4、「自分らしさ」や「個性」を尊重する
自分らしく、自由に、イキイキと仕事をしている人が多い会社の方が、会社が活性化し、社員のエンゲージメントも高まり、ひいては業績向上にも直結します。同質性の高い組織ほど、社会人2年目ではこれを学び、4年目になってからはこれを学ぶというような、組織を一律で一元管理する傾向が強くなります。年功序列の横並び組織ではこの方法でも良いかもしれませんが、社員一人ひとりの強みや能力を引き出していくためには多様性を認め、個性を尊重する育成方法でないと長続きしないと思います。

5、習得した学びやスキル、経験を教える側になることを促進する
何でもそうですが、受け身の学習経験は定着率が低いです。学生時代よりも記憶力の衰えを感じやすい大人になってからの学習は特に、受け身で学習していてはすぐに忘れてしまいます。自分が学んだことを文章に残したり、後輩に体系立てて説明したり、第三者に伝える場を意図的に創出することで、その分モチベーションや責任感にもつながり、理解度が深まるはずです。


これらのポイントに加え、新たなスキル習得など、チャレンジした人、成果を出した人を正当に評価する評価制度もセットで必要です。スキルアップした分だけ仕事の成果が上がり、評価されて給与が上がる、そして仕事の幅が広がり、更に大きな仕事を任されていく。こうした環境があるからこそ、スキルアップに対する意欲が上がり、自己成長を追求する人が増えていきます

組織的に社員の能力を引き出す努力を続けることは、社員一人ひとりのスキルアップに留まらず、企業としての生産性や定着率の向上、企業価値向上など、様々なメリットを生み出します。このような組織力の底上げは、今後の企業成長に大きく寄与することになると言えると思います。

■今学ぶべきは「非認知能力」?

こちらの記事には、

プログラミング教室の隆盛など子供の習い事・保育は多様化している。なかでも注目されているのがコミュニケーション力や課題解決力など学力テストでは評価できない「非認知能力」だ。将来予測が困難なVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代に入り、自ら考え不確実な社会を生き抜く力を育てる。

とあり、幼少期から基礎学力の習得だけではなく、「自分の意見を言える」「問題解決に向けて自分で考える」といった非認知能力の育成に力を入れている教育施設や習い事が増加しています。「リーダーシップ」「自発性」「金融リテラシー」「起業家教育」「スポーツ」「表現芸術」「ディベート」「演説」など、提供するカリキュラムも多岐に渡り、幼少期における習い事や教育に求められる役割は大きくなっています。

非認知能力とは、積極性や協調性、粘り強さ、自制心、自己肯定感、リーダーシップ、やる気や意欲、モチベーションの高さといった、数値では図りにくい能力のことを指しますが、社会生活を送るために重要視されており、子供の頃に備わった非認知能力は大人になって社会に出てからも様々な場面で発揮されます。たとえば、「人間関係を形成する力」や「自己理解」「自己管理能力」などにも影響を与え、社会人として必要な基礎能力にも直結するものとして捉えられています。

その中でも、

①行動する力
→主体性を持ち、他者に働きかけ巻き込み、目標や目的達成に向けて確実に行動する力。

②考え抜く力
→現状を分析し問題点や課題点を明らかにしたり、その上で解決に向けたプロセスやアクションプランを考え、新しいフレームや価値を創出しながら思考する力。

③チームで動く力
→相手の話を聞き、考えやアイディアを的確に理解したり、自分の意見を周囲に分かりやすく伝えたりする力。その上で意見の違いや視点の違いを理解しながら柔軟に対応し、周囲の人や物事の関係性を理解して適切な状況把握を行う力。

というような、社会に出てからも必要な能力は大人になってからでも鍛えられるもので、このようなスキルを各企業の評価システムの中に導入したり、日々のコミュニケーションの中で強化してほしいポイントとして、部下に率直に伝達したりすることで、自分が苦手なことや弱点を克服しようと意識を向けさせることは十分可能だと思います。


昨今は、昔ほど「学歴重視」「学力重視」で企業の採用試験を行っている企業はだいぶ少なくなってきましたが、「学力」よりも重要なのは、これらの「非認知能力」ではないかと思っています。

人生100年時代と言われる今、どんなに年齢や経験を積んでも、時代の変化や各企業の戦略の変化に合わせて、自分の求められる役割や成果を再定義し、その上で必要な能力を見定め、積極的に学ぼうとする姿勢を持ち続けることが何よりも重要ではないでしょうか。

そして、「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「どのように社会や会社に貢献するか」を考え続けられる人こそ、これからの不確実性が高い時代においても重宝されていくことは、火を見るよりも明らかではないかと思います。



#日経COMEMO #NIKKEI

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