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誰しもが自分の使う電気を“不要不急”とは思わない。供給力確保が必要なワケ

猛暑や厳寒のなかで、電力が足りないので、節電してくださいと言われれば、腹も立つでしょう。「好きに使わせろ」と言いたくなる気持ちはよくわかります。電気は使いたいと思う時に使えなければ意味がありません。大量に貯める技術はまだ存在しないため、必要とされるときに必要な量を確保することが非常に重要な財なのです。「あと5時間ほどしたら余裕が出てくるのでその時に使ってください」と言われても、今寒いからエアコンをつけたいし、今連絡を取りたいから通信機器を使いたいわけです。5時間後にさぁどうぞと言われても「今じゃない!」となるのは当然です。

今年6月の猛暑の時には、テレビのコメンテーターの方もお怒りでした。例えばテレビ朝日のモーニングショーで長年コメンテーターをされていた玉川徹さん。政府の節電要請を受けて、テレビの放送をやめればよいとの声に対して「うるせえよ」と仰ったとのこと。
玉川徹氏が政府の節電要請に疑問 「放送やめればいい」の声には「うるせえよ」(東スポWeb) - Yahoo!ニュース

自分の使う電気は”不要不急”ではない

そうなんですよ。誰しも自分の使う電気は“不要不急”だとは思いません。他人から見たら不要に思える遊興(ゲームやパチンコ)、テレビ番組であっても、関わっている方たちから見れば、今エネルギーを使うに値することなのです。だから供給力を確保する電力政策が非常に重要なのです。原子力はダメ、火力は温暖化を引き起こすからやめろ、節電は「うるせえよ」は成り立ちません。
先日のNHK日曜討論でも、原子力反対派の方から「電力需給逼迫には、原子力の活用ではなくデマンドレスポンス(要は節電です)など、需要側の取り組みを進めるべき」という発言がありました。そうした取り組みも進めるべきですし、進められていますが、いざ「あなたがスイッチ切りますか?私がスイッチ切りますか?」となったら、ほとんどの方が「私は切れません」と思うものなのです。

再エネ導入が足りなかったのか

「だから再エネをもっと導入しておくべきだった」という批判もよく聞きます。どこまで再エネが導入されれば十分かは別として、日本は再エネ導入量世界6位、太陽光発電でいえば、中国、米国に続いて世界3位の導入量です。国土面積当たりでいえばぶっちぎりの第1位です。この10年、世界でも類を見ないスピードで日本の再エネは増加しました。

その代わりに、再エネ発電賦課金は年間2.7兆円にまで膨らんだうえ、日本各地で迷惑施設化した再エネも生んでしまいました。これ以上のスピードで再エネの導入を進めたなら、いま各地で発生している再エネに対する苦情はより深刻なものになった可能性があるでしょう。再エネを「もっと増やせ」というのであれば、どの程度のスピードで(=再エネへの補助に伴う国民負担をどこまで増やして)普及させるべきだったのか、具体的に指摘する必要があるでしょう。

現下の需給ひっ迫は「太陽光が発電しないとき」に起きる

そして、現下の需給ひっ迫は太陽光発電が発電しないときに起きています。すなわち、冬の曇天や降雪、夏の日没前後などです。それはなぜかと言えば、「太陽が沈んだら太陽光発電は発電しない」からです。なので、太陽光発電をもっと導入したとしても解決にはつながりません。なお、風力発電や地熱発電の導入には、環境アセスなど含めて8年程度はかかるので、現下の供給ひっ迫の解決策にはなりません。
蓄電池の大量導入は解決策の一つではありますが、これも時間がかかりますし、そもそも蓄電池というのは物理的にとてもエネルギー密度が薄く、社会を支える大量の電気を貯める力はまだありません。ご自宅の電気を太陽光と蓄電池だけで賄うということはできるとしても、社会を支えることはできないのです。生活を支えることはできる、と申し上げましたが、それもそんなに簡単ではありません。私が設立したU3イノベーションズ合同会社では、電線や水道管につながない「完全オフグリッド生活」の実証を行っています。たかが数人が滞在する小さなテント型の家でも1年365日、どんな天候でもそれだけでやりくりするのはかなり難しい。コストに糸目をつけずに蓄電池を導入すればできますが、それではお金持ちに許された実験の域を出ないものになってしまいます。
テレビキャスターの辛坊さんがご自宅の経験をもとに、太陽光でできると仰っているそうですが、総量としてご自宅に設置した太陽光発電が、そのご家庭が使った電力量よりも多かったとしても、必要な時に必要な量を確保するための調整機能を電線の先の火力・原子力発電所に依存しているのであり、再エネを増やそうと思ったら、その調整役を担う発電所や送電線の整備を同時に進める必要があるのです。そこをあまりにおろそかにするから、再エネの導入に支障をきたしてしまうのです。再エネの導入を阻んでいるのは、実は、再エネという技術の持つ課題と真摯に向き合おうとしない再エネ派、いわば再エネムラの方たちだと私は思っています。

さて、この冬も電力需給がひっ迫することが心配されています。千葉県市原市にある姉崎火力発電所6号機が年明け1月から稼働を再開するとのこと。運転開始から約40年が経過している上に、それほど大きな設備ではなく(60万kW)、メンテナンス費用をかける費用対効果がよくないとして、21年から休止していたものですが、改めてメンテナンスして戦線復帰してもらうというものです。
ただ、一般的な火力発電所の故障率は2.6%。最大限のメンテナンスを行ったとは言え、これまで動かしていなかった姉崎6号がトラブルでダウンする可能性は決して低くは無いと思っておいた方が良いでしょう。

コロナの時に流行した「不要不急」という言葉。定義もない曖昧な言葉です。他人から見て不要不急でも、本人から見れば絶対必要ということは多くありますし、不要なものや無駄を徹底して省いていく社会が良いのかどうか、とも思いますが、確保された電力供給力の中でやりくりせねばなりません。
日本のコロナ対策は、国民の努力や協力に多くを依存したものでした。節電も同じように国民の努力や協力に依存することになります。過度な負荷をかけないためには、しっかりと現実を見た、最低限のエネルギーの知識に基づいた議論が必要です。


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