実質賃金に対する誤解
最低賃金、なぜ最大の上げ? 物価高配慮と政府の意向も: 日本経済新聞 (nikkei.com)
日本経済はアベノミクス始動以降、景気が好転したといわれています。しかし、その間の実質賃金は大きく低下しています。背景には、アベノミクス時の回復局面では、過去2回と比べて常用雇用者数と名目賃金の増加が著しい一方で、消費者物価の上昇により実質賃金の改善が弱いことがあります。
しかし、働き方の多様化が進み、副業も浸透する中では、単位当たり賃金は従来の一人当たり賃金よりも、米国のように時間当たり賃金の方が適当でしょう。従って、日本でも一人当たり賃金ではなく、一人当たりの平均労働時間に着目し、就業者全体の時間当たり賃金を計測したほうが、より望ましい単位当たり賃金の指標となるでしょう。
そこで、総人件費を労働者数で割って作られた既存の一人当たり名目賃金と、一人当たり名目賃金を平均労働時間数で割った時間当たり賃金を時系列で比較しました。アベノミクス以降の局面をこの二つの基準で見てみると、既存の名目賃金であれば確かにアベノミクス以前よりも水準を上げていることになりますが、物価上昇に追いついていないことがわかります。しかし、時間当たり名目賃金で見ると、2020年度以降は物価上昇に時間当たり賃金の上昇が追いつきつつあることがわかります。
さらに実質賃金で比較すると、従来の一人当たり実質賃金指数では、2012年度から2021年度にかけて▲4.9%下がっています。しかし、一人当たり実質賃金指数を一人当たり平均総労働時間指数で割った時間当たり実質賃金指数を試算すると、2012年度から2021年度にかけて+2.0%も上昇していることがわかります。背景には、労働参加率が上昇する中で、労働時間が短く一人当たり賃金水準が低い女性や高齢者の労働者が増加したことがあります。
従来の一人当たり実質賃金が単位当たり賃金の指標として適さない背景には、マクロ経済的にはプラスとされる常用雇用者数の増加や働き方の多様化等が実質賃金の下押しに作用してしまうことがあります。こうしたマクロ経済全体の善し悪しを表しきれない側面のある一人当たり賃金を基に経済状況を判断してアベノミクス路線を転換してしまうと、経済政策の判断を誤る可能性があります。そしてそうなれば、多くの国民が経済成長の恩恵を受けられなくなる可能性があるでしょう。
こうしたことから、常用雇用増加や働き方の多様化が進む局面での一人当り実質賃金低下に左右されること無く、時間当たり賃金やマクロで見た総賃金を持続的に増加させ家計全体の購買力を高めることが必要です。そのためにも、これまで通りアベノミクス路線での積極的な金融緩和は続ける一方で、効果的な財政支出の拡大によりマクロ安定化政策をより強化すべきでしょう。
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