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優秀な若者だけではない「世界で活躍する」という選択肢

一流大学を卒業し、新卒で有名企業に入社した若者が、更なる挑戦の場として海外を目指す。このストーリーも、けっして珍しいものではなくなってきた。優秀な若者が、キャリアの早い段階から海外を志向することは、新卒海外就職や留職、海外インターンなど、多様な選択肢も増えている。

このように海外を志向する若者は、若者全体の割合としては僅かでしかなく、絶対数としては多くない。各種社会調査の結果は、日本の若者の内向き志向を伝えている。しかし、海外を志向する若者が海外で働きたいという夢を実現させるときに生じる障害やハードルは一昔前と比べて下がっているように思われる。


スピード化する能力開発

凡そ10年前までは、海外で働きたいと考える若者は、海外で働く機会を得るまでに必要な年数が長く、自分の力ではどうしようもない不確定要素が大きかった。海外で働くためには、海外事業展開をしている商社や製造業に入社し、長い下積み経験の後、海外事業部に配属されて初めて実現するというのが典型的なキャリアだった。終身雇用制が当たり前だった時代には、それでも許容されてきた。これは、個人の成長と社内でのキャリアが連動していたためだ。

しかし、キャリアの多様化が若者に選択肢を与えるようになった。個人の成長だけに焦点を当てると、「海外で活躍する実力を身に着ける」という目的を達成するために、海外とは関係のない仕事で下積みを経験することは必ずしも利益をもたらさない。また、外資系企業や海外企業での人材育成のスピードと比較すると、「いつかは海外で働ける」という従来の人材育成の方法はスピード感を欠いている。

つまり、個人の成長と社内でのキャリアを連動させるよりも、個人の成長に重きを置いて、自分でキャリアをデザインした方が個人へのメリットが大きいことになる。そのため、海外を志向する若者にとって、チャンスがない、スピードが遅いと判断した時に会社を辞め、海外に飛び出して挑戦するという選択肢が急浮上してくる。


海外に飛び出る若者は、優秀な人材だけか?

海外で働く人材というと、引用した日経新聞のコラムで紹介されたような、一流大学を出て、一流企業で経験を積んだ、輝かしい経歴を持った優秀な人材というイメージがあるのではなかろうか。国内でも成果を出し、優秀な人材だからこそ、海外でも成功できる。そう考える人も多いだろう。

国内で優秀な人材だから海外でも優秀と言うロジックは、社内の人材を海外赴任させる時、大いに当てはまる。しかし、個人の成長やキャリアだけを考えた場合、国内で優秀だから海外でも優秀という考え方は必ずしも適しているとは言えない。なぜなら、前者では日本での仕事と海外での仕事内容の関連性が強いため、必要なスキルや知識の類似性が強いためだ。しかし、後者は個人が自分の意志で海外に出ていくので、日本と海外での仕事に関連性がなく、必要なスキルや知識も日本国内と海外で類似性が弱い。つまり、海外で働きたいという若者は、日本国内で成果を出す必要は必ずしもないといえる。

それでは、日本ではまったく成果を出すことができなかったが、海外に出たとたんに優れた成果を出すにはどうすべきだろうか。1つは、個人の志向性や性格、行動特性が、日本よりも海外のほうが適している時があげられるだろう。特に、海外で働きたいという強い動機があるならば、高いモチベーションと情熱がパフォーマンスを高める効果も期待できるだろう。起業家が、サラリーマンとしては適していないが、経営者として成功を収めるのと似ている。適材適所と言う言葉があるように、その人が成果を出すには、適切な場が必要になる。

適材適所の成果に関連して、面白い研究成果がある。科学者の研究成果やSNSのインフルエンサーなどのクリエイティブな成果が求められる職種に限rられるが、ノースイースタン大学のバラバシ教授は1つの理論を提唱している。バラバシ教授の理論では、イノベーションと呼ばれるような優れた成果は、「アイデアを発見に転換する能力(Qファクター)」と「ランダムなアイデアの質(r)」の掛け合わせで生み出されるとされる。そして、Qファクターはキャリアを積んでも変化することはない。つまり、優れた成果を出したいと思うのであれば、自分が「Qファクター」を発揮できる適所を探すことが重要になる。「Qファクター」の高い人は、一定水準以上のアイデアを考え出すことができれば、次から次へと成功し続けるためだ。

「Qファクター」の効果が、ある程度の一般化ができるのであれば、高い成果を出すためには、自分が優れた「Qファクター」を発揮できる職種が見つかるまでトライアンドエラーを繰り返すことが近道となるだろう。もし、グローバルビジネスで活躍したいのであれば、日本での成果は関係なく、自分に適した「Qファクター」を発揮できるフィールドを海外で探し、試行錯誤を繰り返すことが成功につながる。


まとめ

これらの内容をまとめると、海外で活躍したいと思っている若者がすべきことはシンプルだ。「まずは日本で経験を積んでから」という悠長なことを言わず、できるだけ早くから海外で挑戦ができる環境に身をおくことだ。もし、はじめての仕事が「Qファクター」の低いものだった場合、その経験は無駄とまでは言わなくても、自分のキャリア開発の効率を落とすことになるだろう。自分が高い「Qファクター」を発揮できる適所を見つけることが、海外で活躍するために肝要だ。

そして、企業が海外で活躍する人材を求めるのであれば、人材開発のスピードが早まっているという外部環境の変化に真正面から取り組む必要がある。また、海外に駐在する人材を探すために、国内でのパフォーマンスが高い人材を送り込むこと自体には問題はないが、「Qファクター」を意識することが重要だ。つまり、成果を出すことができなかったという失敗に目を向けるのではなく、本人が活躍できそうなフィールドにアサインできているのか、人材育成と人材活用の視点がこれまでよりも求められる。

海外で活躍したい若者も、海外で活躍する人材を求めている企業も、失敗ではなく、適材適所ができているのかに着目し、何度も試行を繰り返していく姿勢が「世界で活躍する」という夢や目標の達成を牽引していく。

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碇 邦生(大分大学)

大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。

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