気候変動、脱炭素社会を考える上で気になる海外の『気候テック(Climate Tech)の"ネットスケープ・モーメント"』
2021年の夏を振り返る際、国内、そして世界中で大きな被害をもたらした洪水、山火事、干ばつなどの異常気象、そして連日続くコロナ禍における猛暑日を思い出す人も多いのではないでしょうか。そんな中、8月上旬に公開された国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次評価報告書の記事を目にしながら、「地球温暖化」、「気候変動問題」、「脱炭素社会」、「カーボンニュートラル」などのテーマに対し、いよいよ真剣に注意を払わなければいけない、と感じる人も多いのではないでしょうか。
電通が8月12日に公開した第2回「カーボンニュートラルに関する生活者調査」の結果によると、「カーボンニュートラル」自体の認知は約4割にとどまる一方、日本の「2030年度の温室効果ガス46%削減目標」の認知は5割超との回答が寄せられています。
4割の認知度が高いのか、低いのか、また「脱炭素」、「カーボンニュートラル」などの用語を誰もが理解し説明し、日々の経営や行動に移せているかはさておき、今回気になる2つの記事を見つけたのでご紹介したいと思います。
1つ目は8月24日付けの「脱炭素で官製ファンド 200億円で再エネ事業に出資」です。なるほど、日本の政府も再生可能エネルギー分野に投資をしているということが伺えるのですが、気になったはその予算の概算要求額「200億円」です。
環境省は民間の再生可能エネルギー事業に出資する官製ファンドをつくる。2022年度予算の概算要求で200億円の財政投融資を充てるよう盛り込む。ビルや工場に太陽光設備を導入する事業を支援し、民間資金を脱炭素分野に呼び込む。
2つ目に気になった記事は8月19日付けのThe Economistの記事『Climate tech’s Netscape moment: Billions are pouring into the business of decarbonisation - Wall Street giants and corporate titans are betting on climate innovation(気候テック [Cliamte tech] の"ネットスケープ誕生のような時"〜脱炭素のビジネスに数十億ドルが投入され、ウォール街の巨人や大企業が気候変動のイノベーションに賭けている)』
ここで言及されている「ネットスケープ」とは、今でこそ著名ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンらがインターネットブラウザーの企業を1995年に上場(IPO)させ、現在に至るインターネットによるテクノロジー、ビジネス、社会の大きなイノベーションをもたらした象徴的な起点として触れられてます。ちなみに、エコノミスト誌では過去にもこの「ネットスケープ・モーメント」と題した記事を複数回掲載しています[ 電気自動車(2010年2月)、オンラインゲーム(2007年6月)、ナノテクノロジー(2004年7月)]
この記事の中では、ブルームバーグのリサーチ企業(Bloomberg New Energy Finance)の試算として、昨年2020年の1年間でコロナ禍にも関わらず世界中で5000億ドル(約55兆円)が「エネルギー移行」のための投資として脱炭素化、交通、農業など、あらゆる分野のエネルギーシフトのために投じられたと報じられてます。
出典:Energy Transition Investment Hit $500 Billion in 2020 – For First Time (BloombergNEF (BNEF) | 2021年1月19日)
また、気候テック分野の投資額は米国内だけで2020年の360億ドルから2021年には600億ドル(約6.6兆円)近くなる見通しであることが紹介されてます。
記事の中ではその他にもシリコンバレーの老舗、新興ベンチャーキャピタル、米国政府(エネルギー省)、ビル・ゲイツ氏が主導するブレーク・スルー・ベンチャー等による数億ドル(約数百億円)から20億ドル(約2,200億円)までの投資規模が紹介されてます。更には欧州での取り組みとして英国政府が気候テック分野に2.35億ドル(約260億円)、その他に銀行のJPモルガン・チェースが今後10年に渡って2.5兆ドル(約275兆円)をサステイナブル投資にコミットすると表明したり、PEファンドも桁違いの資金を投じていることが描かれてます。
今回触れたのはあくまで気候テック分野に対する投資額が海外はすごいことになっている、という話ですが、こうした記事を通じて気候変動問題の深刻さ、奥深さ、複雑さと、イノベーションの必要性や可能性に気付かされます。
気候変動問題はとにかく専門用語、スケール(単位)が分かりにくく、その複雑な構造もあいまって馴染みが薄いと感じる人も、自分含め、多いと思います。以下の書籍はビル・ゲイツ氏自身がこのテーマにコミットし、学びながらその知見を分かりやすくまとめた内容となってます。議論の土台の一つとして、そしてテクノロジーやイノベーションの可能性を学ぶきっかけとして、とても良書であると感じます。
10月末に始まる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に向けて、世界中で気候変動問題への興味や関心が高まっていくことと思います。個人的にはメディアがこうした分野をどのように報じているかなども次回以降掘り下げてみたいと思います。
Photo by American Public Power Association on Unsplash