経営者の言うことは、なぜコロコロ変わるのか。構造で考えてみた。
ブランディングの仕事をしている。
そんな自己紹介をすると「ちょっと怪しい人に見えるな」と、いつも思うのが、事実しているので仕方がない。
(改めて)ブランディングの仕事をしている。
中でも、最近はインナーブランディングという仕事が多い。
インナー、とはざっくり「社内」のことで、自社の社員や従業員などを指している。また「ブランディングとは?」をはじめると長くなるので、ココではざっくり「○○は××という価値や目的を持ったブランドだ、としっかり認識してもらうこと」としておきたい。
つまりインナーブランディングとは、自社の社員や従業員に「うちの会社には、こんな価値や目的がある!」としっかり認識してもらうための活動、と捉えてもらえるとわかりやすい。
さて、そんなインナーブランディングのお手伝いをする中で、
・従業員インタビュー
・経営者インタビュー
をすることがある。
想像に容易いが、特に従業員インタビューでは「不満」を聞くことが多い。働いていれば、不満の1つや2つはあって当たり前だが、そんな不満の中で多いのが「経営者の言うことがコロコロ変わる」というものだ。
しかし、そんな社員たちの不満を、いざ経営者インタビューでぶつけてみると大概の経営者は首を傾げる。
「経営者の言うことがコロコロ変わる」と主張する社員。
「私の言うことはいつも変わっていない」と主張する経営者。
このズレを、例によってパワーポイントで構造にしてみた。
今日はそんな話。
■経営者と社員に生じている3つのズレ
結論から言えば、ズレには3つの要素がある。
1.視座のズレ
2.時間のズレ
3.モチベーションのズレ
だ。まずは1から考える。
視座のズレを構造にするとこんな感じ。
経営者は目的があって事業(A)をしている(と、信じたい)。
最近では、パーパスと呼ばれるものだ。
そんな目的の手段が事業で、社員はその事業の成功を目的に雇用される。
つまり経営にとっての「目的」と、社員にとっての「目的」はそもそもズレている。
このズレを正すのがいわゆる「パーパス経営」に期待する部分だが、実際に機能させるには相当な時間と労力が必要だ。
その要因には、残り2つのズレがある。
■経営者はプライベートも経営者
当たり前のことを言うが、経営者は社員ではない。
課長が部長になるのと、部長が役員になるのは、全く意味が違う。
役員になるということは、経営者の一部になること。
それは雇用される立場から、雇用する立場になるということ。
だから経営者はどれだけ残業しても、会社から給与をもらえることはない。
仕事とプライベートという境界線が溶けているのが経営者だ。
経営者は24時間365日、経営者。
退社したらプライベートになる社員とは根本的に違う。
このズレが「経営者の言うことがコロコロ変わる」へとつながっていく。
僕の知る限り、経営者は常に経営のことを考えている。プライベートで会った人でも、他愛のない会話も、いつも経営と紐づけて捉える。
また、1つの目的に対して、手段とは常に複数存在するので、ブレない1つの目的を持っている経営者は、24時間365日「手段B」「手段C」を考えている状態だ。
一方、社員は経営から与えられた手段が「たった1つの目的」だ。この目的のために、プライベートの時間を割いて取り組んでいる。
こうした時間の使い方の違いもまた、ズレを助長する要因となる。
■経営者の喜びが、社員の迷惑になり得る
最後のズレは、モチベーションだ。
前述のように、経営者は1つの目的をプライベートでも24時間追いかけている。その目的に社会的な意義があると信じて、そのための最良な手段を常に探している。
だから、先週出した手段Aよりも有効な手段Bが見つかったことは(経営者にとって)喜ばしいことだ。
しかし社員は少し違う。「会社の目的」にはある程度共感して入社していたとしても、途中で「自分の目的」を変えられることを「迷惑」と捉える社員は少なくない。
会社の手段がアップデートされることが喜ばしい経営者
自分の目的が変わることが喜ばしくない社員
こうしたモチベーションの差が、伝え方の差を産み、経営者と社員の溝が少しずつ深まっていくケースは少なくないだろう。
■視座を上げるパーパス経営の難しさ
「視座を上げる」という言葉がある。
これまでの構造で言えば、それは社員が経営者目線になるということだし「パーパス経営」が求めることも同じだろう。
しかし実際問題それができるか、となるとハードルはいくつもある。そもそも雇用関係のある両者で成り立つのか、という問題もある。
少なくとも「パーパスを与える人と、与えられる人」という関係性では視座は上がらない。聞こえのいいパーパスを策定することが、パーパス経営ではないし、何を持って成功と言えるかもまだ暗中模索だ。
ただ、
「経営者の言うことがコロコロ変わる」
そう言われない企業になることは、パーパス経営における1つの指標になるかもしれない。