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TikTok上で投資を学ぶ若者たち。今話題の「StockTok」とは?

「今の若い子たちはバブルが崩壊した後のデフレや低成長の時代しか知りません。彼らは終身雇用制度が採用され続けるとは思っておらず、転職するのが当たり前と受け止めています。年金も減額されると考えている。そうした中で自分を守る手段の一つが資産運用で、やった方がいいものだとは漠然と思っています。ですが踏み出せない。原因の一つは、彼らの親の世代にあります。親の世代は「投資は危ないもの」と思っており、だから自分の子供に「やってはいけない」と言い続けてきました。そうした体験があるので、自分たちも「投資は危険」という考えを拭いきれず、ためらってしまうのです。」

日経新聞に掲載されているこちらの対談でもあるように、日本では長らく「若者の株離れ」が議論されていましたが、コロナ禍による自由時間の増加や将来への不安などの影響によって、急激に若者の株式投資ブームが到来していることが米国でも話題になっています。

そのブームの大きな火付け役となっているのが、世界中の若者の間ですっかり日常的なツール、そしてZ世代(一般的に1995年から2015年までに生まれた人)のエンターテインメントの提供先となっているTikTok。コロナパンデミックの中、多くの若者が気軽に楽しめる娯楽を必要としていることから、TikTokはさらに勢いを増している。アプリ開設初期のコンテンツは流行のダンスをコピーする動画がほとんどだったが、最近では政治、スポーツ、アクティビズム、コメディ、ジャーナリズムなど、ありとあらゆるニッチなコンテンツが楽しめる。

金融系の動画も、「FinTok」や「StockTok」という立派なジャンルとして存在している。他の動画アプリとTikTokの決定的な違いは、パーソナライゼーション(顧客一人ひとりに最適化マーケティング手法)に特化した強力なアルゴリズムだ。莫大な数の視聴ユーザーと投稿ユーザーのデータを分析し、個人の好みや価値観を動画の視聴時間やいいねの傾向などで瞬時に判断する。結果として、アプリによって個人的に提供される動画たちを見ることで、ユーザー自身も気づかなかった予想外の好みや趣味、思想の傾向などを知ることができるのだ。

1. FinTok/StockTokとは何か

TikTokの人気が急上昇すると同時に、不安定な社会情勢の影響によって金融関係のアドバイスを求めてアプリを利用するユーザーが増えています。6月中旬の時点で、TikTokでの#investing (投資)タグは2億7810万回の視聴を記録していた。

Fintokとは、Finance(金融)とTikTokを組み合わせたもので、StocktokとはStock(株)とTikTokを組み合わせたもの。StockTokは金融系のコンテンツに特化したインフルエンサーやクリエイターが形成している独自のサブコミュニティであり、中には何百万人もの若いフォロワーを抱えている人もいる。

「TikTokの#fintokタグの再生回数は4,260万回。#stocktokはさらに多い9,740万回。一部の推計では8億人がTikTokを利用しており、推定3億3000万人のTwitterユーザーよりもはるかに多いとされている。

FinTokで共有されるコンテンツは、教育的なものと体験的なものとに分かれている。取引の結果を共有するユーザーもいれば、投資用語を教えることに重点を置いているユーザーもいる。一般的にこれらユーザーは個人投資家で、その多くはデイトレードを行っている。ホワイトボードを使い、FinTokerたちは定期的に株式市場の予測を示すチャートを描く。

finmemeのインスタグラマー(インスタ上の投資家インフルエンサー)や#FinTwitユーザー(Twitter上の投資家インフルエンサー)とは異なり、金融業界で仕事をしているFinTokerは稀だ。多くはプラットフォームを活用して、投資に関するセミナーや電子書籍を販売して収入を得ている。

TikTok自体はユーザーの内訳を公開していないが、視聴者の70%近くが24歳以下だと推定されている。FinTokタグをざっと検索すると、20代前半の著名なユーザーも何人かいることがわかる。 」


2. 突然の人気の理由

若者の株離れが懸念されていた中、なぜ突然TikTokというポップ性の高いアプリで投資のコンテンツが人気になったのか?理由としては、Robinhood(手数料無料で手軽に投資が行えるスマホアプリ)の成長やコロナウイルスによる自宅待機命令による空き時間の増加が挙げられる。今までは難解でつまらないと思われていた金融の話題も金融アプリで手軽にアプローチできるようになり、さらにTikTok上でユーモアを交えて明快に説明してくれるユーザーの存在によって、若いユーザーがオプションやその他の複雑な証券への投資をより魅力的なものに感じるような環境になってきているのだ。

「金融関連の話題は、一般的に娯楽を求める消費者にとってはあまり魅力的ではないが、パンデミックによって引き起こされた不況のため、近日は関心が高まっている。失業率は大恐慌以来最も高く、旅行、ホスピタリティ、食品、小売の仕事は、おそらく当面の間失われるだろう。そこで、金銭的なヒントをポップで快適な方法で提供する動画が、自宅待機で苦労している人々の心に響いているのだ。」

3. 誤情報やデマの拡散の危険性

若者が金融について学ぶ意欲を示していることが喜ばしいと言われているい方で、TikTok上で溢れている誤情報や投資に伴うリスクを過小に演出する手法に危険性を感じている人も少なくない。より多くの視聴者やフォロワーを得るために、コンテンツ制作者がリスクや重要な作業について伝えていない場合も多く、「正しい情報」が得にくくなっているのも事実だ。

「何百万もの動画があるということは、何百万もの異なる意見があるということだ。そして、TikTokのエンゲージメントに焦点を当てた不思議なアルゴリズムにより、情報は自由に、かつ多くの場合、フィルターなしで流れる。サベラ・キャピタル・マーケッツの受託投資アドバイザーであるイリジェフスキ氏のようなベテランのファイナンシャルアドバイザーにとっては、これはかなり危険な知識の消費方法だという。

”我々は数十年にわたる学術研究と経験的証拠に基づいて、何が有効かを知っています。我々は投資家の成功確率を実際に向上させる行動とは何かを知っていますが、TikTokに掲載されているアドバイスのほとんどがそうだとは限らない。”

StockTokのアドバイスは多岐にわたる。ある動画はミクロ経済学の授業のように感じられ、次のビデオはねずみ講の勧誘のように感じられることもある。認定ファイナンシャルプランナーのマイケル・クラーク氏は、その違いは意図によるものだという。

”これらのクリエイターは、エンターテインメントとしての価値を提供しているかもしれませんが、それが責任を持って、視点を持って提供されていることを理解する必要があります。”」

4. 日本では?NO YOUTH NO JAPANの例

「若者が声を届け、その声が響く社会をつくる」をテーマに活動を行っている社団法人NO YOUTH NO JAPANは、Instagramを通して若者の政治参加への呼びかけや「U30のための政治や社会の教科書メディア」として政治や社会、選挙に関する情報を発信している。難解なトピックもインフォグラフィックを活用することで、SNS世代にも伝わりやすい。彼らも#学校では教わらないお金の話 というシリーズの投稿を行い、投資に関する情報発信を行っている。


5. 最後に

日本でも「独学ブーム」が話題になっているが、大人世代も若者世代も、時代の変化とともに新たな学びの形が必要とされていることは明かだ。論文もTikTokも同じスマホ内でアクセスできるSNS世代に対して、「正しい情報」をどう届けるかが課題になっている。旧来的な堅苦しい「勉強」から逸脱し、エンタメの延長線上で(そしてYouTuberよりもインパクトが強く、完結に)情報提供を行っているTikTokerたちは新たな「教育」の手法を確立したが、特に金融のトピックにおいてはリスク教育も必要だ。学校教育に対して疑問を抱いたり、社会の中で「教えられてきたこと」以外のものがどんどん必要になってくる転換期において、日常生活、そして将来のためにも金融の知識のニーズが高まっており、それにどう答えるかが試されている。








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