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真の医療崩壊を防ぐためにも水面下の医療体制の偏在化を是正すべき

 大晦日に東京都の新型コロナ検査陽性者数が1,000人を超えました。残念ながら12月に入ってからも減らない人出と会食機会、それは東京都民の意識の低さの結果とも言えるでしょう。実際に診療していても、新型コロナの患者さんが減ることはなく連日陽性者の報告を行っている状況で、聞き取り内容ではほぼすべてマスクなしでの会食機会があった方々です。多くの医療者は家族への感染は勿論のこと、院内で感染を発生させないために、やりたいことを我慢して、この年末年始も患者さんと向き合っているにもかかわらずです。

 「これ以上重症者が増えると医療崩壊が起きる」と幾度どなく言われてきましたが、本当に大変なのは「新型コロナの診療をしている、特に入院患者さんを診療している医療機関」であって、「新型コロナの診療とは無縁な診療所を中心とした医療機関」では受診控えなどによりむしろ暇になっていると言われています。私のところは診療所ですが、感染症内科を専門とすることから保健所の依頼により、区内の総合病院ですら新型コロナの診療をしていただけなかった2月頃から患者さんの診療を積極的に行ってきました。発生当初はどの程度の感染力や重症度なのかが不明確だったので、不安感や緊張感も強かったのですが、これまでに培ってきた感染管理のスキルで自信をもって診療し、スタッフの安全も守ってきました。

 新型コロナは8割の方が軽症な経過をたどり、重症化する方は高齢者や基礎疾患を持つ方であることがわかってきた段階で、患者さんの診療に対する役割分担をすべきであるとメディアで訴え、地区医師会などにも提言してきましたが、未だに内科診療所なのに「発熱患者さんを拒否する医療機関」や、最近では「新型コロナの検査はするが症状がある方は拒否する医療機関」(いわゆる自費検査のみを行う施設)も散見されます。私の所属する地区医師会の休日夜間診療所も「発熱患者さんの診療は電話のみ」と公表しています(休みの日に発熱した人のための診療所だと思うのですが何のための診療所なのか全くわかりません)。要するに逼迫しているのは新型コロナを診療している医療機関に限ったことであると思われます。

 新型コロナの診療拒否の背景には「普段かかりつけの患者さんを診療するから協力する余裕はない」「もし受診者で感染者が出たら医院を一定期間閉めなければならない」「風評被害が出たら患者が来なくなる」「自分だけではなくスタッフにも家族がいる」などという意見が絶えないもの事実であり、その傾向は患者さんの多い都市部より少ない地方都市に顕著です。それならば自院で診療するのではなく、地区医師会などが感染管理専門家の指導を受けた上で新型コロナ関連での受診者窓口となるような施設を運用し、少しでも重症者の診療をしている医療機関の負担を軽減させるべきではないでしょうか。私は幾度どなく地区医師会に専門家として指導にあたる旨を伝えてきましたが、これまでに声がかかったことは一度もありませんし、新型コロナ関連の講演会依頼も他の地区医師会からばかりです。「受診控えで経営が困難」というのであれば、保健所の電話相談を手伝ったり、新型コロナ患者さんを診ている病院の外来診療や他の疾患で入院している患者さんの診療でも手伝って収入を得たらどうかとも思ってしまいます。ただ新型コロナが指定感染症に位置付けられている以上、診断された場合には行政の管理下に置かれてしまうのも医療の偏在化を助長させている一因であるとも考えられます。これは感染症法による2類相当を5類相当に見直すという意見が出ている理由でもあります。

 年末年始は多くの医療機関が休診となり、普通の風邪をひいただけでもかかりつけ医ではなく救急病院に行かなければならなくなります。救急病院でも当直体制ですので、対応できる医師は僅かしかいません。新型コロナが心配だからといって症状もないのに医療機関を受診する方が少なくない中で、高熱のある方だけではなく、症状の軽い方もすべて新型コロナの診療をしている医療機関を受診したらどうなるか、おわかりいただけるでしょう。

 このような事態を極力避けるために東京都は年末年始に診療をする医療機関に対して協力金を支払うことになりました。ただこれは事前登録制で発熱患者さんの診療を行うことが前提となっていますので、当初から診療していないところは対象外となります。協力要請をしている医師会の理事の方々は実際に診療されているのでしょうか?私はすべての休みを返上してもと思いましたが、さすがに私1人ではどうにもならないのでスタッフには給料を倍額にしてできる日に来てもらうようにし、何とか半数の人員を確保した次第です。一昨日から年末の診療をしておりますが、あれほどメディアで公言していたにもかかわらず、問い合わせもそれほど多くはなく、多くの受診者が来られている訳でもありません。遠方から受診した方は地元では検査が年明けまでできないからということで来られていましたが、私のところは年末年始でも検査は可能であり、このあたりも偏在化していると思わざるを得ません。

 年が明けても東京都の感染者はしばらく増加しつづけるでしょう。感染者が増加しつづける限り、重症者の診療を行う医療機関の負担は増すばかりですので、私は微力ながら自院で診療・管理が可能な患者さんは可能な限り断ることなく引き受けています。感染者の多くは一次医療機関での対応が可能であることから、すぐにでも起こり得る可能性がある「真の医療崩壊」を防ぐためにも「水面下の医療体制の偏在化」を是正しなければならないと考えます。

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