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ツアーをするのは簡単じゃない

体力的にも精神的にも経済的にも、ツアーが「簡単」だったことは今まで一度もないと思うが、特に今の世界情勢において、アーティストがツアーをするのはとても難しい状況になっている。

世界的に音楽性も評価され、それなりにファン層も多いと言えるAnimal CollectiveがUK・EUツアーのキャンセルを発表。この投稿はアーティストや関係者、そしてファンの間でも大きな議論を巻き起こし、今「アーティストとツアー」の問題が話題になっている。

自分の仲間の話だけでも、メインアクトのマネジメントが契約に嘘をついてサポートアクトに奴隷のような(ホテル、旅費なし)ツアーをさせたり、サポートアクトがローディー仕事をさせられて休みもなく体を痛めたり、治安の悪い地域で機材を何回も盗まれたり、機材を壊されてショーをキャンセルしたり。さらにぎゅうぎゅうに公演日程を詰めないと赤字になってしまうことも一般的で、体力を消耗するライブの後に休む暇もなく毎日大変な距離を移動が必要になったり、食事も環境も当然ながら安定しないので、身体的にも精神的にも尋常ではない「タフさ」が求められている。さらにコロナ以降はいつクルーの誰が感染してもおかしくない状況である以上、緊迫したムードになりがちだ。

でも、全米ツアーなんて誰もが憧れる夢のような話だから「本音や真相なんて大っぴらにできない」と思う人がほとんどだし、ファンに喜んでもらえたり、世界を旅できるだけでも嬉しいとありがたさを重視するアーティストも多い。だけどこれは持続可能な構造じゃないし、アーティストの負担が大きすぎる。「海外でも注目を集めている」とか簡単に決め台詞としてアーティストに対していうけど、じゃあ実際にツアーするってなった時にどれだけ大変なことか、そして年々非現実的なことになっているのかが全然知られていない。身体的にも精神的にもきついのに「海外で稼いでる」って勘違いされるし。

まともなツアーマネージャーやクルー、メインアクトだったらまだマシなものの、マネージャーがいなかったり、肩身が狭い状況に立たされているアーティスト(特にサポート)は頻繁に搾取されてしまう。その上OA中に喋る観客とか多いから最悪。その「ライブ中に喋る心理」を議論しているスレッドをインディーレーベルのLeaving Recordsが書いている。

日本だったら400円で食べられる蕎麦が、NYCでは3400円。昨日もスーパーに行って、(これ2倍の値段になってるやんけ)と思う食材もたくさんあった。ガソリンも1ガロン8ドルする。物価は上がってるのに、小〜中規模アーティストのチケット代やアーティストに入るギャラは上がらない。

ギタリストのYasmin Williamsが大事なスレッド書いてる。まずそもそもアーティスト同士で、ギャラ金銭やりくりの内訳をもっとオープンにするべきだと。フェスでどういうアクトがいくら貰ってるのか、箱ごとのギャラが具体的にどんな感じか、ツアマネなどに何割行ってるかなど。音楽業界は、アーティストが同じ間違いをおかすことから利益を得ている。どういう状況か、現実がアーティスト同士でシェアされないから(金銭の話をすることはタブーと思われているから)何も変わらない。

L’Rainのサポートやalto paloのメンバーであるBenも葛藤の投稿。 アニマルコレクティブが無理なんだったら一体俺らはどうやって?と。作った新しい音楽をシェアしたいのに、負債のことを考えると不安の方が大きくなる。もっと新しい音楽を作ってもっとライブするべきなのか?抜け道が見えない。

L’RainのTajaもこの議論に関するスレッドを書いてる。グッズを買って支援とかは根本的解決では全くなく、現状の問題点(物価高騰や資本主義全体)を挙げつつ、これがいかに社会全体の問題を映し出しているかについて問題提起。

「ミュージシャンなら、このツアーの議論は特に新しいものではないことを知っている。ただ、戦争、国境、サプライチェーンの問題、観客の減少などなど、古くからの構造的問題の悪化など、現在の社会情勢関連した、多くの理由により悪化している。
構造的な問題:人気バンドには大きな出費があり、小さなバンドは低賃金でオープナーをさせられている(250ドルがスタート料金で、それは永遠に増えていない)。しかし、ブッキングエージェントはあまり儲かっておらず、インディー系のライブハウスも儲かっていない。
「ニューミュージック」や「ジャズ」は、助成金やレジデンシーのインフラが若干整っている。他のジャンルのミュージシャンは、ほとんどツアーとレコーディングでやりくりをしている。私は、新しいファン層をを見つけようとするミュージシャンにとって、ツアーがいかに重要であるかについて懐疑的だったが、それは間違いだった。ツアーは必要不可欠な仕事だが、特権のようなものになってしまっている。
ツアーでお金を稼ぐために、ミュージシャンはマーチ(グッズ)に頼ることもある。持続可能性はさておき、それは不安定でばかげたこと。ミュージシャンは、企業や、ファッション、酒、アート界、テクノロジーなど、よりアクセスしやすいお金の配分をしている他の産業との近接性を見つけることで、稼ぎを得ている状況にいる。
崩れゆく地球やこの業界特有の問題は別として、問題の核心は資本主義、有名人崇拝、その他簡単には解決できない大きなもの。
結局のところ、私が実感しているのは、アーティストであるということは、小規模ビジネスであるということに過ぎないということ。資本主義の下では、企業は生き残るために略奪的で利己的な振る舞いをすることが期待され、奨励されている。音楽業界も同じ。代替案を信じましょう。」

また、海外アーティストからした日本ツアーはどうなのか、という話に関しては、インディー〜中堅レベルのアクトの場合、ほとんどの人が「赤字前提でいいから、日本に行くエクスキューズが欲しいからツアーやフェスのブッキングが欲しい」って考えてる。

当然少しでも多く稼げたらいいとみんな思ってるけど、特に先月くらいまではコロナで入国することさえ困難だったかた、今後も先行きが不安な中で「観光がてら日本にいけたらいい」って感じの人が多い。

「日本は海外アクトからしたらいい市場」というのは、ちょっと前まではそうだったし、ライブやって観光できるし楽しいし安全だからいいけど、 お金を出して見に来てくれる観客が減ったということや、ライブハウスやクラブがコロナで大幅に閉店したことはかなりな打撃になってる。

キャパも感染対策で減ったり、ブッキングが満杯だったりで、なかなか簡単にはいかない。少なくとも「大幅利益」と「ファンの獲得」のためにジャパンツアーをするという、旧来的な価値観では全くやっていけない。経済的にも全員にとって厳しいです。

もちろん、関わる人全てにとってツアーはかけがえのないものですし、多くの人にとって生きがい、そして幸せの源になっている。だからこそ、議論を始めることでより良い環境を作り、将来もいい音楽を作り、届けられるように、守っていかなければならない。


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竹田ダニエル
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