ソーシャルキャピタルを極めたい。
岡山の玉島信用金庫の記事に目が止まった。2022年の4月に、ソーシャルキャピタル課という名前の課が生まれたという。日本でも新たな資本主義という言葉が叫ばれているが、そのキーワードとなるのが、ソーシャルキャピタル=社会関係資本で、人々のつながりや助け合いといった目に見えない資本を示す概念だ。
課の創設の目的は、ソーシャルキャピタルの構築をうたって「地域で支え合う経済を長い目でつくる」というものだ。第一弾は街の飲食店の応援イベントで倉敷駅前の複合商業施設で実施された。第二弾は「個人客から掃除やリフォームといった日々の困り事を聴き、取引先の事業者につなぐ取り組み」を考えているという。その他にも、銀行の駐車場での飲食店の出張販売、認知症予防教室、銀行での子供服のリサイクルなども行なっている。地域で支え合うという考え方にぴったりの取り組みが進んでいる。
こうした人と人とのつながりを増幅させるための道具として地域通貨が使われている例が増えている。埼玉県飯能市では、地域通貨「Hello,againコイン」を24店舗が導入した。一般的な電子マネーとは異なり、「チップを送る機能があり、3カ月以内に使わないと失効する」という仕掛けだ。加盟店の店主は、「アマゾンで検索して1円でも安く買おうとする時代に実際の価格より多く払ってくれる。こんな消費スタイルってあるんだ」と改めて人のつながりを実感したそうだ。
最近は、消費に意味を求める動きがあるという。法定通貨が生み出した「知らない人との取引を可能にする力」が、逆に人とのつながりが希薄化をしているのだ。地域通貨では、買い物をするほどつながりが生まれていく。場合によっては「ありがとう」という気持ちの中で、チップを渡す、高く買うという行動すら起こるのだ。タイムラインへのメッセージや写真は、買う側と売る側双方の気持ちを高める。地域通貨には人と人を繋ぐ力があるのは間違いないと思う。
国学院大学は2022年4月、横浜市に「観光まちづくり学部」を開設した。「地域おこしの観点からみた観光戦略・施策を地元の人と交わりながら練り上げる」という実践的な取り組みだ。「地域を元気にする学問がいる」という想いと、「地域を見つめ、地域を動かす」という理念を掲げて、「旅行会社やホテルなど観光産業中心の「外からのお客さん目線」ではなく、「内から見たまちづくりの観点」を重視する」という。正に、地域に入り込んで人と人のつながりを増幅させる挑戦をしているようだ。
学生からは「街の見方が変わった」「普段からまちに意識が行くようになった」と、熱心に取り組む姿勢が窺える。既にソーシャルキャピタルを体系的に学ぶ場として機能しているようだ。人と人とのつながりをつくり、商売と商売を繋げる。更にはその地域ならではを言語化して、観光として売り出していく。最先端のデジタルの力も使いながら、地域おこしを自律的に進められる人材をどんどん輩出して欲しいと思う。
この数十年、人と人の繋がりは、資本主義の急速な進展や都市化の波でどんどん希薄化した。富は偏り、支え合うではなく、弱者と強者の分断が進んだ。通貨の流通速度も、半分以下に下がり、お金は強者の下に集まり、使われていない。今こそ、ソーシャルキャピタルを大事にすべき時だと思う。一物多価の世界、物々交換の盛んな世界、買い合う世界、祭りの賑わいのある世界など、古くから日本には強固な人と人のつながりがあった。もう一度、人と人のつながりに焦点を当てて、支え合う、買い合う文化を盛り上げていきたい。人材や道具立ても揃ってきた。さあ、これからの日本が楽しみだ。