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「脱・年功序列」に向けた3つのステップ。魅力ある成果主義制度が人材獲得競争に勝ち抜くために必要不可欠。

皆さん、こんにちは。今回は「年功序列制度」について書かせていただきます。

これまで日本のビジネスパーソンの働き方を守ってきた年功序列制度は、近年では成果主義や実力主義の流れもあり、若手を中心に“働きがい”の低下を招く一つの要因になっています。

「一定の役職に辿り着くまでに何年もかかる」「同じ社歴ならば、能力に関係なく全員同じ役職と同じ給料」「“20代で管理職”にというのは現実的には起こらない」といった状況では、どんなに安定した大企業であっても、優秀な人材に選ばれなくなってしまっているということになります。

NTTが年功序列の人事制度を刷新する。管理職ではない社員を対象に、基準を満たせば入社年次や年齢に関係なく早期に昇格・昇給できるようにする。20代で課長級の役職への抜てきも可能にする。IT(情報技術)分野を中心に採用競争が激しく、優秀な人材の確保には制度の見直しが不可欠と判断した。伝統的な大企業でも実力主義を徹底する。

■脱・年功序列が進む理由

高度経済成長期に日本に定着した「年功序列」。年齢や勤続年数によって給与が上がる仕組みは、企業にとっては、定着率の向上や評価のしやすさというメリットをもたらし、従業員にとっても将来の人生設計がしやすく安定して働くことができるという、双方にとってプラスに機能する制度でした。

長い間日本企業においてスタンダードとされてきた年功序列制度が少しずつ崩れ始め、成果主義に移行している背景には、以下のような理由があります。

●グローバル化が進み、海外企業との競争によって人事制度をグローバル基準にする必要が出てきた
●市場や技術の変化スピートが早く、従来の制度ではリーダー育成に時間がかかりすぎてしまう
●経験の長さよりも、変化に対応できるリーダー人材が重要になってきた
●高齢化に伴って、年功序列ルールにおいては会社の人件費が増大することになる
●転職市場が活性化し人材の流動化が進む中、長期雇用を前提とした制度はマッチしなくなってきた
●大企業でも早期退職や希望退職を募る企業が増加するなど、日本経済の低迷により、終身雇用制度が崩壊してきた
●多様な働き方の普及により、年齢に左右されず個人の実力を発揮しやすい環境が整備されてきた
●働き手が一つの企業で定年まで勤め上げるという考え方ではなくなってきた
●従来型の制度よりも、より公平に評価をしてもらえる成果主義を支持する人が増えてきた

スタートアップやベンチャー企業など、最初から若い人材を中心とした組織であれば、いきなり成果主義を導入することは簡単です。むしろ昔ながらの年功序列制度を今から導入しようとする企業の方が少ないでしょう。

ですが、古くから年功序列制度を確立させていた大企業でも年功序列を廃止し、高いパフォーマンスを発揮する従業員に好待遇を提示する事例が増えています。労働市場の流動化が進む中、優秀な人材を採用し、定着させるためには、魅力ある成果主義制度を提示して人材獲得競争に勝ち抜くことが必要不可欠なのです。

■年功序列廃止を進めるためのポイント

引用した記事には、

能力に応じた処遇を徹底することで、中途採用もしやすくなるとの期待もある。これまでは年功序列的で実力を公平に評価されないとして、優秀な人材を取りこぼすことも少なくなかった

とあります。

多くの歴史ある大企業では「勤続年数」を考慮し、等級が上がるには「在任年数」の目安があり、一段階等級が上がると、次に上がるまで数年は必ず必要と決められています。そうなると、実力のある人材がトントン拍子に昇格していくということはまずあり得ないということになります。「実力が公平に評価されない」「能力に応じた大胆な抜擢がない」という不満の声は、時代の変化とともに増えてきているのではないでしょうか。

実際に年功序列を廃止しようとすると、大きく以下3つのステップが必要になってくると思います。

① 「成果」で評価すること
→人事制度には、年功序列の「年齢主義(年齢が高くなるほど給与が高くなる)」をはじめとして、「能力主義」「成果主義」「職務主義(ジョブ型)」など様々な考え方がありますが、「何を最も重視して評価をするか」次第で、評価制度も人事制度も異なってきます。「脱・年功序列」のためには、まずは「成果重視型」の評価制度を設計するということから始めなければいけないと思います。年齢、勤続年数、過去の功績などは一度評価の対象からは除外して、「成果」や成果を出すためにどのような「プロセス」を踏んだかというその行動を見て評価しなければなりません。

能力がある人は、目標を達成するために行動を起こすので、仮にあらゆる外部環境によって成果がすぐに出なくても、現在どのような行動をとっているかもセットで評価することで、年齢や勤続年数に関係なく、会社の価値創造を行ってくれる人材を正当に評価することができるようになります。これが年功序列から脱するために最初に抑えるべきポイントとなります。

② 社員の評価において何を重視するかを決めること
→「成果主義」「成果重視型」と一言で言っても、その中で何を重視するのかは企業によって異なります。仕事における「役割」や「働き方」、「仕事に対する姿勢」や「組織貢献度」、「能力の発揮度」などを重視する企業もあれば、「社員自身が設計した目標や役割に対する評価」を重視する企業もあります。欧米型のジョブ型に近い「職務を明確化した上で遂行状況や成果に対してのみ評価」する企業もあります。年齢や性別、勤続年数などといった属人的な要素ではなく成果で評価していくには、なぜ年功序列制度を廃止するのか、何を社員に求めているのか、今後は何を重視して評価していくのかを明確に伝えていく必要もあります。

③ 若手を抜擢する事例を増やすこと
→「年功序列制度を廃止」と明確に宣言する企業でも、実際には若手社員の管理職登用が進んでいないことが多いです。単純に定義した昇格基準を満たしていないケースもありますし、能力や成果が基準を満たしていても長年染みついた社内の文化によって「若手に何ができるんだ」という風潮があるのかもしれません。そのような場合は、若手抜擢の事例を増やしていくしか解決策はないと思います。管理職に求められる能力は、年々上がっています。組織の課題や目標設定など、社員の能力や価値観の多様化に伴い、必要な能力は高度で複雑になっているのです。若手社員に管理職の魅力や重要性を伝え、管理職を目指すべき動機付けを強める努力も必要です。

■若手抜擢を進めるには。

このように、課長職と部長職を公募制にして、年齢に関係なく能力のある人材を適切なポストで処遇する事例も出てきました。

こちらも課長職登用にあたって、ポストは社内公募の対象となり、年齢不問で応募できるようになっているようです。

その他、入社年次による人材管理がメインの企業においても、管理職になるまでの期間を従来よりも短縮させたり、所属部署の推薦で20代でも管理職相当の仕事に就ける制度を導入するというような事例が出てきています。評価制度の中に年功序列的な要素を撤廃し、ポストごとに定められた職務レベルに応じて報酬と評価を決める形にしている会社もあります。

大事なのは、「若手だから抜擢する」のではなく、「能力や成果、人物像など、それぞれの企業の管理職登用基準に合致した人材を抜擢する」ことです。

そのためには、以下3点を意識すると良いと思います。

●評価基準や評価方法をオープン化
→評価基準を明確にした上で抜擢を進めることで、抜擢人事に対して本人や周囲の納得感を高められます。また、どうなれば次のステップに進むのか、自分には何が足りないのかを自覚してもらう上でも、評価基準を明確にしていくことは不可欠です。

●ストレッチアサインメント
→企業が定める評価基準にもよりますが、大きな役割や責任を担うには「まだ早い」「まだ若い」とばかり言っていても抜擢は進みません。現在の実力では達成困難と思われる役職やポジション、ミッションをあえて任命していくことで、急激に成長することは多々あります。

●若手が活躍しやすいミッションセット
→若手社員に限りませんが、「期待をかけ続け、成功体験によって自信をつけてもらい、より大きなチャレンジをしてもらう」、場合によっては「チャレンジの結果、失敗したとしてもそこから学び次に活かしてもらう」というこのループは人材育成において大切なことです。仕事内容や事業領域、チーム構成など、若手が活躍しやすい環境があれば、そこにどんどん若手社員をアサインしていくことが大事です。


抜擢人事を実現する大きな目的の一つは、「優秀な若手の離職を防止するため」です。一人前になるまでの下積みの長さや、年功序列の社風に嫌気がさし、外資系企業やスタートアップへ転職する若手社員は少なくありません。また、会社の規模が大きくなればなるほど、事業の難易度が上がれば上がるほど、若手に任せられる裁量の範囲も通常は限定されていきます。そうなると成長実感を得にくく、組織全体にも閉塞感が漂ってしまいます。

若手抜擢は、健全な競争環境を醸成し、次世代リーダーの育成や組織活性化だけでなく、社員のモチベーション向上や組織全体の変化対応力向上などの効果もあり、結果的に業績にも直結してきます。若手社員に対して、リーダーシップを発揮する“きっかけ”を意図的に作り、期待をかけ続けることで、年齢に関係なく挑戦できる環境や風土を整備していくことが第一歩だと思います。

■「実力主義型終身雇用」という選択肢

管理職に対しては、職務を明確にしたジョブ型の人事制度を21年10月に導入した。一般社員を対象にした今回の制度は、ジョブ型ではなく職務を限定しない「メンバーシップ型」と位置づけている。原則的に降格はなく終身雇用が前提だ。ただ、専門性を重視することで実力主義を組織に浸透させることを狙う

当社では、ミッションステートメントという行動指針の中で「有能な社員が長期にわたって働き続けられる環境を実現」と掲げており、「実力主義型の終身雇用」の実現を目指しています。

1998年に創業後、約3年ほどは離職率が30%以上にまでなってしまった時も数年ありましたが(※現在は8%)、早いタイミングで「終身雇用の会社にしよう」と決め、福利厚生の整備や退職金制度の制定などを進めていきました。2000年代は特に、IT業界は人材流動性が高く、社員が定着しにくい状態がどの会社にもありましたが、終身雇用に懐疑的だった社員の会社に対する信頼も上がり、長く会社に貢献していこうと考える人が出始めました。

一方で、実力主義・成果主義の会社でもあります。どんどん若手を抜擢し、内定者でも入社1年目でも子会社の社長を任されるという事例もあるような、「年功序列は一切禁止」の社風です。かと言って、終身雇用に甘んじて会社にぶら下がるようなフリーライダーを増やしたいわけでもありません。「実力主義型終身雇用」という、一見矛盾するものをどちらもセットで実現することを目標にこれまで組織マネジメントに注力してきました。

社内では、年上の部下がいることも、勤続年数が短い人がすぐに抜擢されることもよくあることです。そのため、評価の硬直化を招くことも、年齢を理由に不公平な評価を受けることも、仕事を全くしない高給取りのベテラン社員を横目にやる気を失うこともありません。

ただ、当社のようなもともとベンチャー企業で(1998年創業)、20代30代の若い社員を中心にこれまで会社を大きくしてきたような会社だからこそ成立している部分もあります。若手が活躍できることが当たり前の文化の上に、成果主義が機能しているのです。

まずは、企業文化の上に人事制度や評価制度を乗せていくべきであって、いきなり成果主義だけを導入しても、その企業の実態に即していない場合や、企業文化がそれに適応しきれない可能性が高い場合はうまくいかないことが出てきたり、社員にとっての不利益につながってしまうため、十分注意が必要です。


最後に、「年功序列」の廃止がそのまま企業の成長につながるわけではありません。バブル崩壊をきっかけに日本でも導入が進む「成果主義」ですが、人件費の抑制や生産性向上、社員のモチベーション向上に寄与する一方で、当然課題もあります。年功序列や終身雇用は批判されがちですが、成果主義と同じようにメリットも多々あります。

ですが、市場環境や働き方、働き手の価値観の変化に合わせて、雇用制度も変えていく必要があることは明白です。大企業を中心に続々と事例が出てきている「脱・年功序列」の動きに、これからの日本企業がどのような手法で競争力を高めていくべきなのか、そのヒントが隠されているのかもしれません。


#日経COMEMO #NIKKEI

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