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世界一高いタクシー業界を変革するライドシェア解決策

 コロナ以前の活況に戻りつつあるインバウンド旅行者の中でも、日本の評判が悪いものに「タクシー料金の高さ」がある。ある中国人インフルエンサーは、東京お台場から新宿までタクシー移動した際に7560円の運賃がかかったことを報告している。日本のタクシー運賃は、北京や上海と比較しても6~8倍も高いため、気軽に利用してはいけないと日本への旅行者に対してアドバイスしている。

世界的な空港送迎のオンライン予約サイト、Taxi2Airport.comの調査でも、日本のタクシー料金は、スイスに次いで世界2位の高さとなっている。ただし、地域によっても料金体系は異なり、広島空港から市内中心部まで移動すると料金は165ドルとなり、世界で最も高いとしている。

Taxi2Airport.com

世界各都市のタクシー料金は、国の規制、地域人口、公共交通機関の普及状況によっても異なっている。中国では都市内の移動手段としてタクシーが頻繁に利用されており、地方からドライバーの求職者も多いため、料金が上がりにくい。さらにオンライン配車アプリの普及により、料金の引き下げ競争が起きている。それと同じ感覚で、日本旅行でタクシーを利用すると痛い目に遭うというわけだ。

一方、日本の首都圏は電車や地下鉄、地方はマイカーによる移動が主体であるため、タクシーの利用は「特別な場合のみ」という需要の減退により、国交省の統計によると、国内のタクシーの輸送人員は1990年代には年間50億人を超していたが、現在は13億人を割り込んでいる。それに伴い、タクシー車両の数も減少して突発的な需要増に対応できなくなっている。料金は1990年代よりも1.5倍も上昇しているため、日本のタクシーは利用しにくくなるばかりだ。

東京のタクシー2023(東京ハイヤー・タクシー協会)

タクシー業界は「安全性」を盾として異業種の参入を阻んでいるが、現状のタクシードライバー(約26万人)は、平均年齢が60歳を超している。70歳以上の高齢ドライバーも全体の3割を占めているため、運転中の健康状態による安全面の不安は高まっている。

利用者側でも、今後は運転免許を返上する高齢者が急増することになる。高齢者が重い荷物を持ちながら電車やバスを利用するのは不便であるし、地方では車がなければ生活できない地域も多い。しかし、現状のタクシーは料金が高すぎて日常の移動手段とすることは難しい。こうした状況から、国もようやくライドシェア導入についての舵を切った。タクシー業界の変革は急務の課題であり、次々と規制緩和が行われていくことは間違いないが、その時にどんな新サービス、ビジネスチャンスが生まれてくるのか。

【シニア向けライドシェアの開発視点】

 米国でも、マイカーの運転を引退した高齢者向けのライドシェアサービスを充実させることが社会的な課題となっている。Uberや Lyftでも、スマホアプリの操作に不慣れな高齢者が、電話による配車予約ができるコンシェルジュサービスを用意しているが、それよりも根本的な問題として、ライドシェアを日常の移動手段として使うには、料金が高すぎることがある。

南カリフォルニア大学(USC)が行った調査によると、運転を引退した高齢者がライドシェアを利用する1回あたりの平均料金は22ドルで、月間の利用料では平均500ドルになる。しかし、この料金体系は高すぎるため、高齢者の5分の1は「ライドシェアを利用しない」と回答している。

しかし、移動手段が無くなることは社会的孤立者を増やすため、解決策が必要になる。USCでは、慢性的な持病を抱える150人の高齢者に対して、ライドシェアサービス(Lyft)が使い放題となる無料利用権を3ヶ月間与える実験をしたところ、93%の高齢者は Lyftを頻繁に利用して、スマートフォンの使い方にも慣れるという二次的なメリットも確認できた。

高齢者のライドシェア利用の31%は通院が目的だが、それ以外でもフィットネスクラブ、友人との交流、レジャー活動などにも利用されており、日常生活の質と幸福度が向上したことが報告されている。つまり、高齢者に無制限の乗車権を与えると、健康状態の改善に繋がる可能性がある。

Free rides could lead to better health outcomes for seniors(USC)

Uberや Lyftでも、毎月数十ドルの定額料金を払うとライドシェアの乗車料金が15~20%割引になるプランを用意しているが、無制限で乗り放題になるわけではない。高齢者の乗車料金負担を下げる試みとしては、行政による割引クーポンの発行や、医療保険の中で、通院で利用するタクシーやライドシェアの料金までをカバーするプランも検討されているが、米国でも完全な「定額乗り放題」の実現までには至っていない。

しかし、高齢者の移動距離や移動回数は極端に多くはないため、利用データの分析により、タクシー会社やライドシェア業者にとって採算が合う条件と、高齢者の月額料金負担が重くなりすぎない妥協点を見つけることが急所になる。

日本では、2020年11月から国土交通省が、タクシーの「一括定額運賃」についての認可を開始して、各地で実験的なサービスが立ち上げられている。
先行事例として、福島県の郡山観光交通では、郡山市南部の安積町在住者に限定した定額乗り放題タクシー「定額タクシーヤマグチくん」が2020年12月から行われた。

安積町(あさかまち)は、約3km四方に3万4千人が住んでいる。町内にはスーパー、銀行、診療所などはあるが、大きな買い物や病院は、およそ4km離れた郡山市内まで出るという立地だ。「定額タクシーヤマグチくん」では、安積町在住者を会員とした、安積町内乗り放題プランを月額10,000円、郡山市内まで乗り放題のプランを月額33,000円に設定している。ただし、乗車は単独ではなく、複数会員が同乗する相乗り型となっている。

従来タクシーの相乗りについても、国土交通省が運用を認める通達を2021年11月に出している。それにより、配車アプリが目的地の近い客のマッチングを行い、それぞれの出発地から目的地まで、ドアtoドアの送迎を割引料金で行うことが可能になっている。これを通称「シェアタク」として国交省は普及させたい方針だが、複雑な条件のマッチングが行える配車アプリの開発投資が必要なことから、中小のタクシー会社単体での導入は難しいことが課題となっている。

郡山市の乗り合いタクシーモデル

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