G20を終えて~リブラは「終わった」のか。その意味は~
リブラを「終わった」のか
18日、閉幕したG20はフェイスブック社の暗号資産「リブラ」に対し、痛烈なNoを突き付けました。G20から発表された「グローバル・ステーブルコインに関するG20プレスリリース」の読み方は色々ありましょうが、「基本的には認めない」というトーンで書かれているように見受けられます。なお、同時期にワシントンで開催されていたIMF・世銀年次総会の関連会合に出席したルメール仏経済・財務相からはリブラ発行の阻止に向けて欧州主要国が協力していると明らかにしました。同相は独仏伊の3か国が今後数週間のうちに禁止に向けた一定の措置を取るとまで述べています。「リブラは欧州で使わせない」という強い意思表示と見受けられます。さらに、同じタイミングでJPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)は、やはりワシントンで開催されていた国際金融協会(IIF)でのイベントで「リブラは決して実現しない良いアイデアだった(It was a neat idea that’ll never happen)」と、もはや「終わったこと」のように切って捨てています。
「システム上、大きな影響を与え得る」
G20のプレスリリースには「システム上大きな影響を与えうる」ことを問題視しているとの表現がありましたが、「システム」や「大きな影響」が具体的に何を指しているのか定かではありません。それは真っ当に考えれば金融システムなのでしょうが、金融システムへ大きな影響を与え得る要因は多岐に亘り過ぎます。例えば、リブラが本格的に流通すればリブラ協会は巨大なバイサイドになるので、中央銀行からすれば投資家として捨て置けない存在になるのは間違いないでしょう。リブラ協会は振り込まれた資金で国債などの安全資産を購入するのだから量的緩和を実施している国の中央銀行にとっては「買うものが無い」という状況に繋がりかねません。適切な金融政策の波及経路を阻害する存在と見なされれば、「システム上大きな影響を与えうる」との認定は十分食らう可能性があるでしょう。私はマクロをみるエコノミストですが、分野の専門家を変えれば、他にいくらでも指摘する論点は出てきそうです。
新興国にも支持されなかった
なお、元をただせばリブラはunbankedと呼ばれる金融サービスにアクセスできない層に安価で利便性の高い決済手段を提供しようという金融包摂の精神を出発点とする社会貢献的なプロジェクトの側面も喧伝されていました。しかし、G20にはunbankedを多く抱える新興国も多数加盟している。結局、最大の受益者を抱えるはずのそうした国々からも支持されていないところに、プロジェクトとしての根回しの悪さを感じざるを得ません。
リブラプロジェクトの意味も
とはいえ、リブラプロジェクトにも一定の意味はあったと言えるでしょう。国際経済外交の最高峰とも言えるG20という場において主要議題としてグローバル・ステーブルコインが設定されたことの意味は小さいとは思えません(もう1つの主要議題は国際租税であったのですから、相当な「格」です)。既存の法定通貨とこれを軸とする決済システムについて「改善の余地あり」という問題意識を惹起したという意味で、まだ今年6月の発表から5か月程度しか経過していないリブラプロジェクトは相応に大きな爪痕を残したという評価も与えられるでしょう。
今年7月、リブラ開発責任者でありフェイスブック幹部のデイビッド・マーカス氏は米議会の公聴会に際し、「我々がやらなくても誰かがやるだろう」という趣旨の発言を残しました。既存の為政者やこれを利用する市場参加者などにとって、効率的な世界の可能性を求める可能性を提示したという意味は認められるのかもしれません。ただ、それが元々個人情報保護の問題などで信用を落としているフェイスブックだったというのが本プロジェクトの痛いところでした。