ロシアはウクライナへ侵攻?との数々の記事を読んで思うことーちっともフェアに見ている気がしない。
ウクライナの緊張感に加え、バルト海沿岸国も対ロシアに神経を尖らせているとの1月25日付けの記事が掲載されています。スウェーデンも派兵したようです。さて、このような記事をどう読めばよいのでしょうか?
1月25日、日経ヨーロッパ社が主催したウェビナー「欧州駐在記者・公開座談会ーー2022年欧州の展望」を聞きました。そこで赤川省吾編集委員の発言が気になりました。趣旨は以下です。
「現在、ロシアがウクライナへの侵攻するか否かの報道が多いが、英米メディアの情報戦の色彩が強い。まず外交協議のゆくえを見守るべき」
このモスクワ特派員の記事のなかにも以下の文章があります。
ゼレンスキー大統領に至っては19日、国民への呼びかけで米国政府や米英メディアによる再侵攻の情報を「フェイク(偽ニュース)」と呼んだ。
この真偽のほどは、ぼくには確かめようがありませんが、2つのことを思い起こしました。
一つは「情報戦」にまつわることです。
「情報を制する国が勝つ」とはどういうことか――。世界中に衝撃を与え、セルビア非難に向かわせた「民族浄化」報道は、実はアメリカの凄腕PRマンの情報操作によるものだった。国際世論をつくり、誘導する情報戦の実態を圧倒的迫力で描き、講談社ノンフィクション賞・新潮ドキュメント賞をW受賞した傑作!
それまでも、こういうことはあるだろうとは素人ながらに想像していましたが、この本では、1990年代のボスニア紛争があまりに一方的にセルビアを悪者にした仕掛けがリアルに浮き彫りにされています。「(倫理的に)こりゃあないだろう!」と思う一方、広報マンの情報操作のうまさに舌を巻きました。
この情報操作が、今回のロシアをひたすら悪役に仕立てあげる報道にも活用されているのだろうか?と数々の記事を読んで思っていたのです。それで赤川編集委員の発言が印象に残ったわけです。ロシアや東欧の言語をぼくは読めないので、どうも自分の視点が「西側寄り」になるのに気をつけないと、と感じます。
二つ目は、前述に絡み、旧ソ連圏の東欧の国々の人々の「本音」がよく分からないことです。
ベラルーシ政府はロシア寄りであると思っていたら、サイバー攻撃でロシア軍の撤収を要求しているハッカー集団があるとのニュースは、これも西側に資するとの意図があるのではないか?と考えてしまいます。
ぼく自身、東欧の国々の人を友人として知っていますが、彼ら・彼女たちは旧ソ連時代の社会に戻りたくないと強く語ります。しかしながら、そういうタイプだからこそ、母国以外の人たちと積極的につきあうのではないかとも想像しています。例えば、BBCやCNNなど英米メディアの取材に英語で答えている人たちは、その社会のなかでの「本音」とは少々距離があるだろうとの前提で考える必要があります。
東欧諸国、それもEU加盟国の東欧諸国にあってもEUの西側諸国とかなり感覚や考え方が違っているのは、2015年の難民危機に対する向き合い方ではっきりしました。EUが各国に難民受け入れ配分を示したとき、東欧諸国は断固反対しました(そこにはさまざまな動機が窺え、その一つに西欧のような過去への罪悪感をかかえていないから、難民の受け入れを拒否できるーダグラス・マレー『西洋の自死』)。こうした例をみても、今回のロシアを巡る動きに対する考え方は、それぞれの国の言葉が分からないと、腑に落ちるレベルで理解しづらいと想像する根拠になっています。
まったく別の観点からも一言。
もう少し時間を遡れば、ぼく自身、前世紀終わりから今世紀に入った頃、EUやNATOの広がりについて、「あれ、こんなにずかずかと行っていいのだろうか?」との疑問がありました。以下は1月21日、日経新聞電子版にある「緊迫するウクライナ情勢 ロシア、なぜここまで強硬?」の記事中の地図です。
冷戦が終結し、西側の勝利はすべてはフラットになるとの想いを促し、旧ソ連圏の国の人たちも、あの時点では西側と共同歩調をとるのが新しい世界をつくるにベストだと思った。あの時点の心情と判断としてそうなのですが、一気に勢力図が書きかえられた違和感は、ぼく自身、ありました。ですから、ロシアのプーチン大統領の恨み節も想像はできます。
プーチン氏は昨年12月、東欧諸国を加盟させないというNATOの約束が過去に破られてきたとして「ひどくだまされた」と恨みを口にした。2000年代初めまでは米ロは融和に向かうかに見えたが、プーチン政権は米欧への反発を強めていった。
要するに、イケイケドンドン路線のツケがきたわけで、その弱みを隠すために「いろいろと情報がかき集められている」感がするのが、まったくの素人の感想なんですね。
ところで、ウクライナも遠いしなあくらいにしか思っていない方は、以下の記事を読んでおくと良いと思います。中国と台湾の関係に波及するとなれば、ビクッとするでしょう。
余談ながら、いつもよりたくさんの記事を引用してしまいました。でもね、今、日経新聞電子版の「国際 ヨーロッパ」をクリックすると、記事が充実しているんですよ。よく「日本にいると、ヨーロッパのことが報道されないから、みんなヨーロッパのことを知らない」と話す人が多いです。だが、この「国際 ヨーロッパ」を1か月でも毎日読んでいれば、「こんなにも報道されていたんだ!」と現実を知るはずです。
写真©Ken ANZAI
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