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タイパ全盛の世の中だからこそ、不便であるからこそ得られる便益を考える

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

現在の技術革新は、課題を解決することで進歩してきました。手間がかかる、遅い、大量の労力を要する等々、「面倒くさい」「不便」を解消するものに価値がつき、そのサービスや技術が売れる。そのようなエコシステムがまわっているからこそ今日の経済発展があります。

インターネットの発展により世界規模の大きなプラットフォームができ、新たなサイバーエコシステムがまわっています。そこから生み出されるコンテンツやサービスは膨大なものとなり、可処分時間の奪い合いが起きています。結果として若い世代を中心に「タイパ」(タイムパフォーマンス)を重視する行動様式が生まれ、以下に効率的に自分に合う情報を処理するかということにこだわるようになりました。

一方で私たちの生活の中では、そんな効率重視の考えだけでは説明できないようなことを愛でる文化もあります。例えば、コーヒー好きの人がいちいち豆から挽いてハンドドリップするようなこと。タイパを重視するのであれば全自動のコーヒーメーカーも選択できるのに、手間ひまかけて自分のための一杯を丁寧に抽出する。味だけでなくそのプロセスすら楽しむということも、私たちはしています。

このような人の不思議な感覚を研究している人々がいます。

不便なのに、なぜかやってしまう――。私たちが日常で感じていることを、研究している人たちがいる。「『不便であるからこそ得られる益』を『不便益』といいます」。京都先端科学大学工学部教授で、システムデザインを研究する川上浩司さんは話す。「小学校の下校のときに、『白い線の上だけ歩いて帰ろう』ってやりましたよね。自分で不便を課す。なのに楽しい。これが、みんなが経験している不便益です」

不便益とは、1998年に川上さんの師匠で当時京都大学教授だった片井修さんが生み出した言葉だ。その考え方に触れるうちに、川上さんも不便益研究の道に。ちょうどそのころ、製造業では、流れ作業の「ライン生産方式」から、一人や少数で複数作業をして完成まで組み立てる「セル生産方式」が相次いで導入された。「メーカーは多品種少量生産に対応するため『仕方なく』というけれど、働く人に聞くと『僕、あれを一人で組み立てられるんですよ』とうれしそうにいう」(川上さん)。作業は複雑になっても、やる気が上がる側面があるのだ。

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面白いのが、工学系の研究者の方々がこれを考えていることです。工学の研究と言えばロボットですが、普通これはものすごく役に立つものです。人にはできないスピード・効率で作業をする、複雑な工程も24時間間違えることなくやり続けられるなどです。記事で紹介されている豊橋技術科学大学の岡田教授は人を見ると近づいてくる「ゴミ箱ロボット」を開発しています。というと、ゴミを見つけて自分で拾って部屋をきれいにしてくれるようなものと想像しそうですが、なんと近づいてきてわけのわからない声を発するだけです。「他力本願」かつ周りの人の想像を促す(なにをしてほしいんだろう?)ことで、目的を達成するデザインになっているというのです。

ロボットの研究開発では、能力や機能の高さが注目されるが、岡田さんは「僕たちのロボットは環境と一緒になって何かをなし遂げる。自己完結せず、周りや人に委ねる」と言う。それは不完全とも捉えられるが、周囲と豊かな関係性が生まれ、周りの人の能力を引き出す。「不完全なものを不便と考える人もいるけれど、それによって生まれるメリットも多くある」

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私の大好きなアーティストのひとりに、荒川修作さんがいます。彼がパートナーのマドリン・ギンズさんと共につくりあげた体験型アート作品である「養老天命反転地」。「公園」として考えると信じられないようなつくりで、あえて水平や垂直の線を排除して人間の平衡感覚や遠近感といった当たり前の感覚を混乱させる仕掛けが満載です。

これも固定概念からすると「不便」な公園になるのでしょう。しかし、遊びを通じて筋力や平衡感覚を鍛えるという本来の目的という意味では、こっちのほうが理にかなっているのかもしれません。


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タイトル画像提供:Pozdeev / PIXTA(ピクスタ)


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