タイパ全盛の世の中だからこそ、不便であるからこそ得られる便益を考える
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
現在の技術革新は、課題を解決することで進歩してきました。手間がかかる、遅い、大量の労力を要する等々、「面倒くさい」「不便」を解消するものに価値がつき、そのサービスや技術が売れる。そのようなエコシステムがまわっているからこそ今日の経済発展があります。
インターネットの発展により世界規模の大きなプラットフォームができ、新たなサイバーエコシステムがまわっています。そこから生み出されるコンテンツやサービスは膨大なものとなり、可処分時間の奪い合いが起きています。結果として若い世代を中心に「タイパ」(タイムパフォーマンス)を重視する行動様式が生まれ、以下に効率的に自分に合う情報を処理するかということにこだわるようになりました。
一方で私たちの生活の中では、そんな効率重視の考えだけでは説明できないようなことを愛でる文化もあります。例えば、コーヒー好きの人がいちいち豆から挽いてハンドドリップするようなこと。タイパを重視するのであれば全自動のコーヒーメーカーも選択できるのに、手間ひまかけて自分のための一杯を丁寧に抽出する。味だけでなくそのプロセスすら楽しむということも、私たちはしています。
このような人の不思議な感覚を研究している人々がいます。
面白いのが、工学系の研究者の方々がこれを考えていることです。工学の研究と言えばロボットですが、普通これはものすごく役に立つものです。人にはできないスピード・効率で作業をする、複雑な工程も24時間間違えることなくやり続けられるなどです。記事で紹介されている豊橋技術科学大学の岡田教授は人を見ると近づいてくる「ゴミ箱ロボット」を開発しています。というと、ゴミを見つけて自分で拾って部屋をきれいにしてくれるようなものと想像しそうですが、なんと近づいてきてわけのわからない声を発するだけです。「他力本願」かつ周りの人の想像を促す(なにをしてほしいんだろう?)ことで、目的を達成するデザインになっているというのです。
私の大好きなアーティストのひとりに、荒川修作さんがいます。彼がパートナーのマドリン・ギンズさんと共につくりあげた体験型アート作品である「養老天命反転地」。「公園」として考えると信じられないようなつくりで、あえて水平や垂直の線を排除して人間の平衡感覚や遠近感といった当たり前の感覚を混乱させる仕掛けが満載です。
これも固定概念からすると「不便」な公園になるのでしょう。しかし、遊びを通じて筋力や平衡感覚を鍛えるという本来の目的という意味では、こっちのほうが理にかなっているのかもしれません。
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タイトル画像提供:Pozdeev / PIXTA(ピクスタ)