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環境技術に注力する欧州の今

欧州と日本のスタートアップエコシステムの違いに関して聞かれることが多いのですが、その際によくお伝えしているのが、欧州はClimate Tech(再生可能エネルギーなど、地球温暖化の緩和に貢献する技術を核としたスタートアップ)の存在感が日本よりはるかに大きいということです。そんな欧州の現状を象徴するかのようなデータが先日発表されました。今年の1月から3月までの資金調達額Top10です。

2024年第一四半期調達額Top10

データ出典:

ボルボ傘下のPolestarが入っていることはちょっと疑問ですが、基本的にはみなスタートアップで、ご覧のように、調達額Top10のうち7社がClimate Techです。2010年代は明らかにFin Techが欧州の中心でしたが、洪水や山火事など身近に感じる地球温暖化の影響に加えて、ウクライナ戦争によるエネルギーコストの超高騰もあり、イノベーションの軸がどんどんClimate Techの方に移ってきています。

コロナ期間中と比べてDebtによる調達が劇的に増えているのは万国共通のようですが、いずれにしても個々の調達額が日本と比べ桁違いに大きいです。中でも2位のH2 Green Steelは、従来の手法よりも95%のCO2削減を可能にする製鉄技術を展開する企業で、なんと創業4年目にして7800億円近い調達ですから、驚異的です。

そして、これらの企業に共通しているのが、環境へのインパクトがありつつ、しっかりと地に足のついたユニットエコノミクスを持った企業であること。言い換えると、環境保護の理想論を唱えるだけではなく、ちゃんと儲けを出している、ないし将来的に儲けの出る仕組みになっているということです。

例えば、1位のNorthvoltは、Tesla出身のメンバーが立ち上げた「世界一環境に優しい蓄電池」を製造する企業ですが、製品の素材や性能そのもの以上に、製造過程での環境負荷を下げるという点に非常に力を入れていて、フォルクスワーゲンやBMWといった自動車メーカーはもちろん、風力世界大手のVestasやシーメンスといった錚々たる企業と取引があります。Dealroomなどを見て頂けると分かりますが、創業9年目にしてすでに物凄い売上があります。

私はこの、Climate Techがちゃんと儲かるというのが、欧州の特徴であり、日本に対してだけでなく、アメリカに対しても優位性を持てる理由だと考えていて、日本のスタートアップが欧州に進出すべき理由でもあると思っています。

儲かるためには製造工程からビジネスモデルまで、全てにおいて利益を意識する事業設計が何より重要なのは当然として、やはり欧州が他の地域と違うところはその市場性で、地球温暖化を少しでも和らげるためであれば多少高くてもお金を出すという消費者のマインドが大きいように思います。日本では殆ど知られていないB-Corporation認証(企業のサステイナビリティへの取り組みを認証する仕組み)も、欧州では大きなマーケティングバリューがあり、売上を底上げする効果があります。企業が投資すべき対象として、Climate Techの確固たる市場が出来上がっているのです。

消費者のマインドだけでなく、国やEUの規制や税制度においても、環境負荷軽減を意識すべき設計がなされ、環境対策と市場原理を上手に連携させて成果を出しています。結果として、Climate Techにとって欧州がどこよりも儲かるエリアとして突出し始めており、世界中から人材とお金が流れ込んできているのです。

日本でも、大学の研究成果を活かすような形で、優れたClimate Techの技術は生まれているように思います。しかし、日本市場だけでは伸びしろが少なく、そのポテンシャルを活かしきれていません。そういったスタートアップの方々には、ぜひ欧州に目を向けて、圧倒的な成長可能性に気付いてもらえたら嬉しいですね。

最後に少し宣伝になりますが、2025年3月までの期間限定で、欧州展開に興味のあるスタートアップを対象に、東京都の支援事業の一環として無償のアクセラレータープログラムを運用しています。欧州最大の市場を持つドイツを足掛かりに、欧州での事業基盤を作るための段階的支援プログラムで、「そもそも海外展開って何しないといけないの?」といった初歩的なところから、ドイツでの事業展開のファーストステップを確立するところまで、しっかりとサポートする内容となっています。

東京からドイツへ:スタートアップのための海外進出プログラムScaler8

スタートアップの費用負担は無く、エクイティも頂いていない無料のプログラムです。東京都の事業ですが、東京に登記していない企業でも、将来的な東京進出を検討していれば参加可能ですので、お気軽にご登録いただければと思います。

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