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過小評価どころか、気が付いていないのかもしれない「リスクを取らないリスク」が生んでいるマイナス

リスクとリターンの関係を考えていて、これは日本のコロナ対応とスタートアップ振興策(ユニコーン育成輩出目標)に共通する課題ではないかと気が付いたのでまとめてみた。

日本のリスク回避傾向

アメリカの金融市場で、リスクオフ(リスク回避)の動きが出ていることから、起業家の資金調達を難しくし、新たなビジネスが育つ環境に悪影響が出るのではないかという。

この記事でリスクオフについては金融市場について言われているが、リスクといえば、日本社会全般が金融面に限らずリスクを過剰に回避する方向にいることを、特にこのコロナの問題が起きたこの数年間で、改めて強く感じている。

元々日本はリスク回避の傾向が強く、何かやって失敗するくらいであれば何もやらない方が良い、という国民性だと言われる。

ビジネスにおいても、リスクを取ってチャレンジした結果失敗をすることが、チャレンジして成功することよりも自分にとってマイナスの影響が大きいと考える人が多い。これは、チャレンジ自体を評価せず、失敗か成功かだけが評価基準となりがちな日本企業の評価基準の傾向によるものなのだろう。あえて失敗のリスクを取って新しいことするよりも、何もせずにいた方が評価されてきた前例を見ていれば、社員がリスク回避行動をとることになるのは自然なことだ。「チャレンジ」というほどでもない些細なことですらそういう傾向にあると感じている。

しかし、リスクを回避しようとすることによって、リスクと表裏一体の関係にあるリターンが取れなくなってしまっている。記事で紹介されている内外航空会社の業績の差が、それを端的に反映している。これをどう評価するかは立場によって異なるものと思う。コロナを抑え込む代償、つまりはリスクを取らなかった代償として致し方ない、とも考えられる。問題にしたいのは結果自体ではなく、そこまではっきりと考えたうえでリスクを取らなかったのか、なんとなくそうなったのか、というプロセスだ

気になるのは、リスク回避行動の結果、目の前にあるわかりやすいリスクは回避するのだが、そのリスクを取らないことによって生じる隠れリスクについてどれほど自覚的に理解しているだろうか、ということだ。紹介した2つの記事の指摘とリスク回避行動の関係を図にしてみた(図の左側)。

リスクテイクに対する日本(人)の反応(図解)

水際対策に見るリスク回避傾向

新型コロナウイルス対策に関しても、水際対策と呼ばれる日本の突出して厳格で複雑な国境のコントロールは、この日本人のリスク回避の姿勢を如実に表しているものであると、かねて思っていた。リスク回避型の民意と、それに逆らいたくない行政(厚労省)の思惑の一致が、「鎖国」とも言われた日本の水際措置を生んだのだと思う。民意に逆らえば、マスコミを先頭に個人のSNSなどでも指弾されるからだ。

例えば、空港検疫を強化し外国人を原則入国させない方針を長らくとってきたが、それによってインバウンド頼みであった日本の観光産業が大きなダメージを受けている。これについては、まだ指摘する人はいたと思うので完全に「隠れリスク」であったとまでは言えないかもしれないが、そこまで考えていなかった、という人も少なくないのではないだろうか。

そして、日本は多くの生活必需品を輸入に頼る国である。こうしたモノを日本に輸入するためには、少なくても現時点で無人で運航できる航空機や船舶がない以上、人の手によって運ばれてこなければならないし、こうした人は日本に到着したら日本に入国しなければいけない。一人でも入国する人がいる時点で「ゼロコロナ」的な発想での防疫体制は不可能であり、あとは、どれだけ流入や拡散を防げるかを、コントロールしていくしかない

さらには、こうしたコロナの混乱に加えてウクライナでの戦争が起き、原油の価格が高止まりして貿易赤字の原因にもなっているなか、火力発電に頼る日本の電力需給に大きな影響が出ている。そして電気代は上昇し、上昇するだけでなく電力不足となりはじめており、最悪の場合、人の命にも関わるような事態になりかねない状況にある。しかし、今存在していながら使われていない発電手段である原子力発電をどうするかについては、岸田首相が少し口にしたものの、その後は話題になっていないように見え、国民的な議論・再検討を行おうという機運は感じられない。これも、水際対策同様、民意に逆らいたくない政治家としては致し方ないところ、ということなのだろう。

いずれも、リスクに関する議論以前の段階で逃げてしまい、リスクと真正面から向き合っていない日本の姿勢を感じる。

リスクと正しく向き合いコントロールしてリターンを得る発想を

リスクとリターンの関係が表と裏の関係なのであれば、リスクを取らなければリターンは得られない。冒頭の記事で「大化け企業」と表現されているものは、スタートアップの世界で「ユニコーン」と呼ばれるような大成功企業と重なるが、これはサプライズのリターンを得たものと考えることもできるだろう。こうしたサプライズのリターンも、当然のことながら出発点でのリスクを取らないことには生まれようがない。リスクを取って起業しなければユニコーン企業が生まれることがないのは当然のことである。しかし、リスクテイクの問題を検討することを抜きに、ユニコーンを生み出すといった目標だけが独り歩きしているのを見ると、実現しないだろうな、という感想になるのが本音のところだ。

リスクは、別な言葉で言えば「失敗の可能性」とも言うことができるだろう。失敗を避けるために「失敗の可能性」であるリスクすら、とるかとらないかのゼロイチの発想で避けるのでは、何も生まれてこない。

リスクを取らないのではなく、リスクを適切にコントロールしていくことで、失敗などのマイナスの発生確率を最小にしつつ、リターンを取っていくという発想に、そろそろ切り替えていく必要があるのではないだろうか。

海外からの入国規制も緩和の方針が示され、少しずつ社会経済活動がコロナの影響から抜け出すことを模索する時期に来ている。むやみに元に戻すだけでは、単なるリスクテイクになって再び感染の拡大を招く恐れもあるだろう。十分にリスクをコントロールしながら取っていくことによって、リターンを得るという発想への転換の一つの練習の機会として活かせればと思う。


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