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地方発ユニコーン企業が明日の日本を創り出す➄【旅行・トラベル業界編】

新年が明け、年末年始の長期休みに旅行を楽しんでいた方も多いだろう。観光は、今、日本が最も力を入れて推進している産業の1つでもある。それでは、現在、急成長を遂げている旅行・トラベル業界のユニコーン企業にはどのような企業があるのだろうか?また、地方都市から旅行・トラベル業界でユニコーン企業を生み出すことはできるのだろうか?「地方発ユニコーン企業が明日の日本を創り出す」の最終回である第5回は「旅行・トラベル業界」に焦点を当てて考えていきたい。

地方における新産業を考えた時、「旅行」は重要な候補だろう。特に、インバウンド観光は日本全土を挙げて推進している産業だ。しかし、日本のインバウンド観光は他のアジア諸国と比べ、必ずしも優れているとは言えない現状だ。ロンリープラネットやトリップアドバイザ―のアジアの観光地ランキングを見てみると、韓国や中国、インド、タイ、ベトナムの諸都市の後塵を拝している。インバウンド観光をより推進していくためには、外国人観光客にとって魅力のあるブランドを地方都市が身に着けていく必要があるだろう。

地方の観光都市化というアプローチのほかに、観光を新産業とするためには観光に関連したツールやサービスを開発し、提供するというアプローチもある。近年、様々な都市でみられるようになってきた自転車のシェアリングサービスや、民泊プラットフォームのAirbnbが代表的な例だ。観光都市の魅力を高めるためのツールやサービスを生み出すことで、インバウンド観光の活性化に繋がるとともに、既存の観光サービスの固定概念を壊す破壊的イノベーションをもたらすことが期待できる。

それでは、どのようなサービスやツールが観光における破壊的イノベーションを生み出すことができるのだろうか?CBインサイトのユニコーン企業一覧にある観光・トラベル業界のビジネスから、新産業を生み出すための切り口を探っていこう。そうすると、結論から言えば、2つのアプローチが見えてくる。


1.「シェアリング」×「新交通手段」

観光客にとって、慣れない都市でのフラストレーションの1つが交通手段の複雑さと不便さだ。特に、公共交通機関でのトラブルはよく聞く話だ。筆者も、欧州でミラノからニースへ鉄道旅をしたときにヴィンティミグラでの乗り換えで言葉がわからず、正しい列車に乗れているのか不安だった思い出がある。外国人観光客に対する公共交通機関の不親切さは日本も同様だ。特に、地方都市は公共交通機関の便数が減少し、縮小傾向にある。つまり、外国人観光客にとって、使いやすい交通機関の整備が不十分な状態にある。せっかく素晴らしい観光資源があったとしても、そこに行くまでの交通機関がなければ宝の持ち腐れだ。

ユニコーン企業のリストを見てみると、自転車で行動できる範囲の近距離での新交通サービスが成功をおさめている傾向を見て取ることができる。

西海岸発、電動スクーターのシェアリングサービス

モバイルアプリを使うことで、いつでもどこでも電動スクーターや電動自転車を使うことのできるサービスが3つ、ユニコーン企業のリストに入っている。

Birdは、北米と欧州、中東を中心に100都市以上で展開する電動スクーターのシェアリングビジネスだ。利用者は、アプリを利用して近くにあるBirdのスクーターを探し、スクーターのQRコードを読み込むことで利用することができる。日本にも類似の自転車のシェアリングサービスがあるが、大きな違いはBirdは乗り捨てができるところだ。従来のサービスでは、決まった場所でしか乗り降りすることができなかったが、Birdはどこでも乗り降りすることができる。また、充電切れのスクーターを家に持ち帰り、充電をして戻すと報酬をもらうこともでき、副業ができるようになっている。また、広大なキャンパスを持つ米国の大学構内を移動するための交通手段としても使われており、20以上の大学で導入されている。

Birdのほかには、Limeも同様のビジネスを展開している。北米と欧州を中心に、アフリカや東南アジア、オセアニアにも事業展開をしており、130都市以上で利用されている。Birdは基本的には電動スクーターのみのサービス展開をしているが、Limeは電動スクーターのほかにも電動自転車や普通の自転車も利用可能だ。

中国の地方都市は大都市とは異なるニーズを持つ

中国国内ではHellobikeがバイクシェアリングのビジネスで急成長を遂げている。中国国内のバイクシェアリング事業は、MobikeとOfoが先行者としてシェアの多くを占めている。しかし、MobikeとOfoのビジネスは大都市を主なターゲットとしているところに目を付け、後発のHellobikeは中小規模の地方都市に着目し、ビジネスを急拡大させている。大都市とは異なる小規模都市の人びとの移動に関する傾向を捉え、地方都市の自治体と協力体制を構築してきた。まさに、大都市とは異なる地方都市のニーズをつかんで成功をおさめている企業であり、参考となるところは多い。


2.旅行者の情報収集を助ける特化型プラットフォーム

海外旅行に行こうと思ったとき、皆さんはどのような方法を使うだろうか?一昔前であれば、迷わず「地球の歩き方」を購入する人が多かっただろうが、今ではまずインターネットで情報収集する人が多いのではないだろうか。その代表となるサイトは「TripAdvisor」だろう。また、航空券やホテル、旅行先でのアクティビティの予約も、旅行代理店を通さずにインターネットで気軽にできてしまう。「Expedia」や「Agoda」、「hotels.com」などのサイトを活用して、個人旅行の自由度は飛躍的に向上し、反面、難易度が格段に下がった。

しかし、その一方でユーザーのニーズは細分化し始め、既存のサイトが提供する情報は広範囲過ぎて、尚且つ情報過多であるために良し悪しの判断が付きにくいという現象が起きてきている。このことは旅行サイトのみならず、eコマース関連のスタートアップでも見られる傾向で、ニッチ市場に特化したビジネスが急成長を遂げてきている。これらのビジネスの代表例が、民泊に特化して成功を収めた「Airbnb」だ。このようなニッチ市場を狙うスタートアップの数が増えている。

プライベートジェットを定額乗り放題

始めに紹介する事例は、日本にはあまり馴染みのないプライベートジェットに関連したビジネスだ。しかし、プライベートジェットは世界的には会社役員クラスのよく用いる交通手段であり、市場は年々拡大している。

プライベートジェットの定額サービスを提供する「Jet Smarter」は、プライベートジェット界の「Uber」と呼ばれる。タクシー業界に破壊的なイノベーションを起こしたのは、「Uber」だ。「Uber」は既存のビジネスモデルを根底から覆し、モバイルから予約することで、安価で簡単に旅先でもタクシーを利用できるようになった。「Jet Smerter」は、世界中のどこでも、プライベートジェットを簡単かつリーズナブルな価格で利用できるサービスである。

創業者のセルベイ・ペトロソフ氏は、ロシア出身の27歳の若き経営者だ。自身がプライベートジェットをチャーターするときの手続きの煩雑さから着想し、ファーストクラスと同程度の価格でプライベートジェットを利用できるサービスを思いついた。会員はモバイルアプリで予約することで、月額約111万円で、待機中のプライベートジェットを利用することができる。

出張特化型の旅行予約サイト

インターネットの普及とともに、ビジネスの出張も個人で手配するようになってきているが、交通費や宿泊費のコストを抑えたいと思っている経理担当者は多いだろう。もちろん、出張者だって、出張費で限りある予算を無駄に消費したくないだろう。なけなしの研究費でやりくりしている大学教員だってそうだ。

そのような出張でのニーズにこたえるのが「TripActions」だ。同社は、Expediaなどの旅行サイトのデータを収集し、マシンラーニングの仕組みでデータ解析を行っている。そのデータを、顧客企業の従業員の好みや年齢、性別、社内のポジションなどの情報と組み合わせ、最適なマッチングを提供している。契約をしている企業では、出張コストを3割程度抑えられると言われている。また、従業員にとってもメリットがあり、予約をすることでキャッシュバックやギフトカードなどの特典を得ることができる。

旅行アクティビティ予約サイト

香港に本社を置く「Klook」は、旅行アクティビティの予約サイトだ。ハワイのホエールウォッチング、インドでのスラム街ツアー、アメリカのディズニーワールド巡りなど、海外旅行の楽しみの1つは充実したアクティビティを楽しむことだ。「Klook」は、旅行者が、人気のあるアトラクションや体験アクティビティが会員価格で簡単に予約できるサービスを提供している。モバイルアプリやウェブサイトにアクセスし、アクティビティをみつけて予約することで、即座にeチケットを受け取ることが出来、簡単に旅行を楽しむことが出来る。

3. まとめ

このように、旅行・トラベル業界は新たなビジネスを生み出す余地が大きい業界と言えるだろう。そして、観光客や旅行者に対して、彼らの潜在ニーズを満たすサービスやツールを提供することによって、既存の市場を変革する破壊的なイノベーションを生み出すことができる。

特にユニコーン企業を見てみると、「インバウンド観光客が使いやすい新しい交通手段」「ニッチ市場のニーズを満たしたプラットフォームの提供」という2つの傾向が急成長する企業の特徴として見て取れる。

特に、旅行アクティビティの充実度は、旅行客の消費金額や都市滞在日数を増やすために重要な意味を持つ。多様なアクティビティを楽しめる都市は、観光客を飽きさせることなく、惹きつけることができる。しかし、日本の多くの都市は旅行アクティビティの充実度が十分とは言えない。試しに、「Klook」で東京を見てみると、人気のあるアクティビティのほとんどが東京ディズニーリゾート関連で占められている。それに対し、バンコクや香港、ソウルのアクティビティは多様だ。

旅行アクティビティの予約サイトがユニコーン企業となるほど、観光都市にとって、有料アクティビティは重要なコンテンツである。しかし、筆者の住む大分県をはじめ、多くの地方都市は充実したアクティビティを持っているとは言いにくく、尚且つ客単価も安い。大分県を代表する「別府地獄巡り」も共通観覧券は2,000円であり、この価格は物価の安いタイのほとんどのアクティビティよりも低価格だ。地方都市にとって、旅行アクティビティの充実と、観光客を惹きつけるストーリー構築は急務である。

現状のインバウンド観光の施策は、既存の国内観光客に向けたアクティビティや旅行プランをインバウンド観光客へ拡大延長させたものが主であり、これはこれで欠かせない取り組みである一方、大きな変化を生みにくい限界もある。これから観光ビジネスを推進していくのならば、少し視点を変え、インバウンド観光客のニーズを満たすツールやサービスを提供し、既存の市場を変革させる破壊的なイノベーションを志向する必要性もあるだろう。

日本の地方都市には、世界に誇れる観光資源を数多く眠っている。これらの資源を有効活用できるような新ビジネスが、地方都市から生まれ、ユニコーン企業として成長することを期待している。





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