見出し画像

政府の成長戦略実行計画とこれからの働き方

どうも。弁護士の堀田です。
昨日、令和2年12月1日、政府の成長戦略会議で、「成長戦略実行計画」がまとめられました。


成長戦略実行計画については、下記をご覧ください。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/pdf/jikkoukeikaku_set.pdf

こうした政府文書については、あまり目を通されたことない人も多いと思いますが、国の方向性が示されていたり、様々なデータが掲載されていたりするので、有益なことが多いです。

成長戦略実行計画自体は、働き方に関するテーマ以外にも広く政策の方向性が示されていますが、ここでは働き方に関して、どういう方向性が示されているのかを勝手に読み解いてみたいと思います。

「労働生産性上昇」は引き続き課題

成長戦略実行計画では、経済成長率は「労働参加率」と「労働生産性 」の伸び率の合計であるとし、労働生産性の改善は、「引き続き、大きな課題となる。」とされています。

内容を見てみると、日本は、2012年~2019年までの間で、時間当たりの労働生産性の「伸び率」は高く、就業者一人当たりの就業時間も大きく短縮している傾向にあります。

しかし、2019年における「絶対値」を見てみると、就業者一人当たりの就業時間は、G7諸国の中で、イタリア、アメリカに次いで長い状況にあります。また、時間当たりの労働生産性については、G7諸国の中で最下位となっています。

これらのデータを踏まえ、日本の経済成長率の上昇に向けて、「労働参加率」と「労働生産性」伸び率を上昇させることが必要であるとされています。

働き方改革は“フェーズⅡ”へ

働き方改革は、単に「長時間労働を是正する」という目的ではなく、「付加価値生産性の向上と労働参加率の向上」(ひいては日本の経済成長)を目的とするものです。

これまでもそうした意識で働き方改革に取り組んでいる企業もありますが、多くの企業では「長時間労働是正=働き方改革」という認識のところが多いのではないかと思います。

しかし、これからはより一層、「長時間労働の是正」を超え、ジョブ型雇用の推進等により、多様な人材が活性化し、新しい価値を創造するための働き方改革フェーズⅡを進めていく必要があります(ちなみに、私が経済産業省にいた頃は、よく「働き方改革第2章」と言っていました)。

ここでは、明確に「ジョブ型雇用を進めていく必要がある」と書かれていることも印象的です。

テレワークの定着

新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、急激に進んだテレワークについて、さらにその定着を図るため、労働時間管理、健康確保について、労働法制の明確化を図る旨が示されています。

法制面の内容はまた今後触れるとして、私は、以下の記述が重要であると思います。

「テレワークで生産性が上がるか否かではなく、『新たな日常』になることを前提とし、どうすれば労働生産性が上がるかを考えていくべき…」

実際、「テレワークは生産性が下がるので、やめる」という企業の声は多く、弁護士業をやっているなかでもよく耳にします。

ただ、これを聞いていつも思うのは、この新型コロナウイルス感染症拡大の状況下において、「利益が下がったのはテレワークが原因だ」というのは、厳密には特定のしようがないはずだと思います。
結局は、厳密な意味での「生産性」というわけではなく、単に「これまでと違うからやりにくくなった」というような主観的で、曖昧な理由によるもののような気がしています。

そもそも、本来、働き方というのは経営環境や社会環境によって変化していくべきものです。

第四次産業革命によってこれまでの日本型雇用慣行の限界が叫ばれ、雇用慣行の変革が必要となっているのと同じように、新型コロナウイルス感染症拡大による「新たな日常」の下でも、新しい働き方に対応していく必要があると思います。


「新しい働き方の実現」(フリーランス、兼業・副業)

また、「新しい働き方の実現」として、フリーランス、兼業・副業が挙げられています。

フリーランスについては、フリーランスという働き方を選択できる環境整備のため、年内を目途に、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連盟で、省庁横断的なガイドラインの案が作成されることとなっています。

兼業・副業については、今年の9月にガイドラインの改定が行われ、11月には、パンフレットや申告様式等が整備されています。
兼業・副業については、以下の記載が重要であると思います。
・「我が国では、優秀な人材が大企業に就職し、長期間、同じ組織の中で仕事をすることが多いが、バックグラウンドが多様な者が多い組織のほうがパフォーマンスは高まる」
・「兼業・副業の定着を通じて転職が活性化することは、日本の組織全体に好影響を与える」

以前、別の記事でも書いたことがありますが、「副業解禁!」とよく言われるものの、兼業・副業は、もともと法的には解禁も何も原則として禁止されておらず、これを禁じていたのは雇用慣行に他ならないと考えています。

しかし、成長戦略実行計画にあるように兼業・副業は、多様な人材の活躍によって新たな付加価値を生むということや、労働市場の流動化にも効果があるとされています。

依然として、法解釈上の課題等もありますが、兼業・副業が進むということは、雇用慣行の変化のメルクマールともなり得ると思います。

人的投資の促進

成長戦略実行計画では、日本の場合は、人的投資が諸外国に比べて少なく、これが労働生産性の格差の原因である可能性があるとされています。

経済産業省産業人材政策室の資料によれば、日本の人的投資はかなり低い状況となっています。
人材投資(OJT以外)の国際比較(GDP比)

スクリーンショット 2020-12-02 191128

(出所)経済産業省産業人材政策室「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会


一般に雇用の流動化が進むと人的投資が減少するといわれるものの、中長期的視点、労働市場全体の視点でみれば、人的投資は極めて重要になると思います。人的投資が施されないままに流動性が高まっても、労働市場全体はやせ細っていき、最終的に企業は優秀な人材の確保が難しくなります。

何より重要であるのは、これからは、「人材」を、価値が減っていく「人的資源」ではなく、より新しい価値を生むための「人的資本」と捉えていくことであろうと思います。
経済産業省産業人材政策室では、こうした観点から「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」というものを今年の9月に公表していますのでご一読ください(これについては、私も作成にかかわっているので、また今後触れていきたいと思います。)。
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/20200930_report.html

まとめ

最初の方で述べたとおり、「労働生産性」と「労働参加率」の上昇がポイントとなっています。
このことは、(アカデミックに言えば違うのでしょうが)平易に言えば、「多様な人材を活かし、新たな付加価値を生む」ということだろうと勝手に解釈しています。

そう考えると、働き方改革実行計画以降、言われ続けてきたことでもありますが、今後この点が益々重要になってくるということだろうと思います。

今回は、成長戦略実行計画も見つつ、働き方について総花的につらつらと書きました(長文となってしまいました…)。
また次からは個別のテーマについて書いていきたいと思います。

いいなと思ったら応援しよう!