「鏡に映った自分」を追いかけるFRB
先週22日における金融市場の荒れは欧米経済指標の軟化やトランプ大統領の期待挑戦への態度硬化といったことも手伝いましたが、なんといってもFOMCを受けた後の金利低下、とりわけ3m-10yrの逆転がトリガーとなったと言えそうです(07年8月以来の逆イールドとなります)。震源地となったFRBと最近の挙動について以下の寄稿でまとめさせて頂いております:
「自分の尾を追う犬」と化したFRB。円高呼ぶ「正常化相場の巻き戻し」が始まる
https://www.businessinsider.jp/post-187841
もちろん、逆イールドそれ自体に過度な信頼性を置くべきではないと思いますが、昨年12月と今年3月のFOMCの声明文やドットチャートの修正については「段差」が大き過ぎるという印象が拭えず、コミュニケーションが「荒れている」という印象が抱かれます。かつてブラインダー副議長はFRBと金融市場の関係について「自分の尾っぽを追う犬」と揶揄しました。「世界経済が悪いからFRBがハト派になった」という本来あるべき解釈よりも、「FRBがハト派化するほど世界経済が悪いのだ」と恐れおののく市場参加者が多いように見えます。これは結局、金融市場が「FRBを映す鏡」に過ぎず、FRBはその「自画像」を見て政策決定している様をよく言い表しています。近年、FRBが追いかけてきたものはあくまで「FRBの言う通りに沿って動いてきた(例えば利上げすると予告すれば金利が上がってきた)金融市場」であって、それは結局、自分(≒鏡に映った自画像≒犬の尾)なわけです。
例えばFRBが近年利上げの根拠として挙げてきたインフレ懸念が真実ならば、3月FOMCに見られたようなハト派路線への急旋回は本来、米金利の上昇を招くはずです。そうではなく、ハト派への急旋回と同時に米金利は大幅に低下、果ては逆イールドまで引き起こしています。結局、インフレ懸念など元々存在せず、FRBは糊代作りの利上げに終始し、金融市場もこれに付き合ってきただけというのが実態だったのでしょう。FRBは「鏡に映った自分」を見ながら市場の信認が確保されていると誤認し、景気のオーバーキルを進めてきたというのが私の意見です。
いずれにせよ3月FOMCを経てFRBは「金利」および「量」の両面において(つまりは全面的に)正常化プロセスの停止を宣言したと考えられます。申し訳程度に「2020年の利上げ回数として1回」が想定されているとはいえ、ここもとの経済・金融情勢を見る限り、たった1回程度の利上げに固執するコストは小さくないと思われます。昨年12月からの3か月間でかなり性急な方向転換を図った以上、経済・物価見通しがはっきりと跳ねてくるような事態にならなければタカ派方向の情報発信は難しいでしょう。国際機関や中央銀行などの見通しを見る限り、少なくとも今後1年にわたってそのようなタイミングは予想されるものではありません。2013年5月22日にバーナンキ元FRB議長が議会証言において量的緩和の段階的縮小(テーパリング)を唱えて以来、6年弱続いてきた正常化局面がようやく終焉を迎えたという基本認識で問題ないでしょう。このような状況で株価が騰勢を強めたり、ドル/円相場で円安・ドル高が進んだりすることは稀です。
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