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バリアフリー対応はビジネスでどのような社会を作りたいのかで決める【日経COMEMOテーマ企画】

ハンディキャップを持つ人々が生き生きと働く社会

新しい働き方や職場の在り方が模索される中で、女性活躍推進やLGBT対応と並んで重要事項は、ハンディキャップを持つ従業員の働き方改善だ。1億総活躍時代を目指す中、先天的・後天的にハンディキャップを持った人々にも、自分らしく、やりがいをもって働いてもらうことが望ましい。そのために、積極的に努力している企業や組織も多い。

例えば、大分県別府市の社会福祉法人「太陽の家」は、1965年の開所以来、ソニーやホンダ、オムロンなどの大企業の生産委託でハンディキャップを持つ人々に働く場を提供してきた。同施設では、ISOを取得しているなど、ハンディキャップを持つ人々だからといって仕事ができないわけではないと障害者雇用の可能性を見せている。

「太陽の家」のように、ハンディキャップを持つ従業員も適切なマネジメントをすることで成果を出すことはできる。しかし、同施設のように特化した組織ではない事業会社では、ハンディキャップを持つ人々のために多くの経営資源を割くことはできない。そもそも、普通の従業員にすら、満足に経営資源を割けるほど余裕のある会社は少ない。

ハンディキャップを持つ人が生き生きと働くことができる社会は美しい。しかし、美しさやきれいごとだけでは、生き馬の目を抜く競争社会で企業が生き抜くことはできない。それでは、そのように事業活動とハンディキャップを両立していくことができるのか。日経COMEMOのテーマ企画「#バリアフリーな働き方とは?」と関連付けながら、考察していきたい。

障害者雇用率制度の高い壁

ハンディキャップを持つ人々の雇用に関しては、法律でセーフティーネットが整備されている。まずは、この法律を知らずに議論をしても基本を押さえていないことになる。最も代表的なものは、「障害者雇用率制度」である。

障害者雇用率制度とは、障害者雇用促進法にて定められた雇用義務である。従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務が課されている。民間企業では、従業員数が45.5人以上(21年3月からは43.5人以上)を超えると、障害者を1名以上雇用しなくてはならない。加えて、全従業員のうち2.2%以上(21年3月からは2.3%以上)を障害者として雇用することが求められる。これらの雇用率や対象企業の範囲は、年々、拡充されている。

もし雇用率が低い場合には、ハローワークから行政指導が入る。それでも改善されない場合には企業名が公表される。加えて、従業員数が100名を超える企業では、障害者雇用納付金(1人当たり月額5万円)を支払わなければならない。もし、社内で障害者雇用を快く思わない従業員がいたら、行政指導と雇用納付金を支払わなければならないことを強く言い含めよう。

このように、ハンディキャップを持った人々の雇用は法整備がなされ、推進を促されている。それでは、実際の達成率はどうなのだろうか。厚生労働省の調査では、実雇用率は2.15%、達成企業の割合は48.6%となっている。つまり、半数以上の企業は達成することができず、障害者雇用納付金を支払っている現状にある。

雇用率に関する数値は上昇傾向にあるものの、法定雇用率を満たす水準には至っていない。また、同調査では企業規模が小さくなるほど達成率が下がっている現状を指摘している。企業規模が小さくなるほど、1人を雇用するときのコストとリスクの負担が大きくなるため、手が回らない中小企業の苦労がうかがい知れる。

自分たちのビジネスの存在意義から考える

このように、ハンディキャップを持った人々の雇用促進は政府主導で行われているものの、民間企業にとっては負担が大きく、達成には大きな障害がある。

大企業であれば、障害者雇用率を上げるために専門の子会社を立ち上げて雇用の受け皿を作ることもできる。例えば、ビルの清掃員や福利厚生の按摩師として働く人々を目にしたり、日ごろから接している人も多いのではなかろうか。先述した太陽の家でも、オムロン太陽株式会社というオムロン株式会社の特例子会社を合弁で作り、電子機器に使用する部品を製造している。

しかし、中小企業ではそうもいかない。そもそも、通常業務にすら必要な人員を欠く状態で障害者にまで手が回らないところも多いだろう。また、事業規模が小さいと、従業員を1人増やすことは経営を傾けかねないコスト増になるリスクもある。そのため、大企業よりも中小企業における障害者雇用率の引き上げは課題が多い。

ここで注意したいのが、同じ中小企業でも〇〇社ではできているのに、ほかでできていないのはおかしいという指摘は意味がないということだ。そして、このことは他社の事例を学んでも、自社で応用できる可能性は低いことも意味する。なぜなら、中小企業が障害者雇用に成功しているケースでは、自社の存在意義と良い相互作用をもたらしているためだ。

例えば、北海道のユニオン給食株式会社は従業員数153名の地方の中小企業だが、生産工場や販売や喫茶スペースで障害者を積極的に雇用している。具体的には、札幌市から中央図書館内のカフェスペースの運営を委託されたときに、NPO法人から障害者を受け入れ、知的障害者3名、精神障害者3名に店長と副店長の8名体制で運営している。

同社は「子供にも、働く人にも、高齢者にもカロリーと栄養のバランスが取れた食事を提供したい」として、北海道の地域に根差した社会貢献に重きを置いている。地域に根差し、社会性の強い企業では、経営者の思いが従業員にも浸透して、障害者の雇用にも成果が見込みやすい。もちろん、成果を出すことは容易ではなく、尋常ではない苦労がある。しかし、障害者の雇用によって、会社の存在意義にも良い影響をもたらすことができる。

障害者雇用の推進では、「なぜ、障害者を雇わなくてはならないのか」「それによって、自社の存在意義をどれだけ高めることができるのか」といった意味付け(Meaning)を創り上げることから始めよう。法律で決まっているからという受動的な態度では、バリアフリーな働き方の実現には程遠いのだ。

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