欧米ニュースメディア業界の2022年トレンド予測〜ロイタージャーナリズム研究所レポート
毎年1月に公開されるデジタルニュース業界における恒例の調査レポート、英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所による「ジャーナリズム・メディア・テクノロジー動向・予測調査(Journalism, media, and technology trends and predictions)の2022年版が先日公開されました。
デジタルニュース業界の動向、ニュースの読まれ方やビジネスモデルに興味のある方にとってはとても示唆に富む内容と思われます。新しい発見もたくさん含まれていたので以下に目次を、そしてその後注目ポイント4つを箇条書きで共有させていただきます。
【レポートの目次】50ページほどのレポートはこちらから無料でダウンロード可能です。
ジャーナリズムのビジネスが上向きになっているメディアもある
1.1 サブスクリプションとメンバーシップモデルの成熟
1.2 クリエイター・エコノミーと人材獲得競争
1.3 デジタルメディアブランド にとっての勝負の1年オーディエンス戦略とパブリッシャー・イノベーション
2.1 どこでも オーディオ
2.2 ビデオへのもう一つのピボットに向けて
2.3 パブリッシャーにとってのイノベーションの妨げとなるものの特定ジャーナリズムの実践:ハイブリッド・ニュースルーム、世代交代、新しいアジェンダ
3.1 ハイブリッドな働き方が当たり前に
3.2 ニュースへの新しいアプローチ。多様性の拡大と対立の減少
3.3 ジャーナリスト、ハラスメント、 ソーシャルメディアの役割
3.4 気候変動報道の課題政府規制、プライバシー、そして プラットフォームの未来
次に到来するもの(What's Next?)
5.1 人工知能(AI)とインテリジェント・ オートメーション
5.2 メタバース
5.3 Web3、Crypto、NFT
【4つの注目ポイント】
①サブスクリプションの成熟と危惧される富裕層・高学歴層への偏重・2極化への懸念
アンケートに回答した約6割のニュースエグゼクティブ(編集長やCEO)は過去1年で収益が増加したと回答し、75%が自社の将来に自信があると回答しています。その収益増加に貢献し、今後も期待されているのが有料購読(サブスクリプション)のビジネスモデルで、79%が2022年の最も重要な収益についての優先事項と位置づけています。一方で半数近く(47%)が購読モデルは購読費用を払うことが出来る一部の富裕層、高学歴層への偏重傾向や不平等をもたらし、他の多くの人々を置き去りにしているのではないかと懸念を示しています。
②若年層へのリーチしやエンゲージメントを獲得するためにInstagram 、TikTok、YouTube対応を強化
30歳以下の若年層によりニュースを届け、エンゲージメントを獲得するために、従来のフェイスブックやツイッターへの注力を減らし、若年層がより好むビジュアルなソーシャルメディアプラットフォームへのコンテンツ配信を強化する意向であることが鮮明に示されてます。
②読者とのエンゲージメントを深める手段として突出しているポッドキャスストとニュースレター戦略
イノベーションについて考える際、今後1年間に注力すべき分野として最も多くの回答を得ている(80%)のがポッドキャストで、その次に位置するのがニュースレター(70%)となってます。そもそもの設問項目がこの他にデジタルビデオ、オーディオ・アプリ、メタバースとなっていて、限られた設問かもしれませんが、国内のメディア業界と比較するとやや想像しにくいかもしれません。
ただ、欧米においてはオーディオコンテンツはエンゲージメント獲得と収益向上においてテキストやビデオよりもよい機会を提供することは明らかであると指摘されていて、ニューヨーク・タイムズはポッドキャスト広告で既に2020年において3,600万ドル(約41億5千万円)の収益を上げるまでに成長しています。有名な番組「The Daily」は毎月のアクティブな利用者が2,000万人以上に達してます。
ニューヨーク・タイムズはまた、今年中にオーディオ専門のアプリをリリースするとされていて、ますますオーディオコンテンツの成熟が予想されます。
④気候変動についての報道についての不十分な現実とその難しさ
気候変動の取り扱いについて、アンケート回答者自らが運営しているニュースルームに対しては65%が「よい」と評価しているにも関わらず、業界全体でみた時には「よい」と評価したのは34%に留まっています。
「人類が直面している最大の危機」というような表現で最近では報道される機会は増えているものの、不十分であることが示されてます。十分に報道がされるに至ってない障壁として以下の6点が理由として挙げられています。
気候変動の進展はゆるやかなため、テンポの速いニュースサイクルとは相性が悪い。
読者はディストピア的な暗い見通しに気後れし、無力感に苛まれる。
科学的な説明ができる専門のジャーナリストを雇うための資金が不足している。
オリジナルの取材は、遠方への出張が多いため費用がかかる。
非常に複雑で(CO2排出量、生物多様性など)、簡単な解決策がない。
オーナーや広告主からの圧力が強く、要求される変化に対応できない。
解決策のアイディアとして、共同のイニシアティブを展開しオリジナルコンテンツの共有やコラボレーションを推進するなどの例が紹介されてます。
・オックスフォード・クライメット・ジャーナリズム・ネットワーク(OCJN)
・レインフォレスト・インベスティゲーション・ネットワーク
2022年を通じて今後もメディア企業の買収、設立などが相次ぐと思われます。レポートの中でも触れられているメタバース、NFT、Web3などのトレンドが大きく飛躍するかもしれません。一方で、昨年初旬にあれほど話題になったクラブハウスは最近では耳にする機会も減っています。1年間の見通しを立て、実行に移していくのは本当に予測困難で難しい点も多いと思われます。そんな中、個人的には上記の④、気候変動とメディアの視点について、注目のトレンドを深堀りしていきたいと思っています。今年もどうぞよろしくお願いいたします。