女性役員2030年30%目標をどのように達成させるか。抜本的に取り組むべき5つのこと。
皆さん、こんにちは。今回は「女性役員登用」について書かせていただきます。
4月に岸田首相は「従来よりも踏み込んだ具体策で女性登用の促進に弾みをつける」としていましたが、
優良なスタートアップ企業に占める女性起業家を2033年までの10年で20%に。
東証プライム上場で2025年を目途に女性役員を最低1人登用。
東証プライム上場で2030年までに女性役員30%に。
など、具体的な目標が設定されました。女性登用に関して目標を設定するのは、「女性のキャリア形成の意欲向上」「社会経済の意思決定における多様性の促進」「企業の成長実現」のためですが、これらの目標の設定や、各企業の目標達成に向けた行動計画策定によって、実際に上場企業の女性役員登用は推進されていくのでしょうか。
私自身も2016年に執行役員に就任し現在7年目を迎えています。明らかに最初の頃は、実力も実績もお恥ずかしいほど不十分で、期待値だけの“抜擢”登用でしたが、この数年間で様々な機会に触れ、様々な意思決定を行い、多くの失敗を経てその分多くを学ぶことで、着実に一歩一歩、成長機会を得てきました。その経験も踏まえ、今、企業が女性登用を進めていく上で、何を大事にしなければいけないのか、具体的に考えてみたいと思います。
■「努力義務」からの脱却が必要?
このように従来よりも踏み込んだ具体的な目標を示した背景には、これまで女性活躍推進の必要性を唱えてきたものの、思うように進んでこなかった実情もあります。国際的に見ても明らかに立ち遅れている日本にとって、日本経済の成長のためにも女性登用を加速させていかなければならないのです。
今の実態から考えると「2030年までに30%以上」という目標は、達成へのハードルが非常に高い状態です。社内に候補がいないとなれば、当面は外部人材の活用が先行していくことになるでしょう。既に、一人が複数社の取締役を兼任しているケースも少なくありません。さらに、企業の事業そのものには詳しくない、特定の分野の専門家や、特殊なキャリアや経歴を持った人が選出されていくことも増えていくと思います。
引用した記事には、
とありました。企業に行動計画をつくるよう「推奨」していくだけで本当に十分なのでしょうか。任意であってあくまで「努力義務」なので、海外のように法律や上場規則で登用を義務付けているわけでもありません。(たとえば、英国は取締役会メンバーの最低40%を女性とするよう求める上場ルールがあります。ドイツも新たな監査役を選出する際の男女の比率をそれぞれ30%以上とするように義務付けられています。)
内閣府によると、海外企業の女性役員比率はフランス45.2%、イギリス40.9%、アメリカ31.3%と、日本とは歴然とした差があります。「登用義務化」をした方が良いというわけでは決してありませんが、このままだと以前と同じように「達成不可能な目標をただ掲げているだけ」になってしまうのではないかと危惧しています。
東証プライム上場で女性役員が1人もいない企業の比率は18.7%もあり、女性役員比率が30%を超える企業は22年7月末時点で2.2%にとどまっています。目標とのギャップは大きく、普通に考えると到底達成できないような目標設計です。日本の少子化は深刻な状態で人口減少に歯止めがかかっていませんが、女性の就業率を引き上げ、その能力を発揮してもらわないと、グローバル競争下で勝ち残れない時代になっています。男女賃金格差などとともに、女性幹部の少なさが足を引っ張っている状況ですが、このような現状は、日本企業の競争力の低下を招きかねません。
■女性役員を増やすために重要な5つのこと
そうは言っても、急に社内の生え抜きの女性社員が役員候補に勝手に育つわけではありません。具体的に、どのようなことを意識していくべきか、ポイントを挙げてみます。
1、属性に関係なく、「能力」や「成果」、「適性」、本人の「意欲」を評価し、適切なポジションに引き上げていき、事例を複数作る
→役員のポジションへの昇進や昇格は、属性に関係なく、個人の能力や適性に基づいて評価されるべきです。公平かつ透明性の高い評価プロセスを確立し、引き上げる側は「女性だと難しいだろう」という先入観を捨てて、もっと挑戦したいという女性の意欲を高めていく必要があります。日本企業は重要な仕事を男性に割り振る傾向が強く、女性にそもそも成長機会を与えていないことが多いため、まずは性別による評価の格差、抜擢機会の格差、与える仕事内容(負荷)の格差をなくしていくという発想を持つところからがスタートだと思います。かといって、能力も成果も適性もない人を、ただ「女性だから」というだけで重要な役職に引き上げていくことで、多くの人(特に男性)の意欲を低下させてしまう要因にもなりかねませんので注意が必要です。
2、1の状態を作るだけの、能力開発の機会や、重要な仕事を任せるなどの成長機会を設ける
→企業が女性役員を増やすには、その候補となる部長や課長などの女性管理職の育成が急務となります。部長候補、課長候補となるような人材に対して、「女性本人がリーダーシップを発揮する機会」や、「能力やスキルを向上させる機会」、「周囲とある程度の競争意識を持ち、お互いに高め合っていく機会」を意図的に作っていく必要があります。そのような機会を通じて、女性社員の能力や強み、活躍度合いや組織への貢献度合い、成果を出すまでの具体的なプロセスや手法の成功事例などを、積極的に社内に共有していくことが大事です。周囲に成功事例が伝わると、他のメンバーがリーダーシップを持つことへの野心や関心を持ち、自信を持ってキャリアを追求できるようになります。「難易度の高い案件を担当した」「自ら意思決定する機会を作った」「大きなプレッシャーや責任の伴う経験をした」など、女性社員が成長実感を持てる機会を、狙って創出していくことが大事ではないかと思います。
3、女性社員を適切に導くためのサポート体制を構築する
→女性に限った話ではありませんが、家事や育児、介護などの個別事情を抱えた状態で、一人だけで目の前のあらゆる壁を乗り越えていくことは決して容易ではありません。経験豊富な上司や先輩、同僚など、周囲のメンバーがいかにメンターのような役割を持ち、あらゆる課題に直面している社員のキャリアをサポートできるかが重要です。優しい言葉をかけたり、励ましたり、慰めたりすることだけがメンターの役割ではありません。時には率直にフィードバックしながら、やる気や向上心を奮い立たせていくようなことも必要で、このアドバイスがうまくフィットしないと期待する効果が得られません。(つまり、メンター側の能力も引き上げる必要があります。)女性社員が自分にとって適切なアドバイスをしてくれる人を自ら見つけにいく必要もあると思います。
こちらの記事のように、社内にメンターを設置するだけに留まらず、社外メンター制度を設け、外部の人からキャリアの助言をしてもらうケースもあります。社外の幹部人材からのアドバイスをもとに、昇進意欲を高め、登用スピードを上げていくといった手法も広がっていくと思います。
4、女性役員登用を目指す上で注視すべき数値を定め、進捗を定期的に把握し、必要なアクションを打つ
→社員の統計データを収集し、透明性を担保した上で、女性役員を創出していくためにどこがボトルネックになっているか、進捗状況や課題点を把握し、必要な改善策を見つけていくことが重要です。そもそも女性の採用比率が低いのか、女性管理職比率が極端に低いのか、役員候補となる層のボリュームが少ないのか、課題点は各企業によって偏りがあるはずです。まずはデータを可視化し、経営層も含めた適度な危機意識を持つことが重要です。また、役職者のサクセッションプランを考えていく上で、候補者が男性だけになってしまっている企業は少なくないはずです。後継者育成計画を立てる際、一人の管理職につき、性別問わず、能力や経験、実績などを踏まえた上で公平に候補者が選ばれているのか、多くの人の視点を入れてチェック機能を強化していくことも必要です。
5、役員のコミットメントを“異次元レベル”に高める
→「2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度」という政府目標を掲げ、全く達成が見込めない状況が続いていた時も、企業の経営層が積極的に女性活躍推進に取り組む姿勢があったとは言えませんでした。対外的にはダイバーシティ推進を意識した姿勢を示したり、社内で女性社員向けに研修を実施したりと、あらゆる対策を実行する企業は少なくありませんでしたが、掲げた数値目標に対するコミットメントは薄いと言わざるを得ない状況でした。女性活躍推進は「女性のためのもの」という認識に留まっているのです。役員のコミットメントが上がると、育てられる側の熱量や本気度も同時に引き上がっていきます。経営層は実際に忙しい人が多いとは思いますが、次世代のリーダー(及びリーダー候補)を育てることの優先順位を上げていくべきだと思います。
こちらの記事のように、社員のエンゲージメント指数と役員報酬を連動させる企業も徐々に増えてきていますが、同じように女性管理職比率目標や女性役員登用目標と役員報酬を連動させるというような手法も視野に入れていく必要もあると思います。(実際にESG目標と役員報酬を連動させている企業もあります。)
■実力より少し上の「ストレッチアサインメント」で女性役員を増やす
こちらの記事には、
とあります。さらに、「女性本人の自分に対する自信のなさ」を解決するには、
とあり、これまで男性に偏りがちだった任務に対して、上司が積極的に女性をアサインしていくことも、上司の能力として問われていくことになります。逆に言うと、同じような属性、同じような考え方をする人にしか、適切なチャンスを提供することができない上司には、それ相応の評価をしていくことも考えていくべきではないかと思います。
記事によると、女性の昇進を阻む理由の1位は、「男性中心の組織文化や人間関係」。男性中心の古い価値観や企業体質が、女性社員を過剰に萎縮させたり疎外感を与えたりしているのかもしれません。このような企業体質を取り除くことができれば良いのですが、一朝一夕で企業風土が変わるわけではありません。先述した「ストレッチアサインメント」によって、女性の能力を思う存分発揮できるような環境を作り続けていくことで、少しずつ、それまでの同質的な価値観や企業風土が変化していくのではないかと思います。
上記の3位にある「女性本人の自分に対する自信のなさ」についても、実力よりも少し上の課題や目標をセットし、それをクリアした時に本人が自信をつけられるように周囲が適切にアシストすることを繰り返していけば、次第により高いレイヤーへの昇進意欲につながっていくのではないでしょうか。
最後に、これはこのような女性登用の数値目標が出てくる度に何度も言われることですが、実力の伴わない、数合わせだけの女性登用は推進していくべきではありません。あくまで、管理職やその先の役員になり得る能力や実績、経験のある女性を本質的に増やしていくことがゴールです。
もともとは明らかな能力や資質に男女差がなかったとしても、組織の構造の問題で、結果的に任される仕事の大きさや難易度の差が出てくることで、女性社員の成長機会そのものを奪われてしまっているような実情があります。性別による物理的な体力差や、家事・育児などの負荷の差はあるかもしれませんが、本人の意向に沿わない形で負荷の軽い仕事だけを与え、成長機会を奪っていては、一向に女性は育たないと思います。
まずは「重要な仕事をどんどん任せていく」ことが第一歩ではないでしょうか。
能力面や、経験面、実力面で管理職の要件を充たす女性の数を意識的に増やしていく。
その一歩手前の管理職“候補”となる要件を充たす女性の数を意識的に増やしていく。
さらにその手前の採用段階で、将来的に要件を充たせそうな優秀な人をたくさん採用し、しっかり育てていく。
もっと言うと、そのような「良い採用」ができるような会社の競争力や基盤を、時間をかけて築いていく。
これらのどの要素が欠けても、将来的な「女性役員30%」は達成できないと思います。多様性のある組織こそ、様々な課題に柔軟に対応し、事業を変革していく力が高まっていくはずです。