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デザインシンキングを巡るパースペクティブ

3月29日、ミラノ工科大学のObservatory DESIGN THINKING for Businessが主催する" Mapping Design Thinking: Transformations, Applications and Evolution "というカンファレンスに出かけてきました。この主催は経営工学のデザインマネジメント、リーダーシップ、イノベーションを研究するチームとデザイン学部でビジネスより分野を担当する研究者が組んだグループです。

1昨年に設立され、昨年3月の第一回目は" Which kind of Design Thinking is right for you ?" とのタイトルでした。IDEOが体系化したデザインシンキングは問題解決に優れるとし、その発展形や別のタイプもとりあえずデザインシンキングとの名前の枠組みにいれ、それらはSprint , Creative confidence, Innovation of meaning に分けられ、この4つのタイプのデザインシンキングがどのようなビジネスに適切なのかをリサーチしての結果が、昨年のカンファレンスで発表されました。

今年は、上述のタイトルで、リサーチ対象の数と広がりがより充実したものになっています。オランダのデルフト工科大学、英国のインペリアル・カレッジ・ビジネス・スクール、アイスランドのレイキャビック大学、スウェーデンのストックホルム商科大学をパートナーに得て、調査の内容も、これらの国のデータがより充実しています。

冒頭、同Observatory のScientific Committee をつとめる『突破するデザイン』の著者であるロベルト・ベルガンティは、昨年示した「ビジネスが目的、テクノロジーがドライバー、人々は手段ではなく、人々が目的、テクノロジーは手段、ビジネスは結果というパースペクティブへの転換」という主張から更に一歩踏み込んで後述のように、イノベーションやデザインシンキングの変化について触れました。

デザインの普及度合いには業界により大きく差があり、戦略コンサル系やデジタル・マーケティング系と、例えばエネルギー系や中央政府内のデザインの採用の仕方には違いがあります。今回、よりはっきりしてきたのは、従来型の問題解決を得意とするデザインシンキングから、じょじょに他の3つに移行しつつあるという傾向です。

つまりは、Sprintを別にすれば、製品開発よりも組織文化の変容にデザインの手法をどう使うかに関心が移りつつあり、デザインはイノベーションにあたり有効なアプローチでありますが、したがってデザインがデザインのエキスパートの手を離れないといけないタイミングにさしかかっているということになります。

「古典的な」デザインシンキング自体、デザインのエンジニアリングやビジネス領域への拡大・民主化に貢献してきたわけですが、その次段階の進め方がテーマになっているわけです。

イノベーションの専門家がどこかの組織に「イノベーションを起こしてあげる」図式は成立しないとの認識が強くなってきた今、デザインの非エキスパートがデザイン文化にどう馴染み、それぞれがオーナーシップをもってビジョンあるいは方向を決めるためのアプローチを洗練させていくのが鍵ということです。

そこでぼくはハッと気づきます。

先月ミラノ工科大学のPh.Dを取得した、リトアニアのカウナス工科大学デザインセンター長のルータは先端的なところにいることになります。彼女の論文のタイトルは”Design as Enable Agent. Design culture and non-designers in the changing role of disciplines.”です。旧ソ連から1990年に独立したリトアニアの新しい産業と社会をつくるのにデザインが有効と彼女は認識し、その研究プロセスで行きついたテーマが、これだったのです。デザイン文化あるいはデザインシンキングエコシステムに目を向けたものです。

カンファレンスの合間、数回にわたりイノベーションやデザインをテーマにした寸劇が入る構成は、とても意味深です。

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