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「人と人が仲良くなる」プロダクトがなかったからこそ、創る価値がある。
ぼくが「OSIRO」をつくりはじめたのは、世の中に「人と人が仲良くなる」仕組みがなかったからだった。クリエイターのために、ないならつくろう。ただそれだけだった。
これは、この業界がきているからとか、儲かりそうだとか、トレンドに合わせてというマーケットインの考え方とは違い、ぼく自身が味わった原体験が根底にあり、そこから導き出されたものでもある。今回は「OSIRO」というプロダクトの開発思想そのものについて綴ってみたい。
長く愛されるブランドの本質は「感覚や情緒」にある
iPhoneが登場したとき、多くの人は「なんだこれは!?」「ボタンがないぞ!」と心の中で叫びながらいつもより鼓動が高かったに違いない。物理的なボタンをなくすことに対して懐疑的だったBlackBerryのような企業もあった。しかし、実際に市場に出たとき、人々は機能性よりも革新性に気づき、受け入れられた。
OSIROをつくった理由も似ているかもしれない。「人と人が仲良くなる」ためのプロダクトをつくらなければならないと強く感じたからこそ、開発をし始めた。開発費がべらぼうにかかることなんて1mmも考えなかった。
ぼく自身、30歳でアーティストに終止符を打った体験と、8年間の孤独を経験した。この2つの原体験がなければ、「人と人が仲良くなる」必要性を感じることはなかったし、人生をかけてまで追求することはなかっただろう。
アーティストにとって、応援してくれる人は必要不可欠だ。しかし、点でばらばらな応援者たちがつながり「応援団」として融合していく仕組みがなければ、長期的な支援にはならない。
この考えが形になったのがOSIROだ。単にアーティストを支援する「場」ではなく、応援者同士がつながり合うための空間。それはまるで「ボタンのない電話機」のように、従来の概念を超えるものだと確信している。
OSIROの魅力は、「人と人が仲良くなる」という開発思想にある。共通の価値観にもとづく人々が「場」に集い、興味関心を軸につながっていくことで、居心地のよさやより自分らしさを感じ、場に価値が生まれていく。これは数字にしにくい感覚的な価値であり、プライスレスでありそれこそが長く愛される本質だと思っている。
機能や仕組みを模倣するだけでは、本質的な価値は生まれない。
たとえ使いやすさや性能が劣っていたとしても、短所が長所になることもあるし、感覚的価値や情緒的価値という長所が尖っていればいるほど、プラマイプラスである。
プロダクトの改善は、開発者目線だけでもできず、かといって市場だけを偏重することでもない。人間の普遍的な本質から外さずに改善していくことが大切だ。下記の記事にあるような「ユーザーイン」の考え方が近いのかもしれない。
OSIROが開発で意識しているのは、人々が慣習的に行っている有効な仕組みや、経験則などを機能や仕組みとして落とし込むことだ。
例えば、音楽業界で働く知人から、新入社員が支店に配属されるとき音楽業界の関係者100人が一同に集められ、紹介する場が設けられるという。その場でようこそと歓迎をされ名刺交換を行う。次の日から新人は仕事を円滑に進められる環境が整うというのだ。
この話を聞いたとき、OSIROにも同じような「ウェルカム」する仕組みが必要だと感じ、すぐに機能を実装した。「人と人が仲良くなる」ためには、新しく入ってきた人が自分は受け入れられていると感じ、すぐに馴染める環境をつくることが大切だからだ。
もう一つ例をあげると、ぼくは人生の中で、転校やアルバイトを通じて「バディ」の重要性を学んだ。新しい環境では、強制的にまだ知らない誰かが隣にいてくれるだけで安心感が生まれる。その経験をもとに、OSIROにもバディ機能を開発した。これもまた「人と人が仲良くなる」ためのきっかけを観察し、機能として取り入れたものの一つである。
現代はマーケットインでプロダクトが生まれることが多いと言われている。しかし、単に機能や仕組みを模倣するだけでは、本質的な価値は生まれない。ぼくらが目指しているのは、単なるコミュニケーションツールを開発することではなく、「人と人が仲良くなる」ための仕組みをつくること。その結果、クリエイターが活きていける世界を実現させることだ。
コミュニケーションを効率的に取るためのツールは世の中に数多く存在するが、OSIROが目指すのは、情報共有よりも感情共有。人と人が仲良くなるツールは世界中を探してもまだ存在しない。だからこそ、ぼくらはこの挑戦を続けていく。