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「ダイバーシティ登用」は「能力登用」を促すかもしれない!?~データ検証からの考察~

 米ナスダック株式市場の意思決定が注目されています。ナスダックが、上場承認された企業に対して、少なくとも1人の女性と、もう1人の人種・性的少数派の取締役の選任を義務つけたのです。これは、世界中で注目されたニュースです。SNSを見ると、なぜ能力登用を促さない!女性やマイノリティに配慮して何になる!と、強烈なコメントを残す方も少なくないです。しかし、学術研究を見ると、ダイバーシティ登用を促すことは、実はマジョリティ層に対しても恩恵があるようです。今回は「ダイバーシティ(女性・マイノリティ)積極登用」は、実は「社会の能力登用」を促す契機になるかもしれない話をしていきます。


 女性・マイノリティ登用に伴うよくある意見

 女性・マイノリティ登用を積極化しようとすると、よくある意見として、

「性別なんて関係ない!能力で登用しろ!」

「俺(経営者)は、性別なんて関係ないぜ。能力が高ければ、登用してやるよ!能力登用の積極化であるべし。女性登用の積極化なんて反対だね」

 なんて、声がよく聞かれます。過去に、私は上記の意見を発する経営者の方に、「では、能力が高いの定義は何ですか?能力をキッチリ図る人事制度があるならば、ぜひ参考にしたいので教えてください」と生意気なことを申したことがありました(笑)。その時は、その経営者の方は笑って済ませてくれましたが…。

 ミクロ経済学の分野では、人事制度についても膨大な研究が行われています。その中には、社員、経営者の能力や実績評価に関する研究が理論でも、データからも検証が行われています。ここでは詳しい紹介は割愛しますが、先行研究を見るに、能力で評価して人事登用するのも、評価軸の正当性を確立するにも、理論とデータで緻密に取り組む必要があるのです。なので、どのように能力登用を促すかは重要な課題ではあるものの、必ずしも女性・マイノリティ登用を促したからといって、能力登用を阻害するかはわからないのです。むしろ、先行研究では逆の事例も報告されています。

スウェーデンで起きた女性・マイノリティ登用を進めたおかげで起きた意外な効果

 スウェーデンでは、議員にクオーター制を導入しました。これは一定割合は、女性議員を義務つける制度です。この時、何が起きたかを検証したのが下記の論文です。日本語の解説は、奥山陽子博士が詳細に記載してくださっているので、ぜひ参考にしてください。

 この研究結果を端的に述べると、女性議員を登用義務化したことで、能力が低く、コネ!?登用されていたような男性議員の退出が促され、能力が高い議員が登用されやすくなったというものです。つまり、ダイバーシティ登用は、能力登用を促しているかもしれないということです。

 ここでは数理モデルを用いて、幹部議員は自分の立場を守るために、あえて能力が低い議員を登用しがちなことを定式化し、データでもそれが起きていることを検証して報告しています。スウェーデンは、詳細な個人データが取得できることで、議員の能力に関する変数を作成できるからこそ、こうした検証もできるようです。

Besley, T., Folke, O., Persson, T. and Rickne, J. (2017) “Gender Quotas and the Crisis of the Mediocre Man: Theory and Evidence from Sweden,” American Economic Review, 107(8): 2204-2242.


スウェーデンの事例から学ぶべきこと

 上記の研究は、あくまでも政治経済学の研究であり、政治の世界の話です。しかし、コネ登用されて能力が高くない男性が登用されやすくなっていたというスウェーデンの事例は、株式会社の世界には絶対に当てはまらないと断言できるものでしょうか?
 こうした事例をみると、能力登用を成立させるためにも、ダイバーシティ登用を進めるのは重要なことだと思うのです。もちろんアファーマティブアクション(女性登用の義務化)の弊害も一部の研究で報告されています。しかし、ダイバーシティ登用にはデメリットしかないよ!と極論ではなく、メリットがデメリットを上回る可能性が十分にあると考えていくのは、多くの人の幸せに繋がると思うのです。

 

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崔真淑(さいますみ)

*画像は、崔真淑著『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』より引用。無断転載はお控えくださいね♪

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