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新エリート層として浮上するキャッシュレス消費者の購買特性と貯蓄習慣

古い世代の中では、クレジットカードは無駄遣いに繋がる、という固定概念が未だにあるかもしれないが、キャッシュレス決済を計画的に使う習慣を身につけた消費者は、現金払い派の消費者よりも貯蓄率は高くなることが、各種の調査統計から示されている。日々の支払い明細を一元管理して、無駄遣いをチェックしやすくなることや、ポイント還元効果も高いためだ。

40代の勤労世帯では、年間平均で約380万円の消費支出があるが、それらの買い物や支払いをすべてキャッシュレス決済にして、1%のポイント還元が受けられるとすれば、そのメリットは大きい。決済手段によっては、それ以上のポイント還元が得られるため、最もお得な方法で買い物をする消費者が、新たなキャッシュレスエリート層として浮上している。

カード会社のJCBが2018年に行った「キャッシュレスとデビットカード利用意向に関する実態調査」では、1000人に実施したアンケートの回答内容から、キャッシュレス決済に詳しい消費者(キャッシュレス派)と、そうでない消費者(現金派)とに分類して、それぞれの購買特性を分析している。

それによると、キャッシュレス決済に詳しい消費者(キャッシュレス派)は、高額な買い物をする時ほど、キャッシュレス決済を利用する割合が高くなっている。 これは、高い買い物ほど、付与されるポイントや特典により実質的な割引率が高くなることを理解しているため。

また、キャッシュレス派は、現金派と比べて浪費癖があるような印象を抱くかもしれないが、実際には逆である。同調査によると、キャッシュレス派が1年間で増やした貯蓄額は87.6万円であるのに対して、現金派の貯蓄額は年間32.5万円で、キャッシュレス派のほうが2倍以上も、お金を貯めることにも長けている。特にキャッシュレス派の男性は、年間貯蓄額が105.3万円と突出して高く、現金派の男性よりも3倍近い差が生じている。

キャッシュレス派は、お金の管理が得意であることの他にも、仕事への意欲も高い(管理職になりたい等)という回答結果も出ていることから、現金派の消費者よりも高学歴のエリート層が多いことも推測できる。そのため、キャッシュレス決済の利用者層は、銀行や証券会社にとっても、優良客となる可能性が高い。

キャッシュレスとデビットカード利用意向に関する実態調査

【匿名から実名制に変わる「お金」の性質】

現金からキャッシュレス決済の移行が進められているのは、日本だけでなく世界に共通した政策となっている。発端は、脱税やマネーロンダリング、偽札などへの対策だ。 現金は、自分の名前を伝えることなく、自由に使えるのがメリットではあるが、犯罪で悪用されやすい決済手段でもある。そこで、高額紙幣を廃止したり、発行量を制限したりする動きが世界で加速している。

デンマークでは2017年1月に紙幣と硬貨の新規発行を既に中止しており、2030年までには現金での支払いをすべて無効化する計画を発表している。その代わりとして、キャッシュレス決済の普及が推進されており、現在でも75%の国民が、クレジットカードやモバイル決済による買い物をしている。

また、韓国のキャッシュレス決済比率は、96.4%と世界で最も高い。これは、クレジットカードで買い物をした金額の20%を所得控除できる制度が、国の政策として推進されていることが理由。一定以上の売上がある小売店や飲食店などの事業者に対しても、クレジットカードの取り扱いを義務化させている。匿名で使える現金(紙幣)を廃止することで、脱税や麻薬密売などの非合法取引で使われる資金ルートを断つことが、キャッシュレス決済の狙いである。

我が国におけるFinTech普及に向けた環境整備に関する調査検討報告書(経済産業省)

実店舗の経営者にとっても、キャッシュレス決済へ移行することで、レジ業務の効率化、釣り銭の誤払い防止、売上金の集計や防犯面などから、現金よりも都合が良い。さらに、ポイント特典を固定客獲得のマーケティングにも活用できるため、「現金払い不可」の店舗も、韓国では増えてきている。

キャッシュレス決済はスマートフォンの扱いに慣れていない、高齢者などにとっては、まだ使いにくいのが欠点だが、日本でもキャッシュレス化の波は着実に進んでいくことになる。それらを上手に使いこなすことで無駄遣いを減らし、ポイント資産を貯蓄にも活かしていけるキャッシュレス・エリートの台頭が、今後の消費経済を支えていくことになりそうだ。

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