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デジタル・スキルが、すべての人に求められる時代

少し前の記事になるが、日立製作所が全社員にデジタル教育をするというニュースが報道された。記事内容は”いまさら”と言っているが、日本を代表する大企業がこのような意思決定をしたという意義は大きい。


デジタルスキルが必須になっていることが受け入れられない現状

PwCの世界CEO意識調査を見てみると、経営者が自社の従業員に対して、デジタル・スキルの取得にどれほど不満を感じているのかがよくわかる。大多数の経営者が、自社の従業員にデジタル・スキルが足りていないと感じているにも関わらず、日立製作所のように「全社員にデジタル教育をしよう」と思い切った施策を講じることができている企業は、ほとんどない。経営者が問題意識を持っているにも関わらずだ。

日立製作所関連で言うと、中西会長が就任するまで経団連会長の執務室にはPCが設置されていなかったというニュースもあった。対面でのコミュニケーションが主であるため、メールをやり取りする必要性もなかったという。

これら日立製作所に代表される大企業の動きは、1つの変化の兆しとして考えられるのではないか。それは、デジタルスキルに対する企業の姿勢の変化だ。常に進歩し続けるテクノロジーに対して、オープンであること、常に好意的に受け入れるという姿勢を持っていることが、これからのビジネスで重要なスキルとなっている。

そもそも、日進月歩で発展するテクノロジーの変化に適応していくことは簡単ではない。20代や30代の流行に敏感な若い世代ならともかく、40代50代と年齢を重ねるにつれて、時代に流れについていくことが難しくなっていくことも多い。(もちろん年齢に関係なく、若くても「テクノロジーは苦手、オタク臭い」と敬遠する人もいるし、シニアでも最新テクノロジーを使いこなす人もいるが。)しかも、既存のテクノロジーで成果を出している人が、新しいテクノロジーが出てきたからと乗り換えることはモチベーションが湧きにくく、「今までこれで上手くいっていたのだから、従来通りで良いではないか」と言いたくなる気持ちも理解できる。しかし、そのようなことを言っているうちに、テクノロジーの活用が遅れ、時代に取り残されている企業も少なくない。


テクノロジーを導入すべきかどうか議論することは止めよう

テクノロジーを積極的に活用しようという議論になると、必ず出てくる意見として「テクノロジーの活用によって起こるメリット・デメリットを洗い出し、冷静に分析しないといけない」というものがある。たしかに、新しいことを始めようとするときに、その実効性や実現可能性について、Feasibility Study(フィジビリ:計画が実現可能であるか否かを評価するために事前に行なわれる調査・研究)を検討することは重要な手順だ。

しかし、テクノロジーの活用に関して言うのであれば、そのような戦略的な視点のないゼロベースの議論をしていく段階は過ぎてしまったようにも思われる。その簡単な理由だけでも3つある。

第1に、世界のビジネスで勢いがある企業や新興国はテクノロジーの活用にどん欲だ。キャッシュレス決済だけを見ても、中国・欧州・アフリカと急激に浸透しているのに驚かされる。

第2に、テクノロジーを活用せずに抜本的な労働生産性の向上は不可能だ。HRコンサルタントのピョートル・グジバチ氏が指摘するように、20年前は画期的なコミュニケーションツールであったメールですら、現状は生産性の悪いツールとなり下がっている。

第3に、減少する労働人口の代替としてテクノロジーを活用する以外に生き残る選択肢はない。労働人口の減少に対する対策として、外国人労働力を推進したとしても、それで潤うのは基本的に東京のみで、地方がじり貧なことに変わりはない。ドローンやIoT、AIの活用など農業テックは、ようやく本格化してきたが、加速させていく必要がある。


テクノロジーの重要性に対して活用する人材が圧倒的に不足している

ビジネスにおいて、先端テクノロジーが重要であることは、多くの企業が古くから認識していることで特別新しいことではない。なにが新しいかというと、これまでは一部の人だけに求められていたテクノロジー活用の姿勢が、すべての従業員に求められるようになってきたことだ。

経営学の巨人、ドラッガーは「テクノロジーを活用してビジネスを行う人材」のことを「テクノロジスト」と呼んだが、現状、テクノロジストが2つの意味で不足している。

第1に、単純な労働人口として、テクノロジーを前向きに取り入れ、ビジネスを行って行こうという人数が少ない。そもそも、「文系」「理系」という区分けがされてきたように、テクノロジーは「理系」領域のことであって、「文系」領域にとっては関係がないとされてきた。しかし、「理系離れ」と言われるように「理系」を志向する若者の絶対数が減少している。また、「文系」にもテクノロジーは求められるという意識改革も必要だ。

第2に、テクノロジストが求められる職種も不足している。労働生産性を高めるためにテクノロジーを使うのであれば、テクノロジーの活用はすべての職種で推し進めなくてはならない。しかし、テクノロジーの受け入れ姿勢には、職種や業種、企業規模によって大きな差がある。大企業のR&D職種であっても、一昔前の古い職場環境(PCスペックや使用しているアプリケーション、意思決定プロセスなど)を使用しているケースが散見される。テクノロジーの活用は他人ごとではなく、本気で労働生産性を向上させるためには、すべての職種でテクノロジーの活用が必須であるというストーリーを描くことが必要だ。


海外から日本に来たビジネスパーソンと話をしていると、「日本はテクノロジーが進んだ国というイメージがあったのに、来日してみると驚くほどアナログで衝撃を受けた」という意見をよく耳にする。そして、「アナログな環境でも凄い日本企業」ではなく、「このまま、時代遅れの国になっていくだろうな」という論調で話が進むことが多い。

テクノロジーに対する姿勢を改めることが、すべての働く人々に求められていることであり、今できなければ時代に取り残された過去の国となってしまう危険性について真剣に考えるべきだろう。

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