リスキリングを加速するための社内転職=出向 圧倒的当事者意識が社員を強くするだろう
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
※ 本記事は日経朝刊投稿募集「 #出向という選択肢 」への寄稿です。
いよいよ年の瀬となり、街中もクリスマスとお正月準備が混在する慌ただしい雰囲気にあふれています。この記事は今年のCOMEMOでの57本目の投稿になります。いやはや、よく書きました(笑)。
今年日経で出た新しいビジネス用語と言えば「リスキリング」でしょう。DXに必要な新しいスキルを身につける必然性から、会社が従業員の再教育に投資するという話題が多く出ています。ざっと調べたところ、日経では2018年に紙面に登場したようですが、その際は「技能再教育(リスキリング)」と紹介されていました。2020年にはカッコ書きではなくなり、2020年の年末の「展望 2021」ではジョブ型雇用とリスキリングがハイライトされています。
日本企業の社員教育は伝統的に、OJTを中心とした「見て覚える、実地で教わる」形が多いです。様々な部署をローテーションで経験して、その会社のスペシャリスト(一般的な意味ではジェネラリスト)を要請するためです。一方、ジョブ型雇用では会社においての専門職、一般的な意味でも専門家をそのときに集めるプロジェクトに近い形が多いです。
今後、日本型雇用からジョブ型雇用に移行する際に課題となるのは、ジェネラリストが一度会社を出れば専門性がわかりにくく、中途では当たり前になっているジョブ型スタイルの採用に合わなくなってしまうことです。日本の人材流動性が低いのは終身雇用の名残と言われますが、最近ではこのミスマッチのほうが深刻なのではないかと思います。実際に転職希望者数は年々増加しており、コロナ禍では増加ペースに加速が見られました。その伸びを牽引しているのがジョブ型である事務職や専門技術職です。
社員に新しいスキルを身につけてもらうのにも有効な手段が「出向」です。事実上「雇用が保証された転職」であり、出向から完全に転籍するという道もあります。従来は親会社から子会社、ないしはグループ会社間で行われることが多いものでした。最近では他社に出向して、自社にはない技術やサービスに触れる機会としたり、大企業ではなかなかチャンスが巡ってこない「事業をイチから立ち上げる経験」を一通りできるのが魅力です。
私自身、ヤフー・ソフトバンクグループで働いていたときには数多くの兼務出向を経験しました。元々新規事業をどんどんやるグループでしたので、多くの社員が兼務出向をしていました。新しい事業を始める準備室ができればまずそこに。実際に事業会社を立ち上げることになったら、そちらの社員にもなるといった具合です。
初めての出向は、2005年に携帯事業に新規参入するためにソフトバンク内に作られた準備室でした。その後、2006年のボーダフォンジャパン買収に伴いそのまま異動で出向。2017年に退職するまで、基本的には両方の会社の社員として働いていました。出向と近いところでは、取締役として派遣されることも多く経験しました。M&Aして子会社化した会社、新規事業の子会社や合弁会社等々、イチ社員としては考えられないほどです。その中には国外(インド)もありました。スタート時のメンバーは私以外にもグループ各社から出向で集まってくることが多かったですね。
いま振り返ってみれば、17年間の間に10回以上転職したようなものです。新しいメンバーと新しい事業をイチから考え、それを実装して運用する。そして全力で走りながら、改善もしていく。まさにスタートアップのような経験をたくさんさせてもらいました。
人材流動性が低く、雇用の安定を非常に求める国民性は今日明日ですぐ変わるとは思いません。しかしながら、それを維持しながら実質転職と同様の効果がある出向は、うまく使えば社員のリスキリングを短期間に進めうる有効な手段なのかもしれません。
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タイトル画像提供:NOV / PIXTA(ピクスタ)