なぜ最近リベラルアーツが話題なのか?
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
最近、ビジネスの世界におけるリベラルアーツ(教養)の重要性を説く言説を目にすることが増えたように思います。有名なのはスティーブ・ジョブズで、若き日の彼はアップル社をアートとサイエンスの交差点に立つ会社と考えていました(過去のプレゼンでは「我々はテクノロジーとリベラル・アーツの交差点にいる」と発言)。
近年では2017年に出版されベストセラーとなった『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(山口周/光文社新書)が思い出されます。
ビジネスの世界において論理と理性だけでは勝てない時代が到来していることを論考し、その後のデザイン思考ブームへとつながっていきました。
そして、「歴史を面白く学ぶCOTEN RADIO」は歴史という堅いコンテンツながら大ヒットのポッドキャストとなりました。聴いている!という方も多いのではないでしょうか。
不確かな時代をどう生き抜くのか? 不安と向き合うにはどうすればいいのか? 複雑な社会課題を解決するにはどうすればいいのか? 自分はどう生きればいいのか?
今の世の中には論理や理性だけでは向き合えないことが多数あります。マネージャー以上の方はリモートワークも含めたメンバーとの関係性に苦労していることでしょう。古代ギリシャ時代においても人を説得して動かすことには苦労していたようで、哲学者のアリストテレスはエトス(信頼)・パトス(情熱)・ロゴス(論理)の3つがないと人は動かないと指摘していました。
リベラルアーツが脚光を浴びている別の背景としては、日本社会がジョブ型に移行していることも指摘されています。
リベラルアーツというと歴史や文学を思い浮かべがちだ。高度専門人材のためのリベラルアーツとして産学で合意したのは「人文学、社会科学、自然科学のどの分野であれ学生が一つの専門を深く学ぶとともに、他分野にも関心を広げ、幅広い知識と論理的思考力、規範的判断力を身につけること」という定義だ。
ここで規範的判断力が重要であるという指摘は新鮮だった。これからは「望ましい社会や企業とは」「公正な社会とは」といった判断が避けて通れない。それには一定のトレーニングが要る。
ジョブ型の中で1つの深い専門性を磨き込むと同時に、他分野にも関心を広げていくこと。それによって論理的思考力のみならず、規範的判断力を身につけることがこれからの経営人材には必須なのだという指摘です。
また、大学教育でも「教養」が復活の兆しが見えています。これまでの分野の垣根を越えた「文理融合」も進んできています。
リベラルアーツとは幅広く学ぶということだけではなく、自由で自立した市民になるための教育だと言われています。大本を辿れば、古代ギリシャ時代の自由民に必須の教育「自由七科」にまで遡る。言語に関わる三学(文法学、論理学、修辞学)と、数学に関わる四学(四科が算術・幾何学・天文学・音楽)です。音楽が数学の中に入っているのが不思議ですが、音というのは振動ですので周波数を持っており、例えば弦楽器で言えば弦の長さの比が弦の振動数の比になります。音階の主要な音程に対応する数比を発見したと言われているのが、数学者・哲学者であったピタゴラスです。このように、音楽理論は数学としての側面を持っているのです。
現代の経営者の中にも音楽がプロ並みに上手い方が結構いらっしゃいます。わたしはリベラルアーツのアート(藝術)の中には、ぜひ音楽も入れて欲しいと思っています。一瞬で言語を越えた共通体験を分かち合える音楽。これも不確かな時代をグローバルに生き延びるための素晴らしい文化なのではないでしょうか。
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タイトル画像提供:cba / PIXTA(ピクスタ)