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今のホテルは、ワーケーションに適した宿泊施設なのだろうか

コロナによる影響を受けてワーケーションがにわかに脚光を浴びてきているという。

インバウンドの旅行需要が減り、利用客が急減して苦しんでいる旅行業界、特に宿泊業にとっては、こうしたワーケーションは大きな福音になりうる可能性を持っているだろう。

観光による宿泊は、日本人の国内旅行であれば平均してせいぜい2、3泊程度であろうし、ビジネス出張においても、やはり短期滞在が中心であったと思う。事実、日本の宿泊施設はほとんどが1~数泊といった短期滞在を前提に作られている施設であると感じる。

これが、例えばバカンスなどの長期休暇を取ることが珍しくないヨーロッパの宿泊施設になると、もちろん短期滞在型の日本のようなホテルもあるが、一方でいわゆるアパートメントホテルのように、部屋の中にキッチンや洗濯機など生活するための施設設備がありながら、共有スペースに行くとレストランなど短期滞在型のホテルにあるものも併設されているといったスタイルの長期滞在に適したホテルも珍しくなく、大手がチェーン展開しているものもある。

もちろんエアビーアンドビーのような民泊においてもこうした長期滞在にむいた施設は、アパートの一室や一軒家などを中心に多数登録されてはいる。ただ民泊に関しては、ホテルの共用施設に相当するものがないことと、個人が個人に宿泊施設を提供するというスタイルであるだけに、新型コロナウィルスの感染が収束していない状況の中で、個々のオーナーによる衛生管理がどの程度行き届いているかについて不安を持つ人たちもいるだろう。そうであれば、一定レベル以上のホテルの衛生管理基準で清掃された部屋で、一定の安心を得ながら中長期に宿泊できる施設の価値は、これまで以上に高くなるのではないだろうか。

また、従来のホテルの発想・概念の外側から、こうしたワーケーションに適した場所が生まれてくる可能性もあるし、既存ホテル業界との切磋琢磨が生まれる期待からも、そうした動きが出てくることを期待したい。

ここしばらくで、そうした施設に発展する可能性があるのではないかと思う施設に2つ、泊まる機会を得た。

一つは福島県磐梯町にある、元は企業の保養所として使われていた建物を利用して、コワーキングスペースと宿泊施設が一緒になった形の施設である。LivingAnywhereと銘打って、

場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約にしばられることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方(LivingAnywhere)をともに実践することを目的としたコミュニティ

の拠点のひとつとして運営されている。

もとは食堂であったと思われるスペースが、食堂でもあるが、自由に仕事ができるコワーキングスペースとして活用することができ、また気候・天候が良ければ屋外のテラスも同様につかえる。もちろん、電源やWi-Fiの設備も整っており、しばらく滞在しながら仕事をするには良い環境であると感じた。

ただ、建物自体はかつての企業保養所によくあった造りで、和室の大部屋に(混雑時は)ある程度の人数がをするスタイルになっており、また浴室やトイレも集合のものになっているので、この点は1人でこの施設を利用したい人や、個室の中に専用のバストイレが付いている生活に慣れている人にとってはあまりフィットするものではないかもしれない。

ただ、自然環境は豊かで、猪苗代湖や磐梯山といった自然に囲まれてリフレッシュできるし、少し足を延ばせば会津若松といった歴史に触れることが出来る観光地もある。かつての保養施設や別荘を現代的に使う方策の一つとして、ワーケーションは可能性のある方法ではないかと思った。

もう一つは宿坊である。高野山の金剛三昧院の宿坊の泊ったのだが、このお寺は塔頭(たっちゅう)寺院として世界遺産に登録されている由緒ある寺院でもある。近年は インバウンドが利用のメインを占めていたということで、施設内のいたるところに、英語で書かれた案内が張り出されていた。

部屋数も多い大きな施設であるが、やはり上記福島県の施設と同じように、和室の部屋には、部屋によってトイレはついているものの、風呂は共同のものになっている点がネックになる可能性はある。

また、支払いについては一旦宿坊協会に行って、現金で宿泊料金を清算しなければならなかった。キャッシュレス対応なども、今後課題になってくることの一つだろう。

宿坊は、僧侶の修行の一端を垣間見る体験型宿泊施設であり、また、お寺はかつて学びの場でもあったことを考えると、研修や開発合宿などの要素を含んだ滞在に活用し得るものがあるのではないかと思った。朝、少し早起きをして朝のお勤めに参加できることは、一日のリズムをキープしながら中長期滞在生活をするうえで、うまく活かしたいものだ。

withそしてafterコロナの時代の社会変化、とくに働き方・住まい方の変化と旅行スタイルの変化を展望すると、短期滞在型の旅行は、COVID-19に限らずあらゆる伝染病の感染拡大を招きやすいスタイルであり、COVID-19だけを考えても、国際移動に伴った一定の自己隔離期間などが当面続くのであれば、中長期滞在を前提とした宿泊施設の造り・あり方が求められるようになるのではないだろうか。

それを考えると、現在の日本の宿泊施設のあり方は、これからインバウンドに期待しつつもパンデミックと共生していく時代、あるいはワーケーションといったものが普及する時代に向けて、発想を変えていかなければならないのではないかと思う。

最後に、2018年の夏の終わりにドイツで3週間のワーケーションをした時に感じたことを書き留めていたので、リンクをご紹介する。この時はアパートメントタイプのホテルをベースにして、部屋のキッチンで簡単な自炊をしながら過ごした。読み返してみると、いろいろなことを考えたことを思い出すし、こうして働く場所・環境を変えることの効用を改めて思う。

#日経COMEMO #NIKKEI

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