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ただフォースを信じて突き進んだほうがいいときもある

May the Force be with you

先日、提携先企業との会食があり、先方の社長に乾杯の挨拶をお願いしたところ、スター・ウォーズの例え使った素晴らしいスピーチを披露してくれました。その人の十八番らしいので、どんな内容だったのかはここでは伏せておきましょう。それを聞いてふと思い出したのは、若い頃に働いていた会社の、偉大なリーダーの口癖です。「フォースと共にあらんことを」。

スター・ウォーズを見たことがある人なら誰もが知っていると思いますが、この台詞は難しいミッションに立ち向かう仲間に送る言葉です。「フォース」とは主人公たちが使う超能力の呼び名でもありますが、その源である「人知を超えた神聖な何か」を示すこともあります。この先なにか困難なことがあっても、そんな「フォース」がきっと私たちを守ってくれるだろう。「フォースと共に」はそんな掛け声なのです。

そのリーダーは、難しいプロジェクトに取り組むときに、あるいはそのプロジェクトが暗礁に乗り上げたときに、いつもの「フォース」を披露してくれました。「あとはフォースを信じて突き進む」だな、と。私自身スター・ウォーズの大ファンだったこともあり、そう言われるとテンションがあがりました。厄介な仕事を偉大なミッションのように錯覚させてくれたのです。

少し引いた視点で見ると、それこそがまさにリーダーの狙いなのかもな、と当時からすでに考えていました。メンバーを鼓舞するための「檄」だった、というわけです。そして、その後年を重ねて、色々な苦労や挫折を経験するなかで、今ではそこにはもう一つ、より深い意図があったのではないかと考えるようになりました。それは一体何なのか? という話をさせてください。

3つのサークル

「サークル・オブ・コントロール」という考え方をご存知でしょうか。スティーブン・R・コヴィー氏の名著「7つの習慣」に出てくるので、聞いたことがある方も多いでしょう。身の回りで起こることは、3つの同心円に分類できる、という考え方です。同心円とは、大皿の上に中皿、さらにその上に小皿が乗ってる様子を上から眺めたような状態です。私はこれを、とあるグローバル企業のリーダーシップ研修で教わりました。

一番上の小皿、つまり中心にある一番小さなサークルは「サークル・オブ・コントロール」です。これは文字通り自分でコントロールできる出来事です。例えば自分がコピー用紙の発注担当だとしたら、発注量や発注するタイミングはすべて自分でコントロールできます。このとき、これはサークル・オブ・コントロールの内側にある、と考えます。

それを取り巻くサークルは「サークル・オブ・インフルエンス」です。これは自分が影響を与えることのできる出来事です。チームの方針を決めるのは課長だとしても、課会などで意見をすることができ、他の人がそれをサポートしてくれる環境があれば、そこに影響を与えることができます。すると、「チームの方針」は、サークル・オブ・コントロールの外側ではありますが、サークル・オブ・インフルエンスの内側にはある、ということになります。

一番大きな外環が「サークル・オブ・コンサーン」です。現場の一担当者にとって、課の方針に口を出すことはできても、在宅勤務に関する会社の方針をコントロールしたり、それに影響を与えたりするのはまず不可能でしょう。すると、これはサークル・オブ・インフルエンスのさらに外側、ただコンサーン(心配)するほかない出来事になってしまいます。会社の方針が変わらず在宅勤務が続けられるか? をいくら心配しても、そこにいくらブレインパワーを使っても、結局は何も生み出すことができないのです。

このとき大事なのは、意識をサークル・オブ・コンサーンの中にある出来事から、より内側にある出来事、とくにサークル・オブ・コントロールの中にある出来事に移すことです。自分がコントロールできる出来事にブレインパワーを集中させることは、仕事や人生の生産性を高めてくれるだけではなく、幸福感や充実感も圧倒的に高めてくれるのです。これが「サークル・オブ・コントロール」という考え方の肝です。

「サークル・オブ・コンサーン」からは逃げられない

忙しくても、自分が状況をコントロールできる環境であれば、それほどストレスを感じないことが知られていますこれは経験としてもよく解るのではないでしょうか。上司や先輩が帰るまでは新人も帰りづらい、という雰囲気の職場で、残業に対して上司と新人が感じるストレスには雲泥の差があるでしょう。

そうなると、誰にも指示されることのない経営者はストレスフリーなのでしょうか。知り合いの経営者を見ていると、全くそんなことはなさそうです。カリフォルニア大学のフリーマン教授らが行った調査では、起業家はそれ以外の人とくらべて、むしろメンタルを病みやすいことが解っています。うつや双極性障害などの問題を抱える人は、起業家では実に17%ポイントも多いのだそうです。

経営者になると、「サークル・オブ・コントロール」「サークル・オブ・インフルエンス」が広がるのは確かでしょう。しかし、同時に、「サークル・オブ・コンサーン」も大きく広がっていきます。不況や円高などのマクロ経済環境。ライバルの動きなどのミクロ経済環境。コロナや働く人の価値観などの社会環境。そうした外部環境のほとんどは、全くもって経営者のコントロールや影響力が及ぶものではありません。

結局、人生には「サークル・オブ・コンサーン」がどこまでもついてまわるのです。人類史上最高レベルの権力者ナポレオンでも、腹心が謀反を起こしたら? ロシアが侵攻してきたら? はたまた病気になったら? などという不安からは決して逃れらなかったでしょう。むしろポジションがあがり、担う責任と権力が大きくなればなるほど、サークル・オブ・コンサーンは無限に大きくなっていきます。だからこそこの考え方はリーダーの必須科目として、グローバル企業の研修に取り入れられているのです。


「神頼み」がむしろ合理的になるケース

「サークル・オブ・コンサーン」の大きさは、そのとき自分が置かれているポジションによって変わります。だから、メンタルを「病みやすい」ポジションや状況というのは確かにあるはずです。経営者はその代表例でしょう。しかし、置かれているポジション以上に、健全な精神を保つのに大事なのは、サークル・オブ・コンサーンに考えをとどまらないということです。コントロールできないことは「ただ受け入れる」のです。ただ、それが難しいのですよね。

ここに一つの解決策があります。「信仰」です。世界のリーダーには信仰を持つ人が少なくありません。歴代のアメリカ大統領は全員がキリスト教徒です。無宗教の大統領は一人もいないということです。他にもG7の首脳でいえばスナク英首相はヒンドゥー教徒、イタリアのメローニ首相は敬虔なカトリック教徒です。ビジネスリーダーは政治家より信仰を公にしない傾向がありますが、仏教(曹洞宗)の影響を公言するジョブズ氏をはじめ、信仰を心の支えとする人は少なくありません。

信仰というと、非科学的で前近代的と感じる人もいるかもしれませんが、現在でも世界のリーダーたちがそれを捨てずにいるのは、そこにはある種の合理性があるからでしょう。むしろ、行き先が見えない、不安だらけの現代だからこその合理性がある、とも言えます。信仰がある人は、サークル・オブ・コンサーンに思考が迷い込んでしまったとき、そこはえいや! と信仰に委ねることで、限られたブレインパワーを考える意味のある問題に振り向けることができるのです。考えても意味のない問題にとらわれ、結局なにも生み出せず、自分も不幸になってしまうことのほうがよっぽど非合理だとも言えます。

考えるべきことを考え、できる限りの手をつくしたら、あとは「サークル・オブ・コンサーン」には目もくれずにひたすら突き進むのがむしろ合理的なケースも多々あるのです。まさに「人事を尽くして天命を待つ」です。「天命」を信じられない、信仰のない現代人には、そんなときに「サークル・オブ・コンサーン」を振り払うためのおまじないが必要です。それがまさに例の「フォース」だった、というわけです。

かつて偉大なリーダーが私たちにかけてくれた言葉を、ここで私もしたり顔で繰り返しましょう。

フォースと共にあらんことを!

もちろん、この世はスターウォーズが好きな人ばかりではありません。

さすれば、みなさんが自分にあった「おまじない」を見つけられんことを!

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マーケターのように生きろ: 「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動

#COMEMO
#NIKKEI

<参考資料>

Entrepreneurship Research
[FT]スナク氏、野心的な現実主義者 英首相へ起死回生


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