「欧州委員長>ECB総裁」である
非常に丁寧に書かれた記事なので一読推奨だと思います。日本ではECB総裁に比べてマイナーな印象が強い欧州委員長ですが、権力は圧倒的に欧州委員長の方が強いものです。ブンデスバンクの矜持を脇に置き政治的な打算に徹した場合、勝率が高いのが欧州委員長ならば、当然、メルケル首相としてもそちらを選ぶでしょう。
そもそもユーロが導入されてから20年が経過しようとしている中、独連邦銀行(ブンデスバンク)のDNAを色濃く継いで生まれたECBのトップにドイツ人が未だ一度も就いたことがないという現状が異常でもあります。それは事実です。だからこそ、この点、目下注目すべきは副総裁ポスト(2018年6月~)を断念したレーン・アイルランド中銀総裁とバイトマン総裁との一騎打ちであり、どちらが就任してもタカ派寄りかつ史上最年少のECB総裁誕生というストーリーが想定されていました。
しかし、欧州委員長は任期中に自身が率いる欧州委員会の政策方針をまとめあげ、欧州議会に対し法案提出権を持ちます。欧州委員会はEUの行政府であるため、事実上、EUの向かうべき方向性を規定することが出来ると言っても過言ではありません。なお、欧州委員会メンバーの解任権も有します。また、既に日々の報道でも目にしているように、G7やG20といった場にもEUの代表として首脳級として出席しています(なお、EUからは欧州委員会委員長に加え欧州理事会議長も出席するので、この2つのポストがとりわけ高級ポストということが分かるでしょう)。その他、欧州委員長の権能は示唆する事実は多いですが、要するに欧州委員長はEUのトップであり、存在感が格別大きいとはいえ専門機関の1つであるECBのトップとは文字通り「格」が違うものというのが私の印象です(もちろん、その「格」は明示されていませんが)。そもそもECB総裁は政治と距離を置くことが本分ゆえ、この点でEUの中枢にはありません。
いずれにせよ、これで欧州議会選挙の持つ意味がドイツにとってグッと重要になりました。欧州議会の多数派が推す候補者が欧州委員長になることが通例だからです。その候補者はもう今秋に決まってしまいます。今秋にはECBのQE縮小スタート、イタリアの来年度予算審議スタート、ブレグジット交渉期限の到来など、欧州にとってのイベントが目白押しです。「試練の秋」となりそうです。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34540460U8A820C1I00000/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?