見出し画像

人的資本を高めるために出来るシンプルなこと。

こんにちは。Funleashの志水です。いつもnoteを読んでくださりありがとうございます。

今日は2022年に経営・人事界隈でもっとも注目を浴びたキーワードの一つ「人的資本経営」について書いてみます。

企業価値の中核である「人材」を資本と捉え、積極的に投資することで、中長期的な企業の価値向上を目指すことを「人的資本経営」と呼びます。

新しい概念と思われがちですが、実は経済学者のアダム・スミスが18世紀に提唱しており、1960年代には関連する本も出ています。
といっても抽象的でちょっとわかりづらいので下の図をご覧下さい。

経済産業省HPより

ひらたくいえば資源(人件費)ではなく、人材を資本としてみなしましょう。モノへの投資は限界があれど、ヒトへの投資は5倍にも10倍にもなります。投資して正しくマネジメントすれば、企業の価値は上がるよ、ということですね。

2020年には人的資本の概念を整理した「人材版伊藤レポート」を経産省が発表。そこでは3つの視点と5つの要素からなる人的資本経営のコンセプトが整理されていました。

抽象的な概念を説明し、ベンチマークとして活用できるアイデアや数値(ROE8.0%など)を示し、日本企業の取り組みの流れを大きく変えたという点においては高く評価されるべきだと思います。

「あるべき論」としてのご指摘はごもっともだし、事例も理解はできます。
一方で、人事のプロならば、これってずいぶん昔から指摘されていることで特に目新しいことではないし、言葉を変えてるだけよねー、何を今さらと冷ややかな反応。実は人事界の識者やソートリーダーの間では評判は良くないのです。

天下の伊藤レポートをディスるとは、身の程知らずが!とお叱りを受けそうです。

ですが、「なぜ日本企業が取り組めていないのか課題の抽出ができていない」ため、表面的な打ち手が示されているにすぎず、日本あるある、数字の開示や施策ばかりが論じられています。

経済産業省 『 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 』より

それを裏付けるのがこちら。

2年もたたないうちにバージョン2.0が公表された理由をご存知ですか?最初のレポートを読んだ多くの人事担当者から「これじゃよくわからん。具体的に何に取り組めば良いのですか?」という声があがったそうです。

そんな背景もあり、今回のレポートには下記が追加されています。

経済産業省 『 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 』より


個人的には懸念している点がいくつかあります。

【具体的な取り組みや工夫をそのまま実行】
上に書いてある8つの実行すべき具体的な取り組みや施策を入れて満足する日本企業が続出してしまうこと。

経産省もわざわざ「実践例ですよ」と書いてあるのに(目立つようにフォント60太文字で書いてほしかったw)教科書とチェックリスト大好きな民族ですから、これらの施策を導入することが目的になってしまうのは明らか。
人的資本に投資しています!といっている会社の話を聞くと8つの項目をまんべんなくやっていると自信満々。

もちろん、リスキリング、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)、働く環境の改善。どれも重要なんです。

ですが、一番大事なのは自社の独自性をどう出すか。他社と差別化して競争力を高めることが目的ですよね。横ならび制度をいれるだけで事業が成長してないのは歴史を見れば明らか。過去から学びたいものです。

【人的資本と企業価値向上の関係】
人的資本を高めたから資本効率が高まり、企業の価値が向上したのか、それとも企業が成長したから人的投資が可能になったのか。

相関関係はあるものの因果関係については明確なエビデンスに示されてないため、腹落ちしてない経営者が投資に及び腰になるかもしれません。
成長企業は積極的な人材投資を行えますが、業績が伸びていない企業や、余裕のない中小企業はあきらめてしまう可能性があります。

例えば下の記事。業績が好調な竹内製作所さん凄いけど、こんな金額は投資できないよという企業は始める前からあきらめてしまうかも。

【人的資本=研修やコーチングの幻想】
人材に投資といえば研修!研修やコーチングをやればいいのだ。そう勘違いした善良な日本企業が人材サービス系会社の餌食になってしまう。
そもそも教育したら人材価値があがるというのが幻想です。

結局のところ、投資しても経営へのインパクトがなければ、つまり、企業価値の創造・向上につながらなければ人的資本経営とはいえません。

じゃあ何をやればいいのでしょうか?

好きな仕事を選ぶ⇒自ら専門性を高める⇒成果を発揮する⇒きちんと報いる

シンプルな人材マネジメント。
これがOSだとすると、経産省が示している8つの実行すべきアクションはアプリにすぎません。どれほど優れたアプリをいれても、土台のOSが機能しなければ使えないのです。ここに気づかないと高いアプリを入れても動かない状態はこれからもずっと続きます。

適切な人材マネジメントのサイクルが回れば、組織に自律的な人材が生まれます。

①ブルシットジョブを無くし社員が意義を感じる仕事を創る
②スキやワクワクを感じる仕事を社員が自ら選べる
③成果が出たら評価して報酬をあげる
④投資が回収できない人材には別の活躍の場を見つけてもらう

スキは人によって違うから多様性が生まれる。
スキに突き動かされる人材はおのずと成果を生み出します。そのような個のチカラを組織の成果に繋げることで究極の差別化が可能になるわけです。

多くの企業をみていると③、つまり報いるの部分をやれているところが少ないことに気づきます。
④も同じく。抱え込むことが美徳になってます。

利益がでたら設備投資に回すだけでなく、成果に応じて昇給し、賞与などを払う。
社員が提案するアイデアに投資し事業を育てる。この好循環が生まれることが人的資本経営の本質です。

これらをやるのは人事の仕事です。
ですが、これまで事業から遠いところで給与や労務管理しかやらせてもらえず、迫害されていた日本企業の人事部。急にROICだ、ROEだ、PBRだといわれても不安になるかもしれません。

あるべき経営指標を財務部門と人事部門がしっかり握り、経営が戦略を実行できるように共に支援する。なかなか実現しなかった財務と人事のマリアージュが不可欠です。

「財務目標の達成」と「社員が自ら選ぶ」という相反する概念を両立させるのはホントに難しい。
でも、本気でここに取り組む企業だけに人とお金が集まります。これこそが人的資本経営です。

さて、最近は人的資本に関連する講演や相談が増えてきました。

先日もサイダスさんの「PeopleSummit-人的資本と働きがいを考える-」というセミナーに(株)エスノグラファー代表の神谷俊さんと登壇し、「人的資本を高められている組織はここが違う」というテーマで熱く議論しました。

そちらのグラレコがこちら。わかりやすくまとまっているので最後にご紹介しますね。