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「自動車」はプラットフォーム化していく

2000年代にプラットフォームという言葉がITの文脈で使われるようになったころ、その意味は「水平分業」でした。たとえば新聞記事というコンテンツで言えば、かつては新聞社に勤務する記者が取材し、新聞社の編集局で記事化され、新聞という紙のパッケージにまとめられ、トラックで新聞専売店に運ばれ、各戸に配達されていました。新聞社による垂直統合ビジネスだったのです。

垂直統合から水平分業へと進んだ初期のプラットフォーム

インターネット時代になると、この垂直統合が解かれていきます。ヤフーニュースやスマートニュース、グーグルニュースのようなプラットフォームビジネスが出現し、このプラットフォームを経由して初めて記事は広く読まれるようになりました。新聞社はこれに対抗して自社サイトをつくりましたが、集客力と拡散力ではプラットフォームのほうがずっと強力で、ニュースの配信基盤をヤフーやスマートニュースに奪われていく。

つまり垂直を解かれ、「編集」と「配信」が二つに水平に分断されたのです。これによって新聞社はデジタル分野での収益を高めていくのは難しくなり、各紙はペイウォール(有料の壁)の内側に立てこもるようになったのです。

2010年代、プラットフォームが変化した

しかしこのプラットフォームモデルは、近年になって大きく変わってきています。そのきっかけは言うまでもなく第三次人工知能ブームであり、このブームを牽引している深層学習モデルの急速な進化です。これによって、「プラットフォームという基盤のうえで自由に情報が流れる」という当初のプラットフォームモデルが、「プラットフォームという基盤の上で流れる情報を、AIがコントロールする」という方向へと舵を切りました。

これはもはや水平分業ではなく、AIによる新たな垂直統合です。以前のプラットフォームとはまったく異なるものなので、これを仮に「プラットフォーム2」と呼びましょう。

現代のプラットフォームは垂直統合である

プラットフォーム2では、プラットフォーム上の端末がデータを吐き出し、そのデータをAIが読み取って特徴・傾向を抽出した上で、その結果を用いて端末をコントロールしています。これは垂直統合の新しい姿に他なりません。

たとえばフェイスブックで言えば、このSNSの端末はひとりひとりのユーザーです。ユーザーが投稿した内容からAIが特徴・傾向を抽出し、それをもとにユーザーひとりひとりに最適化された広告を配信する。つまりAIによってユーザーの購買意欲などがコントロールされており、これが最近の「監視資本主義」批判にもなっています。

深層学習による特徴・傾向の抽出で厄介なのは、その因果関係やロジックが人間には理解できないことです。深層学習の本質は、比較的単純な方程式に膨大な数の変数をぶち込んだものであり、それがなぜ人間の気づかないような相関関係を見つけてくれるのかは、人間には理解不能です。これは「AIの黒魔術化」とも言われており、プラットフォーム2を許容する限り、われわれはこのロジックのなさを引き受けていかなければなりません。

このプラットフォーム2は、完全自動運転が成立した先の自動車ビジネスにも当てはまることが予想されます。現在の自動運転はまだヒトのドライバーが必要ですが、ドライバーが不要な自動運転レベル4の実用化も目前に迫っています。

これが実現すると、交通事故や渋滞回避のためにヒトが運転するクルマそのものを道路から排除するという方向に進むのが自然な流れでしょう。クルマの私有は過去のものとなり、公共交通としての自動運転車が街を走り回って、必要な場所で客を乗車させ、目的地で下ろしたら、迅速に次の客をピックアップするという最適化された交通システムが求められるようになります。

クルマが駐車場に死蔵されない未来

これはまさに数学の有名な課題である「巡回セールスマン問題」(複数の都市を巡回して出発地に戻る場合、どのような経路を通るのかが最短かを解く)です。都市の数が少なければ容易に解けますが、20都市ぐらいの数になると組み合わせは兆を超える単位になり、スパコンであっても容易に解けなくなると言われています。この問題の正解を求めるのは依然として困難ですが、近似値であればAIによって求められるようになってきています。

これを応用すれば、自動運転車のロスタイムを極限にまで減らした公共交通システムを構築できるようになるでしょう。そうなるとクルマというハードウェアは端末になり、プラットフォーム化します。クルマからは乗客のパーソナル情報や運行情報、リアル空間のさまざまな情報などがデジタルデータとしてプラットフォームに送られ、Aiがここからさまざまな特徴・傾向を抽出し、クルマや乗客の側にフィードバックするようになります。そのデータの価値が十分に高ければ、現在のフェイスブックが無料であるように未来の自動運転のクルマも無料で運行できるようになるかもしれません。

われわれヒトはデータ発生装置にすぎないのかも

ここでは重要なのはあくまでも流れ続けるデジタルデータであり、フェイスブックのユーザーである人間にしろ公共交通システムにおける自動運転車にしろ、流れるデータを生み出すデータ発生装置に過ぎなくなっていくのです。

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