海外のマンガ出版社は紙で生き残る?ドイツ編
日本のマンガが海外に続々と輸出される陰で、現地の出版社はどうなるのでしょうか?今回は1例としてドイツの状況を俯瞰してみます。
ソニーG傘下のアニメ配信最大手クランチロールはマンガアプリの導入を発表しました。KADOKAWAも海外展開を強化します。集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+」では、日本から海外にアプリを通じて直接、最新話が配信されます。
そこで最近、気になっているのは、では、世界各国のマンガ出版社はどうしているのかという点です。日本から翻訳された電子書籍版が配信されれば、現地の出版社はもうやることがないのでは?とも思うのですが、消滅しないとしても少なくともビジネスモデルは変わりそうな気がするのです。
ドイツの書籍業界誌『Börsenblatt』によると、2023年のドイツの書籍業界の総売上高は97億1000万ユーロで前年比2.8%増加しました。このうち、電子書籍の割合はわずか6.1%なので、日本と比べると非常に紙の本が強いと言えます。ではマンガはどうなのかというと、内訳は発表されていないのでなんとも言えませんが、紙が強いというかほぼ紙です。
日本の出版社が電子書籍で現地の読者に直接リーチする一方で、現地の出版社は紙を重視し、アクスタや収納用化粧箱を付けたコレクター層を狙いつつ、ライト層に向けては廉価版で囲い込みを行っているようです。とはいえ、大手のマンガ出版社カールセンやエグモント、Tokypopにイタリアのパニーニのラインナップを見ると、前者の2社は電子書籍版も展開していますが、後者についてはなさそうなので、対応は別れています。
マンガの電子書籍市場が拡大するかどうかのキーとして、各社の電子書籍を扱うオンライン書店の存在が語られることがあるようです。ドイツに関しては、各社が電子書籍版を展開するにとどまり、異なる出版社のマンガが読めるような大きなプラットフォームはなさそうというのが現状です。
このドイツの紙のマンガ市場ですが、近年、プレイヤーの新規参入が相次いでいます。
コミック出版社のCross Cultがマンガレーベル「Manga Cult」を立ち上げたのが2017年で、『鬼滅の刃』というキラータイトルで大成功したわけですが、2024年秋に老舗児童書出版社のLoeweがマンガレーベル「Loewe Manga」で市場参入し、年末にはコミック出版社のSplitterがマンガレーベル「Manga+」の設立を発表しました。いずれも、紙のマンガです。他にも、新興勢力はあるのですが、筆者が注目しているのは、DokicoとYomeruです。両社ともに、出版社ではなく、アニメやマンガのニュースサイト運営者が関わっているという共通点があります。
共通点はそれだけではありません。Yomeruは、TVアニメ『日本へようこそエルフさん。』の放送開始に合わせて、マンガのライセンス獲得を発表しました。アニメはドイツではクランチロールで配信されています。
そして、Dokicoはというと、雨川透子氏による小説『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』(通称:ルプなな)のドイツ語版が大当たりし、今年の欧州の主要アニメイベントのひとつ「AnimagiC」で作者を招待し、ファンの期待に応えます。ルプななといえば、アニメ化され2024年1月から日本で放送されました。ドイツでもクランチロールで配信されています。(「AnimagiC」のゲスト発表ページ↓)
この2例を取り上げたのは、ドイツでもメディアミックスがようやく始まったのかなと思ったからです。アニメやマンガ、小説といったことなるメディアの相乗効果を利用した戦略は日本では90年代の「スレイヤーズ」が代表例かもしれません。
ドイツではこれまで、マンガ出版社とアニメ販売会社は連携することはなく、別メディアの作品の有無、製作時期とは関係なくローカライズされている印象でした。
先に挙げた既存の大手マンガ出版社は、今でもその傾向があり、ドイツの編集者が独自に作品を選定しているようですが、新興のYomeruやDokicoはアニメや他メディアとの連携を重視した作品選びをしている様子がうかがえます。それが全てだとは言えませんが、新規参入勢力としては、「目利き」経験が不足している分、既存の人気作に寄り添っておけば手堅いと考え、そこに商機を見出しているのかもしれません。
以上、ざっくり俯瞰してみました。マンガや小説(ラノベ)の紙版というビジネスモデルは現時点ではまだ有効なのかもしれませんが、そこに将来性があるかというと電子書籍の存在を考えると不透明な部分も大きく見えます。もちろん、紙か電子書籍かという二者択一論ではなく、住み分ける未来もあるでしょう。いずれにせよ、その時、現地のローカライザーのビジネス的な関わり方は変革を余儀なくされるように筆者は考えています。皆さんはどう思いますか?
訂正情報(2025年2月2日):雨川透子氏のお名前を雨「側」と誤表記しておりました。お詫び申し上げます。
タイトル写真:デュッセルドルフ中央駅の書店のマンガコーナーの様子。(2024年11月、筆者撮影)