【読書メモ】ドイツ、移民、日本への提言
久しぶりの読書メモです。巷では海外に住んでいるだけで「●●在住」を売りにして中身の無い情報を切り売りする向きが凄く多い印象で、とりわけドイツに関しては日本との類似性を感じる人も多いせいか(私は全然似ているとは思いませんが)、ドイツ在住を盾にして適当な情報発信をする人をまま見かけます。なお、報道においても今回のコロナショックに対するドイツの整然とした対応を好意的に報じる向きが多く、未だ緊急事態宣言の最中にある日本(東京)の人間からすると非常にためになる情報も多く見られます。
しかし、今回紹介する『移民 難民 ドイツ・ヨーロッパの現実2011-2019 世界一安全で親切な国日本がEUの轍を踏まないために』(川口マーン惠美 氏)はドイツ在住37年の著者が見聞きしたことを、しっかりと彼女なりの考察を交えた上で、批判的な目線を多めに交え、色々な気づきを与えてくれます。移民受け入れに舵を切ろうとしている日本への提言も綺麗に纏めている良書です。
冒頭、「ドイツの現状を知ることは、日本の未来の移民政策にとって大いに参考になる」という一節が見られますが、まさにこのコンセプトがしっかり張り巡らされており、この本を読むことで移民政策に対する考え方を変える人が出てきても驚きません。私も人並み以上には欧州をウォッチしているつもりではありますが、これほど実地に基づいた情報はやはり在住者ならではだなと勉強になりました。
書きたいことを凄く沢山ありますが、最後の方に見た以下の箇所が非常に印象に残りました。たかだか数年住んだくらいで「海外では~」と日本との比較した上で批判を展開し、悦に入って語る人々にこそ読んで貰いたい文章です。こうしたメッセージこそ「長く住んでいるからこそ言えること」です。
忠誠心やら愛国心は、長く住んだ国に対して湧いてくるものでもない。四十年の移民の歴史を持つトルコ人移民でさえそうだし、ドイツに三十七年も住む私も同じだ。ドイツ語は話せるし、読み書きもできる。ドイツの法律を遵守し、子供も三人育てた。子供たちはすでに就労し、税金を払い、ドイツの社会保障の一角を担っている。私は模範的な外国人だ。しかし、だからと言って、私がドイツ社会に本当の意味で溶け込んでいるかというと、そうとも言えない。ドイツ人の思っていること、感じ方などは、手に取るように分かるが、自分もそのように感じるかというと、それは別だ。ドイツ人とは、どんなに長く付き合い、どんなに親しくなっても、どこか一枚、絶対に越えられない壁のようなものがあると感じる。しかし、別にそれを越えたいとも思わない。その究極にあるのが、「だって、私は日本人だもの」の一言だ。ドイツに対するシンパシーはじゅうぶんにあるが、真の愛国心やら忠誠心は、おそらく死ぬまで住んでも熟成しないように思う。
これらの文章は帰結に近い部分ではありますが、ドイツ政治の現状を知る上でも非常にためになる本です。日本に居ると如何にメルケル率いるドイツが強靭で素晴らしいものかを説く論説が支配的ですが、彼女が非常に日和見主義な政治姿勢を持ち、またターニングポイントとなった15年9月の無制限難民受け入れも所詮は安価で便利な労働力を欲しがっていた産業界の声に押されたものであった可能性などをしっかり指摘しています。
とはいえ、著者は今後の日本が程度の差こそあれ、移民に依存せざるを得ないことも一方で認めており、そうであればこそ、守るべき意識があるということで以下のような提言をしています。この辺りは長年在住し、尚且つ問題意識を高く抱いているからこそ出てくるものだと察します。※私が心に残った部分を引用させて頂いております。双方の順序や接続は異なります。
●受け入れ国側は、最初から、条件や限界をはっきり提示する必要がある。遠慮をしたり、曖昧にしておくと、将来、絶対に破綻する。ドイツでは、何十年ものあいだ、外国人を安い労働力として利用し、どこか蔑みつつ、一方では、腫れ物に触るように扱うという歪んだ接し方をしてきた。だからこそ、今になってその後遺症が出ている。
●ヨーロッパの多くの国では、移民政策は失敗した。これから帳尻を合わせようにも、あまりにも長いあいだ放置しすぎたために、一筋縄ではいかない。もし、これをうまくやれる国があるとすれば、世界中で、日本しかないと思う。日本人が自分たちの立ち位置をはっきりとさせ、そのうえで外国人とフェアな関係を築き、さらに、自分たちの力で伝統や文化を継承していくつもりなら、日本という国の屋台骨は、そんな簡単に脅かされることはないと、私は固く信じている。
なお、ドイツ関連ではこうした生活に根差した現地事情や政治、外交などに係る論点を解説する日本語の本は多くあり、良書も多いとは思います。しかし、こと経済や金融となると、しばしばドイツ経済の現状や展望が日本でも話題になる割には情報が少ないように感じます。この辺りはもって自分の課題としたいな、と考えております。