中世イベントも再開したドイツ、「異世界ドイツ」とは?
フランクフルト近郊の町マインツ=カステルで開催された中世イベントに参加してきました。今回は再開しつつあるドイツの中世イベントと日本人ならではの視点かもしれない「異世界ドイツ」について考えてみます。
日本とドイツ、コロナ規制とイベント開催
コロナ禍も3年目となる今年は日本でもイベントが再開しつつあるようです。
ドイツでも以下の先月の日経新聞の記事で報じられている通り、コロナ規制の「ほぼ撤廃」が決定し、4月に入り実際に医療施設などを除いて撤廃されています。
ワクチン接種・抗原検査の陰性証明の確認もほとんどの場合で不要となりました。ただ、電車やバス内でのマスク着用義務は継続しています。
そもそも中世イベントとは?
ドイツでは近年、中世ヨーロッパの歴史ファンが主導しイベントが多く開催されています。中世に関連する衣装や雑貨、蜂蜜酒などの食品、軽食を扱うマルクト(出店)に加えて、中世の世界感にインスピレーションを得た音楽やダンスのライブショー、甲冑をまとった騎士による馬上の槍試合や剣と盾を装備した戦士たちによる格闘ショーが催されます。
ドイツの中世イベントは今年700以上
どれくらい頻繁に開催されているかというと、例えば中世イベントの開催情報をまとめたサイト「Mittelalterkalender.info」によると、イベントが本格的に再開した今年4月から年末までの期間だと掲載されているイベント数は700件を超えます。ただし、中世イベントといっても必ずしも史実に基づいた歴史イベントとは限らず、エルフや妖精などファンタジー要素を含むイベントもあります。
日本人目線の新たな魅力?「異世界ドイツ」とは?
こういった中世イベントですが、日本人にとって別の楽しみ方もあるのではないかと筆者は最近考えています。それがネットでたまたま見かけた「異世界ドイツ」という表現です。
日本のアニメやマンガ、小説では近年、いわゆる「異世界転生」というジャンルが大きく成長しています。基本的に現代の主人公がある日、突然異世界に転生してしまう話しですが、転生した先の異世界は西洋ファンタジーの世界観が多く、中世のヨーロッパを基礎とした世界設定です。
ドイツの中世イベントの参加者は基本的に中世ファンであり、日本人としてもその魅力は、中世ヨーロッパの雰囲気を体験できることにあると思います。
一方で、日本のアニメやマンガ、ゲームが好きであれば、中世イベントは、「中世ヨーロッパを体験できる」から魅力的なのではなく、日本の「異世界転生」もののアニメやマンガの世界観がそこに実在することが素晴らしいと感じることもあるのではないでしょうか?
(筆者は、ドイツの教会でバッハのコンサートを聴いても「ドラクエ」のBGMをリッチに再現したものだという理由で感動します。もちろん因果関係はまったく逆ですが。)
ドイツの古城や木組みの家による町並みを見るたびに、「ドラクエっぽい」とか「まるで異世界転生ものの世界!」と筆者は毎回感動しています。
そして、この中世イベントの多くは、古城の敷地や木組みの家が立ち並ぶ旧市街地区で開催されます。異世界っぽいロケーションに加えて、異世界っぽい服を来た参加者の皆さん(a.k.a. 「町の人」)がいて、騎士が馬に乗り槍試合を催し、楽団や踊り子といった娯楽も提供される。
と考えると、ドイツの中世イベントは、まさにこの「異世界ドイツ」への「転生」を非常にリッチに体験できる機会なのでは?と改めて感じました。(余談ですが、例として筆者の「異世界転生」的な思考の一片をお見せしておきます。)
異世界転生したけど現実に戻ってきた
気軽に異世界転生を体験できた中世イベントでしたが、現実に戻ってきた話しにも触れておきます。それは武器と防具を装備させてくれた関係者の方の話しです。コロナ禍によりイベントが禁止された期間に彼は衣装や武具甲冑の手入れをしていたそうです。
中世イベントでは、彼は戦士として格闘ショーに参加していました。コロナ規制により格闘ショーの練習も「屋外でのスポーツ禁止」に該当したため、精神的にも辛かったとか。イベントは再開しましたが、彼の出番はありませんでした。戦士たちの格闘ショーはウクライナでの戦争を鑑み、実施を見送ったそうです。中世イベントには子供連れのファミリー層も多く、もしかしたら争いをテーマにしたショーを見せることによる子供への悪影響を考慮した結果なのかもしれません。中世ファンにとって中世趣味は単なるホビーではなく、人生の一部でもあるようです。
戦争が一刻も早く収束し、彼の出番も復活して欲しいと思った筆者でした。
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タイトル写真:中世イベント「Osterspektakel」での武器と防具の店の様子。記事内の写真とともに筆者撮影。