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再び注目を浴びる「夢の水素エネルギー」

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

元科学少年としては「水素エネルギー」と聞くだけでワクワクしてしまいます。最近にわかに水素に関するニュースが盛り上がりを見せており、目が離せません。

三菱重工業は石炭の代わりに水素を利用して鉄をつくる設備を欧州に建設する。二酸化炭素の排出を実質ゼロにする製鉄設備としては世界最大級となる実証プラントをオーストリアの鉄鋼大手と開発し、2021年にも稼働を始める。温暖化対策を成長戦略に据える欧州は水素製鉄の実用化を急いでいる。次世代環境技術の開発競争が激しくなってきた。

契機となったのは、米国新大統領に就任予定のバイデン氏が地球温暖化対策に熱心なこと。また、11月に行われたG20 リヤド・サミットにおいて、菅義偉首相が「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指す方針を世界に向けて表明したことからでしょう。

二酸化炭素(CO2)はその名の通り、炭素(C)と酸素(O2)が結びついたものです。現在エネルギーとして利用されているガスや石油といったものは、炭素と水素(H)からなる化合物です(例えば、メタンはCH4)。これを空気中の酸素を使って燃焼させると、CO2が出てきます。

水素が注目されるのは、酸素と反応してもH2O、つまり水しか出てこないから。だから、究極のクリーンエネルギーとも呼ばれています。

この究極のクリーンエネルギー。古くは1989年から始まった「常温核融合」にまつわる社会現象があります。常温での水素原子の核融合反応が実際に起きたという報告でした。

日本では1973年に起きたオイルショックを契機として、翌年に商産業省工業技術院(現・産総研)により「サンシャイン計画」が出されました。石油に代わるエネルギーを研究するということで、石炭の液化、地熱利用、太陽熱発電、水素エネルギーの各技術開発に重点が置かれていました。後に環境対策や省エネルギーなどの研究計画と統合された「ニューサンシャイン計画」となり、2000年まで活動を続けていました。

以下の記事では、近年の政府の戦略はニューサンシャイン計画の一部であったWE-NET構想の生まれ変わりの一面があると指摘しています。

1990年代に日本政府は「水素利用国際クリーンエネルギーシステム(WE-NET)」と呼ぶ構想を打ち出していた。再エネが豊かな地域で水素を生産しエネルギー需要地に運ぶ国際供給システムで、93年度から10年間にわたり事業化可能性の調査や技術開発が進められた。近年の日本政府の「水素基本戦略」にはWE-NET構想の生まれ変わりの一面がある。

国内の再生エネルギーだけでは必要な量の水素を賄いきれないとみて計画されているもので、実際に日本とオーストラリア間で実証が進められています。

脱・化石燃料という意味では、自然エネルギーから得た電力で水を電気分解することで水素を取り出すのが理想的でしょう。誰もが学校での理科の実験の記憶からか、「水素」と聞くとこのような完全にクリーンなエネルギーを連想しがちです。しかし、実用化に向けて大量の水素を調達しようとすると、化石燃料から水素を分離する方法を取らざるを得ません。その過程でもCO2は出てきますので、排出したCO2を回収して利活用につなげる技術が重要になってきます。

東芝は、工場などから排出される二酸化炭素(CO2)を一酸化炭素(CO)に変換する際の変換速度を、従来技術の約450倍に高めることに成功した(ニュースリリース)。新開発の触媒電極を用いた電気化学反応により達成したもので、CO2排出量を削減しながら、樹脂・塗料・医薬品などの化学品や燃料の原料となるCOを高効率で生成できるようになる。同社は新技術について、2020年代後半の実用化を目指す。

カーボンニュートラルを目指すには、エコシステム全体を俯瞰してみる必要があります。発電については原子力発電を今後どう位置づけるのかという議論が避けては通れませんし、脱・石油となると中東に代わる重要な地域・国が出てくることにもなりますので地政学的な外交・資源戦略の検討も必要です。

今後は「クリーンで安い電力」を供給できる国が有利になっていくでしょう。日本がどのような未来を描くのか、今後も関連ニュースに注目していこうと思います。

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タイトル画像提供:ezps / PIXTA(ピクスタ)

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