JTCは本当に悪いのか?産業をけん引する新企業が出ないことが問題では?
JTCという皮肉を込めた呼び名
SNSを中心に、JTC(Japanese Traditional Compant)という言葉をいたるところで見かける。日経新聞の引用記事にあるように、伝統的な日本的働き方や仕事の進め方、慣習が残り、変化を好まない風土を持つ企業を指す。現代的ではなく、旧態依然とした組織であることから、ネガティブな意味で使われる。
企業経営において、外部環境の変化に応じて自らも変わり、適応することは重要だ。外部環境の変化についていけないと、競争力を失い、経営状況も悪化する。しかし、現実問題として、環境の変化についていけないからと急に深刻な事態になることは少ない。「ゆでガエル」と表現されることもあるが、緩やかに経営状況が悪くなっていく。そうなると、緩やかに事業規模を縮小していき、緩やかに閉業していく。
イメージとしては、地方にあるひなびた温泉街だ。昭和の社員旅行の団体客向けに事業を作り、その後、平成のデフレ化でサービスを縮小しながら客単価を下げ、コロナを助成金で乗り切った温泉旅館だ。
海外も案外〇TCは多い
海外調査をしていると、よく感じるのはどの国に訪問しても、伝統的なビジネスのやり方から変わろうとせず、硬直した風土を持つ企業が多いことに気が付く。特に、先進国や規模の大きな国になるほど、その割合が大きくなる。
例えば、先進的で変化を好むというと米国のイメージが強いだろう。しかし、実際に米国にいくと先進的なのは西海岸の一部の都市(LAやサンフランシスコ、サンディエゴ等)だけで、その他地域の大多数は伝統的なアメリカの慣習を維持していることに気が付く。
テクノロジーの活用度合いを調査しても、似たような結果が出てくる。バーモント州やワイオミング州の企業や住む人々は、まだカウボーイの時代を感じさせる。
欧州も同様で、フランスも統計データをみると先進的な国のように見える。しかし、実際に訪問すると、先進的なのは一部の企業だけだ。多くのフランス企業では、ビジネスで英語を使おうとはしないし、テクノロジーの活用にも消極的だ。
しかし、国際調査ではテクノロジーの活用や先進性、国際競争力などの面で、日本と欧米では明らかに有意な差がでている。日本は変化に取り残されていると評価を下されがちだ。
この裏には、経済をけん引する企業の顔ぶれが日本では長年変わっていないことが背景にある。米国が顕著だが、『Fortune 100』の顔ぶれはしょっちゅう変わる。エクセレントカンパニーと1980年代にトム・ピーターズとロバート・ウォーターマンに評価された米国企業の多くは、見る影もない。
しかし、『Japan as No 1.』と呼ばれていたころの日本企業の多くは、いまだに日本のトップに残り続けている。トヨタを筆頭に、NTTやSONYなどだ。若く新しい企業が成長産業で存在感を発揮できていない。
日本の国際競争力を向上させるのに重要なのは、JTCだと嘆くのではなく、JTCに縛られない新しい企業を増やすことにあるだろう。