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日本人の結婚が減った原因は、見合いと職場結婚のせいである【コラム10】

1980年代まで日本は皆婚社会でした。

ほんの40年くらい前まで、ほぼ100%が結婚していたんです。

でも、それってよくよく考えたら異常な世界ですよね。

では、なぜ今はこんなに未婚化、ソロ化が進んでしまったのでしょうか?

もちろん、それは複数の要因が絡み合って起きた現象ですから、一言で説明できるほどものではありません。が、明らかに大きな要因のひとつとしてあげられるのが、結婚に至るきっかけの変化です。

日本の皆婚社会を支えていたのは「お見合い」という社会的マッチングシステムです。「お見合い結婚と恋愛結婚の推移」のグラフを見れば、一目瞭然ですが、かつて全結婚の7割を占めていたお見合い結婚は、直近ではたった5.5%まで激減しています。しかもこれは、結婚相談所きっかけ(約2%)を含みますので、伝統的なお見合い結婚はわずか3%程度しか存在しないことになります。そのかわり恋愛結婚が87.7%にまで伸長しています。

© 荒川和久

恋愛結婚がお見合い結婚を上回る分岐となったのは1960年代後半でした。

あれ?おかしいですね。

生涯未婚率が上昇し始めたのは1990年代以降です。それよりも30年以上も前に衰退したのであれば、お見合い結婚減は未婚化には関係ないじゃないんですか?

いえいえ、そうではありません。

1965年に25歳だった適齢期の男性が、生涯未婚の判断基準となる50歳になった時が1990年です。つまり、お見合い結婚比率が恋愛結婚比率を下回った第1世代は、そのまま生涯未婚率上昇の第1世代となったと言えるのです。

そして、もうひとつ忘れてはならないのが、職場結婚です。これは分類上恋愛結婚とされていますが、職場結婚もまた社会的マッチングシステムのひとつでした。当時、「寿退社」や「腰掛けOL」という言葉もあったように、企業は自社の男女社員がくっついて結婚することをむしろ推奨していた時代がありました。

結婚した当人は「熱烈な恋愛の末に結婚したんだ! 」と主張するかもしれませんが、そもそも出会いのきっかけとしてお膳立てされていたということは事実です。

しかし、このお見合い代替としての職場結婚も近年大減少しています。

© 荒川和久

知り合ったきっかけ別の推移をみると、お見合いの尋常じゃない減り方は別とすると、職場きっかけの出会いも最盛期の31万件から18万件へと40%減です(年平均按分換算)。

職場結婚が減り始めたタイミングは1990-95年あたりで、実はセクハラ裁判の判決が出た1992年あたりと符合しているのが興味深いところです。

このコラムでは以前にも書きましたが、男とはもともと告白できない受け身な人間が7割です。そんな男たちが、セクハラを気にしてより行動できなくなった。女性を食事に誘うことすら避け始めたとも言えるでしょう。

もうひとつおもしろいデータを提示します。

© 荒川和久

もっとも婚姻数が多かったのは1972年で年110万件ですが、直近の2015年は64万件と46万件も減っています。一方、お見合いと職場結婚との合算婚姻数を見ると、1972年68万件から2015年22万件とこれも46万件マイナスです。つまり、婚姻総数のマイナス分46万件は、お見合いと職場結婚の減少分と完全一致しているのです。

未婚化の原因を、草食化だとか個人の価値観の変化によるものという人もいますが、決してそうではありません。変化したのはむしろ社会の環境やシステムの方です。お見合いや職場結婚という社会的なマッチングシステムの減少数そのものが、婚姻数減少と一致していることが何よりの証拠です。

だからといって、伝統的なお見合いの復活や職場結婚の推進を実行すればいいか?

そういうことではありません。

婚活マッチングサービスや婚活アプリで出会いの機会を増やせばいいか?

違います。

そんなものは、所詮恋愛強者の遊びの機会を増やすだけです。

皆婚社会を実現した伝統的なお見合いや職場縁というものは、ある意味「共同体の鉄の掟」でもあり、その共同体で生きていく以上「断るという選択肢はなかった」のです。だからこそ社会的システムとして機能した。今更、表面的なことだけなぞっても効果はないでしょう。

大事なのは、まず、未婚化の原因がこうした社会的要因にあることを正確に把握することが先決です。もちろん、不安定な雇用状態や低下する所得など別の経済的要因もあります。しかし、それだけが未婚化の原因ではありません。むしろ問題は、かつて盤石だった地域や職場という安定した共同体の崩壊の方です。安心を手に入れる代わりに、当時の人たちは結婚に自由というものをそれほど求めていなかったわけですから。

仮に、雇用や所得が改善されたとしても、もはや婚姻数が劇的に改善されるとは到底思えません。そもそも男女とも「9割が結婚したいわけじゃない」し、「恋愛に能動的なのはたった男女とも3割しかいない」し、そうした個人の価値観は皆婚時代も今も何も変わっていないのです。そういう本質的な部分をまず、見誤らないことです。一部の男女を除いた7割のマジョリティは、かつての「お見合い」や「職場縁」のようなお膳立てがなければどうにもならないという事実を認識すべきなのです。

あとがき

未婚化を語るにあたって、既存の常識や規範をベースにしても意味はない。個人の脳内ソースで議論するのは、極めて幼稚で不毛です。今まで当たり前と思っていたことが正しいとは限りません。当コラムでは、2月より10回に渡って、こうした誤解や勘違いについて記事化してきました。アーカイブも含めて、ぜひご一読いただければ幸いです。

最近の若者が草食化したわけではなく、バブル期の若者も恋愛していなかった。

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荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。