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コロナ禍、年内東京感染者1000人超えの3つの理由〜指数関数、悪魔の証明、政府/自治体/分科会の三角構造〜”

感染拡大要因が増えれば、感染者は増える

人の移動が増え、3密環境が増え、人々がマスクを外して向き合う状況(すなわち会食)が増えれば感染者は増える。感染者が増えれば、それに伴って重症者も増え、医療崩壊リスクが高まる。

世界がここ1年間大きな犠牲を払って学んだことだ。

遺伝情報の塊に過ぎない無生物のウイルス自体に悪意も善意もない。

唯一の対策「ハンマー・アンド・ダンス」の実行が難しい3つの理由

一旦市中感染が広がってしまった国では医療崩壊の危機に陥ったら一時的な隔離生活に入り(ハンマー)、感染が収まると経済活動を再開し(ダンス)医療崩壊と経済危機を避けながらワクチンの開発を待つしかない。

3月の時点で30以上の言語に翻訳され世界で4000万回以上の閲覧があったTomas Pueyo氏の論文に従って世界各国はコロナ禍と戦っている。

冒頭、次のように語っている。


・私たちの医療システムはすでに崩壊しかけています。
・国々がとりうる選択肢は2つです。今懸命に戦うか、大流行に苦しむか。
・大流行を選択した場合、数十万人が死亡します。一部の国では、数百万にのぼるでしょう。(注:実際アメリカでは30万人近く死亡 12/11時点)
・その先にさらなる感染の波が襲ってくるかもしれません。
・今私たちが一生懸命戦えば、死者数を抑えることができます。
・医療制度も維持できます
これらすべてのおかげで、最も重要ものを確保できます:時間です。
すぐに正常に戻るわけではありません。
しかし、徐々に近づきますし、最終的には通常に戻ります。
経済も考慮しながらこの全てを行うことは可能です。
さあ、やりましょう。

ただ、世界中で取り組まれているシンプルで唯一の対策の実行が難しいのは次の3つの理由がある。

理由1:市民に理解されない2つの指数関数的拡大

感染症の指数関数的実効再生産性

そもそも感染症は掛け算で増える。

春の欧米では1ヶ月の対応の遅れがパンデミックを起こし、アジアと欧米の数10倍の感染者数の差を生み出したと私自身は考えている。

実効再生算数2.6、平均世代日数4.8日としたら、100倍の差を生むには、たった5世代、24日でその差が生まれるのが感染爆発の怖いところだ。

医療崩壊状態に陥った時の感染爆発

次に、1月の武漢、3月の北イタリア、4月のニューヨークを思い起こしして欲しい。医療が崩壊すると、感染者の治療が行き届かなくなり、重症化する、また病床不足に加えて医療従事者人員不足により、重症者を放置せざるを得なくなる。結果死者数が爆発的に増える。また、コロナ対応に病床が専有されることで通常の要入院治療患者の助かったはずの命も失われる。医療崩壊状態の現場では、医療従事者もクラスター感染に晒される。一旦崩壊した医療体制は、さらなる医療崩壊を招く。

旭川は既に危険な状態だ。

普段病院にいかない健常者、医療提供側の現場にいない市民は、医療崩壊のリスク、医療従事者にとっての恐怖が理解できない。

通常のサービス業であれば、閉店時間になったら行列が残っていても店を閉められる。面倒な客がいたらつまみ出すこともできる。医療機関は、それが原則できない。医師法で規定された「応召義務」があるからだ。

「診療に従事する医師は、診療治療の求めがあった場合、正当な事由がなければ拒んではいけない」(医師法第19条第1項)

特に地域医療を支える地域中核病院等は他の病院に行ってくれとはなかなか言えない。

日本医師会、東京医師会の両会長が今回表明している危機感は相応のものだと思う。

ただ、なかなか国民に理解されづらい。

「結局、死者は海外に比べて圧倒的に少ないではないか。」
「医療関係者は、国民の経済全体を考えず自分達の立場だけを主張しすぎではないか。」と市民には取られる。

それは、次の理由2のためだ。

理由2:2週間の時差が生む「悪魔の証明」問題

営業時短などの自粛要請を行っても、その感染拡大抑止効果がでてくるのは早くて2週間後だ。その一方で、飲食店の売上減少は当日から100%発生する。営業自粛を行ったから感染拡大が防げたのか、通常営業でも感染拡大は起きなかったのかの証明は不可能だ。

「悪魔の証明」:もし対象が存在するならば、対象を見つける(物的証拠を提示する)ことによって存在を証明できる。しかし、存在しないこと(消極的事実)を証明するとなると、《証拠がない》というだけでは存在を否定することにはならない。

小池知事の対策が「後追い」と非難されているが、現実が起きる前に対策を打つと「過剰規制」と非難される。経済を考慮すると、構造的に打つ手は後追いになる。

但し、アメリカでは、大統領が経済活動を徹底して優先させ自らもマスクをせず一部の市民もマスク着用を拒否した。その結果が、一日28万人以上が感染し(12/11)、3100人の死者(12/9)が出ている。

経済優先の施策の結果が感染者数、死者数で現れた時には手遅れだ。そして経済も結果として後から死ぬ。

理由3:政府、自治体、分科会の三角構造で常に判断が遅れる

① いつ起きてもおかしくない感染爆発のリスクを抱え(指数関数拡大)
② 医療か経済という難しい選択肢について(医療崩壊 vs 経済崩壊)
③ 施策効果の証明が不可能(「悪魔の証明」)

この上記の状態で、それぞれの立場の違いから、政府、自治体、専門家3者の間で非難の応酬、責任回避の発言が続く。

経済を優先させたい政府、医療を守りたい基礎自治体、科学的根拠に基づき正論を主張する専門家分科会の3者の構造的な対立構造は当初より明らかだった。

そしてこの秋冬に感染が拡大し、解散のタイミングも含めて菅新政権にとっての大きな試練となるであろうことも、政権発足当初の9月上旬から予測できていた。

コロナ禍が長期化し、世論が神経質になっている中、誰も政治的リスクを取りたくない

分科会の尾身会長は、かつてWHOの事務局長の候補として日本国政府から擁立された経歴も持つ、政治からの要請についても一定の理解と配慮のある人だ。その会長が数日、強いメッセージを発している。

政府は、自治体が地域医療の実情をよく知っているので、GOTO施策の対象とするか否かの判断は、まず自治体の首長の判断で申請してほしいという立場だ。(大阪、北海道は、それぞれ吉村知事、鈴木知事の要請によりGOTO対象から外れた。)

但し、小池都知事は、GOTOは国の「お決めになった」施策という考え方で、国の責任において判断してほしいという立場を崩さない。また県を跨いだ全国レベルの人の移動の是非は国レベルの判断としている。

小池都知事としては、7月にのGOTO開始の時は、頭ごなしに東京問題などと非難し「東京外し」た上で強引に前倒し実施しておいて、今更都合の悪い時には、都(=自分)にその不人気な「火中の栗」の政治判断を押し付けるのか、という気持ちなのだろう。知事の発言の中の「それが筋」「責任というもの」等の言葉の端々に、政府に対する怒りの感情を感じる。

結果、一国の総理と首都の首長が直接緊急事態について話し合った結果が「12/17までの65歳以上の高齢者と基礎疾患を持っている人へのGOTOトラベル利用自粛要請」というほぼ無意味な対策の合意に留まっている。

行動自粛の対象とすべきは、無症状状態で移動し、旅先で通常の飲食を行う現役世代だ。

同時に掲載するこちらのnoteで欧米第2波については詳しく分析しているが

ヨーロッパの第2波の原因は、ロックダウンへの開放感から夏のバカンスに人々が移動しパーティなどの飲食を行った結果だ。

「ハンマー・ウィズ・ダンス」はわかりにくい

おそらくGOTOキャンペーン自体は感染拡大の主な原因ではない。人が移動するだけで感染拡大するなら、緊急事態宣言解除以降、定常的に発生している通勤時の満員電車がもっと問題だ。

但しどうしても理解されづらいのは、このキャンペーンが経済喚起策(ダンス)だということ。利用者も一部の人しか恩恵を得られず、本当に困っている飲食店、旅館などに行き渡っているのか、見えない。

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大部分の人にとって、GOTOトラベルで旅行に行っている余裕などない。

医療従事者は、職場にウイルスを持ち込んではいけないと、GOTOトラベルやGOTOイートと無縁な状況でコロナと戦っている方々も多い。

緊急事態宣言等の法整備もなく、私権の制限に極めて慎重な日本国は、国民の自粛に頼るしかない。(逆にその分、我々は行動の自由が他の国々よりも認められ私権の制限も少ない。)

感染拡大防止を国民への自粛要請に頼る以上、政府としてわかりやすいメッセージを出すしかない。

大切なことは「ハンマー」(経済封鎖)「アンド」(からの)「ダンス」(経済喚起)だ。

「ハンマー」(経済封鎖)「ウイズ」(同時に)「ダンス」(経済喚起)は、わかりにくい。

おそらく支持率の急落をみて、菅総理もGOTO見直しを余儀なくされると思われる。既に政府は、東京、名古屋の見直しの調整に入っている。

自分が一度正しいと思った事は、なかなか曲げないとされるここ数日の総理の判断に注目したい。

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