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ステイホーム時代の家庭防音~発信型ビジネスパーソンのための音環境のつくりかた~

 Potage代表取締役・コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。オンライン配信でワークショップ、研修、イベントの提供を日々行っています。打ち合わせの8割はZoomやTeamsを使って、リモートでの実施です。時間帯問わず仕事をしているので、深夜にトークを配信したり、打合せすることもあります。

 そんなステイホーム時代にあって、意外と見過ごされているものの、各地で増えている問題があります。「音問題」です。

 こちらの記事によると、コロナ禍にあって、賃貸の集合住宅における音関連の苦情が5倍に増えた管理会社もあるとのこと。これは通学停止になっていた最初の緊急事態宣言の時期なので今は落ち着いているかもしれませんが、家に滞在して仕事をする人が増え、周辺の日中の音が想像以上にうるさいことに気が付いたり、自身の会議中や電話の声、ウェビナーの音などでご近所から注意された方が多数でていることは想像にかたくありません。

 もともと日本は木造の建物も集合住宅も多く、都市部において近接物件もかなり多いのが特徴です。潜在的に、音トラブルが発生しやすい環境なのです。

 そんな中、家庭でもできる防音対策が注目を浴びています。

 防音対策をすると、自身も音を心置きなく発せられるし、外からの音も響かなくなり、気にならなくなるという利点があります。ライフスタイルの多様化により、周辺住民と生活時間帯のズレが発生しやすい状況ですが、そんな中でもご近所に迷惑をかけずに、自分のペースで生活したり、働くことが可能になります。

 今回のCOMEMO記事では、自身の引っ越しを機にほどこした防音対策を紹介し、家庭でもできるステイホーム時代の防音対策についてお伝えします。

 特に読んでいただきたいのが、私のように、夜にワークショップやオンラインイベント、Clubhouseで配信をしているような「ステイホーム発信者」のビジネスパーソンのみなさまです。NewNormal時代にあって発信のスタイルは多様化し、一部のYouTuberやライバー(生配信者)だけではなく、一般のビジネスパーソンもコンテンツを生配信する機会が増加しています。発信するのは大事なことだし、世の中にも自身の仕事にもいい影響を与えられる行動ですが、それがご近所にとってマイナスに知らず知らずなってしまっては、本末転倒ですよね。

 私の事例は「かなり力を入れた」例になるので、すべてを模倣する必要はないと思いますが、エッセンスを取り入れていただき、ちょっとした音対策を施していけるようになると、周りの生活環境にも優しい発信活動がみなさんできるようになるのではと思います。何かヒントになれば幸いです。

家庭内防音に取り組んだ背景

 2020年末の結婚を機に、2021年3月に転居することになりました。東京都内から都内への引っ越しです。夫婦にとって理想の物件が東京都北区に見つかったのですが、ひとつ問題がありました。音の問題です。

 今までの文京区の家は、鉄筋コンクリートの2階。角部屋で、壁が厚いのか、隣の部屋の音がほとんど聞こえない環境でした。下は駐車場なので、音に関して言えばノーストレスです。ステイホームな世の中になり、当時は同棲中だった2人がお互い仕事をしていても、たまたま振り分けのレイアウトの部屋だったこともあって、音の干渉はほとんど気にならない状況でした。

 ところが、引っ越し先は木造アパートの2階です。3部屋をリノベーションの際につなげて1部屋にしているので2階は1世帯しかないのですが、下には複数世帯が住んでいます。試しに、内見の際に、一部屋あいていた1階の部屋から2階の足音を聞いたときに驚きました。そっと歩いても、音がかなり響くのです。築20年を超える木造住宅とはこういうものかと衝撃を受けました。

 一方の私はといえば、冒頭でも申し上げた通り、オンライン配信が現在の仕事の大部分を占めています。Clubhouseの登場以前からも、深夜帯にトークコンテンツを配信することも多く、仕事柄、配信の際は声を張って話す特徴もあります。この声がご近所の迷惑になっては、せっかく見つけた理想の物件で、トラブルを起こしてしまいかねません。なんとか対策せねば、と、契約を前にして、家庭での防音について調べる日々がはじまりました。

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 この部屋が自分の仕事部屋になることが決まりました。もともと二部屋あった部屋をつないでいるので、小さい壁が残っており、三方囲まれた写真右の空間をイラストに描いたようにつかえば、音をあまり逃がさずに配信できるセミ・クローズドな家庭内配信スタジオ環境が構築できるのでは?と踏んで、対策を施すことにしました。

 以下は、実際に自室で実施した防音対策のレポートです。事例として紹介した後には、防音専門会社ピアリビングに取材してまとめた、家庭防音で考えるべきポイントをまとめています。少しでもみなさまの自宅職場環境づくりのお役に立てれば幸いです。

 ※ステイホーム以前の記事ですが、こちらの記事もとても参考になります。今回私もお話をうかがった防音専門会社ピアリビングの梶原さんが防音対策のいろはを伝えています。防音にあたっては、梶原さんのアドバイスがかなり役立ちましたし、勉強になりました。ありがとうございました。

「床」の防音

 配信スペースとなる自室の床にまずは対策を施しました。階下への音漏れや振動の伝達を防ぐには、床への対策は欠かせません。足音だけではなく、部屋全体の音を吸音してくれるので、話声やスピーカーの音にも効果があります。配信スペースのみ敷こうかと悩んだのですが、対策する床面積が広いほど効果があるということで、思い切って部屋全面に敷き詰めることにしました。

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 「静床ライト」という50x50cmの防音タイルカーペットを引っ越し前に自室に敷き詰めます(家具が入ってからでは敷けなくなるので)。静床ライトは、吸音性能の高いガラス繊維を中心の3層構造になっていて、足音などの衝撃音を吸収してくれます。

 そのタイルカーペットの下に「足音マット」という50x100cm、厚さ7mmのマットを部屋に敷き詰めていきます。音の伝達を防ぐ「遮音」素材を、吸音素材でサンドイッチしたような構造になっています。この組み合わせにより、更に階下への音の伝達を防ぐことができるのです。

 もともとは、内見の際に1階の部屋から2階の足音を聞いたときに、想像以上に響いたことからスタートした今回の防音対策ですが、防音専門会社ピアリビングの実験によると「静床ライト」と「足音マット」の組み合わせで、16dB程度の低音域の騒音の減衰が認められたとのこと。配信の話声であれば、更なる減衰が見込めるということで万全を期すために採用しました。

「窓」の防音

 外部への音漏れの最も大きな原因となるのが「窓」です。今回の物件は日当たりと風通しを優先して選んだのですが、その分窓の面積が広いのが特徴で、その対策を施す必要がでてきます。

 今回は、自室のすべての窓に、防音カーテンと、防音レースを装着しました。同じくピアリビングさんが取り扱ってる5層防音カーテン「コーズ」と、高機能防音レース「トル」です。これを重ねて敷くことで、配信中の声の吸音、窓経由の外部への遮音をはかると同時に、部屋の中の音全体の反響をやわらげます。

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 製品説明ページのグラフによると、男性の声の帯域である1000khz帯だと、防音カーテンで15dB程度、防音レースで5dB程度の減退が見込めるとのこと。

 徹底しようとすれば、防音パネルを窓枠にはめたり、二重窓にしたりするほうが防音効果が高いと言われています。しかし、普段は生活環境ですし、風通しや日当たりも大事です。防音スタジオをつくりたいわけではなく、夜中に配信してもクレームが出ないレベルの防音が目的のため、防音カーテンにとどめることにしました。

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「壁」の防音

 今回の防音の場合、壁への対策がもっとも大事だと判断しました。配信は、配信デスクとディスプレイが設置されている正面に向かってしゃべることになるので、その前に飛ぶ声の反響をおさえることが重要です。前の壁に向かってしゃべった声は壁にぶつかって各方向に反響し、増幅します。それを防ぐために、音を壁で吸い取る必要があるのです。

 そういうわけで、前面の壁、背中の壁に吸音素材を貼り付け、かつ、吸音するパーティションを自作することで、反響を最小限におさえる構成にすることにしました。

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 前面の壁に使用した吸音素材は「カームフレックスF4-LF」。4mm厚さのものは、男性の声の周波数帯1000khzで90%の吸音率を誇るツワモノです。
 
 なお防音専門会社ピアリビングの梶原さんによると、声の音域は正面から上に逃げていく傾向があり、天井の隅にたまって反響するとのこと。(音だまりと言うのだそうです)そのため、顔の高さ正面から上に向かって集中して貼ることにしました。

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 パーティションには、市販の三面パーティションにカームフレックスF4-LFを貼り付けました。梶原さんによると、160cm程度の高さの自立式パーティションにカームフレックスを貼ると、とても効果があるとのこと。更に防音性能を上げたい際は、パーティションの内側に、高速道路の防音壁のようなひさしをつけることにより、格段に音が外に逃げなくなるそうです。

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 また、配信デスクの背中の壁にも、吸音材を貼り付けました。配信スペースの音の反響をおさえるには、正面のディスプレイから反射してくる音を背中の壁で吸う必要があります。これに用いたのは「OTTO Wall Deco」という六角形の吸音パネルです。

 カームフレックスの写真をみてわかるように、吸音材は黒か濃いグレーのものが多く、いわゆる「映え」が狙えないものが多いのですが、背中は配信でも映る「顔」になる部分なので、黒一面というわけにもいかないわけです。反射してくる音を分解し吸い取ってくれるので、反射音が減衰します。

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 こちらは配信中に相手に見える背景です。飾り棚をつくって本やレコード、ぬいぐるみを配置しました。配信の画面づくりの意図ももちろんありますが、これらのやわらかい素材でできたものも音を吸ってくれるし、音にとっての障害物が多く置かれるため、反射した音が分散され、反響を減らすのにも役に立ちます。

おさえておきたい家庭防音の基礎

 独学でいろいろ調べたり、ピアリビングの梶原さんにヒアリングしたりした結果のまとめなので専門家の見地ではないかもしれませんが、私が対策する中で感じた、一般家庭で防音するためにおさえるべきポイントは、下記の組み合わせを意識してバランスよく防音材を配置することです。

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 音が家の外の人にうるさく響かないようにするためには、2種類の対策を講じる必要があります。1つが「遮音」もう1つが「吸音」です。防音はこの2つの組み合わせで検討する必要があります。(「防振」も防音の大事な要素としてあるのですが、楽器音などのかなり大きい音を対象としないのでここでは省きます。)

 「遮音」は、外に音が漏れないように、もしくは外から音が入ってこないように「遮断」することです。たとえば、窓をパネルでふさぐ、床にゴムを敷くなど、音を通しづらい素材で「音を遮断する」施策は「遮音」施策となります。

 一方で、遮音だけしていても(特に木造物件の場合は)うまくいかないことが多いのです。音は空気の振動であり、反響することで増幅し、ちょっとした隙間から伝わっていく特徴があります。高音がきんきん響いたり、低音がうわんうわんうなったりするのが、この「増幅」による現象です。

 それを防ぐために、余計な音を減らす(響きを消す・減衰させる)施策が「吸音」です。いちばん一般的な吸音の方法は「カーペットを敷く」「カーテンをつける」こと。布は音を吸い取る性質があるので、これだけでもフローリング+ブラインドの組み合わせの部屋に比べて、余計な音の反響を減らすことができます。

 これらの「遮音」と「吸音」の機能を持つ素材をバランスよく、家の音が外に伝わる接点に配置していくのが、家庭での防音施策の基本となるのです。具体的には隣の部屋、階下、隣の家との接点となる「床」「窓」「壁」に防音素材を配置していきます。

 床は「カーペット」や「マット」が対策の軸になります。素材により吸音、遮音性能は違うので、目的に応じて選択していく必要があります。厚手なものほど効果が出やすいものの、毛足の長いカーペットは音の反響が増す傾向もあるそうで、注意が必要かもしれません。

 窓は「カーテン」が効果的です。厚手のもの、重みのあるものほど防音性能が高い傾向があるとのこと。量販店で「遮音」とうたっているカーテンでは満足できない場合は、専門店の厚手のカーテンを選ぶのがよさそうです。

 壁はもともとが遮音性があるものですが、大きな音の振動が壁を通じて他の部屋に伝わったり、音を跳ね返して部屋の中で音の反響を強めることがあります。吸音素材を貼ることで、壁に伝わる振動をやわらげ、響きを調整していきましょう。ちなみに壁に吸音材を貼ると、隣の部屋から聞こえてくる音がある程度静かになる効果も見込めるそうです。

 複数の素材を組み合わせると、それぞれの素材が得意とする周波数帯が違うので、さらに防音効果が増します。足音は低音、話声は中高音なので、それぞれの周波数帯に強い素材を重ねることで、外に伝わる音を減らすことができるのです。

 「床」「窓」「壁」のそれぞれの箇所で、おおよそ10~20dB程度の音の減衰がはかれると、隣接する部屋から聞いたときに「うるさいと思う」音量のレベルから「ちょっと聞こえてくるな」程度の音量レベル(大人しめの生活音レベル)まで落とすことができます。今回実践した防音施策は、このような基準のもと実施しました。

防音のプロが語ってくれた家庭防音3つのポイント

 今回の対策に関しては、防音専門会社ピアリビングの社長の室水房子さんと運よくつながることができ、紹介いただいたスタッフの梶原さんに取材させていただいた知見がとても役立ちました。こちらの記事の知識でも、梶原さんのアドバイスから知った情報がたくさん含まれています。そんな梶原さんの言葉の中で、印象に残ったものをポイントにまとめて締められればと思います。

①予算に応じてピンポイントの対策をしよう

防音グッズはそれなりのお値段がします。お金をかけるほど万全にはなるのですが、際限がなくなるのです。しかし大半の人にとって、ドラムを演奏するスタジオやカラオケボックスのような設備は不要なはず。どこから発生するどんな音を、どの程度軽減したいかを意識して、対策を行うことが大事なのです。
②DIYで工夫しよう

 ホームセンターにある板やパーティション、ゴム底などを上手に使うことで、高い防音グッズを使わないでも対策できるケースがあります。たとえばスピーカーは、厚めの板の底に防振ゴムをつけておくと、床や壁への振動を防げます。高価な防音パーティションを買わなくても、市販のパーティションに吸音素材やウレタンをはりつけることで、一定の吸音効果が見込めます。ウーファー(低音スピーカー/ホームシアターなどで使うが振動が強く、低音は中高音に比べて吸音しづらいので騒音のもとになりやすい)をゴムの車輪のついた小型の台車にのせて防音、防振をはかるオーディオ好きもいるそうです。工夫次第ですね。
 今回の事例でも、パーティションはありものを元に自作しました。創意工夫しながら対策をほどこしていきましょう。
③結局いちばんの防音対策は「ご近所づきあい」

 梶原さんの言葉でいちばん印象に残ったのがこちらです。

 「どんな防音グッズよりも、いちばん効くのがご近所への菓子折り」

 お互い様の精神でご近所さんとの関係をつくれれば、ちょっとやそっとの音ではクレームにつながりづらいものです。気になったことがあれば、相談できるような関係を築くことが、結局はいちばん大事なのです。

 個人的には、発信活動を行うビジネスパーソンにとって「音」に関心を持つことはとても大事だと考えています。私の事例が、関心を持つきっかけになれば大変うれしいです。

 なお「木造アパートで配信ができる音環境をなんとか整備する」という今回の記事の前提からは外れますが、本当に音環境を気にする場合は、防音性能を意識して物件を選ぶのが大事なのは言うまでもありません。いくら吸音材を貼っても、壁や床が薄い安普請の物件で隣に音が漏れないようにするのはかなり至難の業です。引っ越しの際は、音環境についても注意して選ぶようにしましょう。

というわけで出来上がったPotageの家庭配信スタジオです

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 配信ブースです。正面の壁は吸音材で埋めて、右手は防音カーテンと防音レースの二重対策を施しています。

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 音がはねかえってくる背中の壁には吸音材「OTTO Wall Deco」を施して、配信画面のデザイン性と機能性を両立しています。収納扉なので、開閉に支障がないように配置を工夫しました。

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 飾り棚には、本やぬいぐるみなど「音を吸うやわらかいもの」を配置することで、音の反響をやわらげる効果を狙っています。

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 折り畳みのパーティションを設置すると、より音が反響しなくなります。外側からみるとこのような感じです。

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 内側をみると、かなり吸音パーティションとしての存在感があることが見て取れます。設置することで、声の反響はかなり減衰します。

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 配信しているときにみている景色はこのような感じです。視界がふさがると、集中力が増すのもいいですよね。

 おかげさまで素敵な音環境が出来上がりました。ご助言いただいたピアリビングの室水房子社長、そして梶原さん、どうもありがとうございました!

 Potageでは、こちらのスタジオからワークショップやイベントのオンラインファシリテーションやトーク配信を行っています。「コミュニティ」や「コミュニティ型組織づくり」をキーワードに、パネルトークやワークショップのファシリテーション、人材育成研修など行っています。ご興味ある方はぜひ下記のホームページよりお問合せ下さいませ。

 ※なお当記事は専門家の意見を聞きながらDIYしたものであり、再現した際の防音性能を保証するものではありません。環境によっても性能は変化するので、あくまで参考程度にご覧くださいませ。

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