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「軸・強み・やりたいこと…全部不要」論が学生に刺さった話 ('24法政:WiL佐藤友美さん回)

2024年前期の法政講義録シリーズです。


前提として、このニュースから:

「会社選びの軸」の落とし穴

就活では、「あなたの会社/仕事えらびの 軸 はなんですか?」という質問がよくあるらしい。でも、考えすぎ、固めすぎのデメリットも大きいよ、という話を、曽和利光さんが日経7/30のコラムで書かれている ↓


そもそも日本の就活は、「組織メンバーとしての将来性」をざっくりと見て採るので、「入社後やりたいこと」の重要性は、実は低い。とはいえ聞かないわけにもいかない(と思われている)ので、会社は質問し、学生はまじめに答える。しかし日本企業の仕組み上、入社後の配属が全く違うことが多発するのは必然。これが「配属ガチャ」現象 ↓

「仕事えらびの軸」という表現が流行っている背景に、この配属トラブルを回避したいのもありそうだ。「やりたい仕事は確約できないけど、軸は重なってますよね?」と言い訳できるから。曽根さんは「人事担当者が不安を解消したいから」と指摘しており、それもありそう。どっちにしても、自己中心的理由だ。

現実として、どう表現しようが、就活で聞かれる以上は、学生は対策する。いっしょうけんめいに軸を考え、よく考えるほど内定に近づく。その考え抜いた答えに自己洗脳され、入社後の自分自身を縛っていく

どうすればいいのか? 上記コラムで曽根さんは、

"若いうちは「どんなことでもまずやってみよう」と、キャリアにオープンマインドである方が結果としてよいことが多い"

という。それはその通り。でもそれだけでは、不安は解消されないだろう。少なくとも学生側の不安は。

あたりまえすぎる正論を、説得力をもって伝えるには、どうすればいいのか?

「自分らしくあれば良い」←どうすれば伝わるか?

この人のライブ講演ならどうだ!!と法政「ライフキャリア論」で6月にお呼びしたのが、初期メルカリへの投資などで知られる著名ベンチャーキャピタルWiLの子会社TBAで人事系ディレクターという要職をつとめる佐藤友美 (トモミ)さん。

その軸のなさそうなキャリアは、LinkedIの職歴に、大学入学したての1年生にもわかりやすそうな経験談として書かれている ↓

まとめると、関西で専業主婦を10年、そろそろ派遣からユルく仕事復帰を、と思い立ち、未経験の経営層特化の採用エージェントを正社員を始めたのが2018年おわりごろ。3年ちょっとでお客さんに注目され、逆ヘッドハントされる。「子育て中なのでリモート勤務でないと」と条件をつけたら、WiL社に過去存在しなかったリモート勤務社員が誕生することになる。
(真のホワイト勤務とは、このように、実力と必然性ある個人に対して個別に発生するものなんだろう。制度よりも状況として)

講義では、「正直であれ、特別でなくていい」といったシンプルな話が、法政大生300人に刺さりまくっていた。こちらご本人の報告投稿 ↓

この、

"目標や拘りがないからこそ、与えられた機会や人との縁を120%やり抜いた"

というのが、「軸も強みも要らない」ことの理由になる。「この人の期待に応える」という行動姿勢とは、自分の軸があったほうが邪魔になることすらある。そして「強み」は、相手が見出してきたものだから、自己認識は不要。

これに対して、講義後の学生さん、

"「正直でいること」がどれだけ大切なのかを知らことができました "

といった反応がとても多かった。小学校の教科書にも書いてあるシンプルな話を、説得力をもって伝えられた。

情報洪水の中で育ってしまう思い込み

情報洪水の中で育ってきた世代(1年生=2005年生まれなど)は、
・「他人よりもすごい自分の特徴」を持っているべき
・「目標、やりたいこと」も持っているべき
・「模範的な学生像」を面接では見せるべき
といった思い込み
が強い。強迫観念である。

この状況は、今回講義後のコメントで、「・・・という思い込みが外れました」という反応が多いことからも、わかる。

この状況で、「就活では軸が重要です」など言われると、いっしょうけんめい「軸っぽいもの」を考えたくもなる。それはそうなるよねー。中には、ネットのテンプレ回答をマネしてしまったりもする。そこまでいかなくても、「人から羨ましがられる様な、わかりやすいスペック(外見、年収、地位・・・)」(コメントより)に頼ろうとしがちではないだろうか?

だがそれではどれだけ追っても、上がいる。たとえば法政ではスペック不足、と東大に再入学したとして、そこには「優秀な東大生」が上にいて、きりがない。さらに怖いのは、仮にスペック競争に勝ったとして、スペックとは「交換可能であること」を示している。交換可能な部品として採用され、不要になっていく。

だから、自分の内面に正直になったほうが幸福に直結する。個性がないのも、行った先で素直に染まれる下地があるということ。等身大の自分を見せて、そのままでフィットできる仕事を探す。他人と比較した「すごい自分」を演出しない。

そして、自分の120%を出し、自分だからこそ提供できる価値を発揮し、その場をよりよいものとしてゆく。

この姿勢は、仕事に限ったものではなく、遊びでも何でも同じ、人生共通のもの。

裏表なく自分をそのまま出していくことの価値

裏表なく、常時そうしていることが、そのまま就職活動になる。佐藤さんが今のエリート集団に参加したきっかけも、「ただいつも通りに、オンライン会議で会話していただけ」、その数十分のうちに先方の社内チャットでは「佐藤さんウチでとりましょう」、と逆ヘッドハントが進行していったそうだ。

スタートアップ業界に邪な面もあり、業界全体でも、さらに日本経済全体でも悪影響は大きかったことだろう。

佐藤さんのような姿勢を、ちょうど時代が求めた面もあるのかもしれない。時代の流れは、明らかに、公明正大なものへとシフトしているから。

なお、就活面接でいきなりやろうとすると普通は失敗率が増えるので、学生さんは、日々の学生生活の中から一貫してそうしておくのが大事(講義ではしっかり伝わっているはず)

「みんな何にでもなれるよ」と佐藤さんが言う。
何にでも」とは、
「今の自分が想像もしていないような何か、への変身力」
を言っている。

その変身のために、「今の自分が認識している軸、自分の強み、やりたいこと」などが、必要なわけではない。答えをあわてて作ろうとしなくていい。

・・・

こういうことを、説得力をもって伝えられるのが、同じ空間を共有するライブ講義のいいところだ。学生さんたちのそんな体験記憶が、いつかどこかで、化けてくれることだろう。

追記:安田隆夫さん話題の新著との共通点

『運 ドン・キホーテ創業者 「最強の遺言」』で、安田隆夫氏が同じようなこと書いてたよ、と佐藤さんからお知らせいただく。

3章「運の三大条件」で、「取り柄のない人間だからこその強み」、という項がある。

安田氏の成功は奇跡的で、彼にしかできないし、再現性もそう高くはない(orまったくない)。何度転生してブラッシュアップライフしたとしてもああはならないだろう。p95ではそんな生き方が書かれている

が、ページをめくると、

「根本的なところを突き詰めて考えると、私に何の取り柄もなかったということが大きい。これは謙遜でも自虐でもない。本心だ。

『運 ドン・キホーテ創業者 「最強の遺言」』

そんな彼の生き方は、どんな結果になろうとも、それなりに彼自身が納得でき、納得感としての幸福度は高くなってる気もする。

ほとんどの普通の若者にとって、ドン・キホーテの起業みたいなことをする必要はない。自分らしく、盛り過ぎず、ただし大事なところでは全力を発揮できていけば良い。

そのための基本姿勢が、これだ。

・・・
9/4追記:日経電子版オピニオン 1日掲載きました!

・・・

付録:プロティアンキャリア理論からのキャリア整理

講義のテーマにそって整理しておくと、

<3つの変化軸>
・Identity/自己認識: 正直である。自分自身の直感に対しても、他人にも。
・Adoptability/適応力: 自分らしい影響力を発揮する。自分だからこそ提供できる価値はなにか? この場はもっとよいものにならないか?
そして他人の提案にはフットワーク軽く乗ってみる。
・相互作用: 「佐藤さんいると楽しい!もっとよくなりそう!」という相手から、新しいチャンスが提案される

<キャリア資本>
・社会関係資本: たぶん一番得意なところで、いろいろな人と抵抗感なくつながりながら、素直に観察し、提案できる
・ビジネス資本: そのつながり作りの能力をベースに、フレーバーのトッピング的に、「リクルート創業者の江副浩正氏の直下で働いていた経験」を活かしたキャリア展開をされているかな?(仮にそれがなければ別の何かを活かすはず)
・金融資本: 求めていたのは派遣事務レベルの待遇(だったのだが・・)

とまとめられる。

これら経歴から、「転職にあたっての軸」も明確に言語化することは可能。だけど、現実そこに実用的な意味は薄いだろう。自分らしくあることによって、自分が想像もしなかったような選択肢が出現するわけだから。

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