さよなら!ゲロ袋 あるいは企業の周年についてのひとつの考察
ドラマミンという乗り物酔いの薬は1949年にアメリカで発売されたそうです。同じく1949年にアメリカの飛行機の座席ポケットにゲロ袋(失礼、エチケット袋という呼び方の方が上品なんでしょうか?)が設置されることになったそうです。それから、長い年月がたちました。
ブランドの誕生日って
広告会社やPR会社の受ける仕事に会社の周年企画というものがあります。まあ、周年は会社やブランドの誕生日と言い換えてもいいですよね。企業やブランドにとっては情報発信のいいタイミングでもあるんです。
長年愛されるブランドを世に送り出してきた会社にとってはそのファンに感謝する機会であり、ファンにとっては自分たちが大好きなブランドを祝福する日です。
従業員にとっては、そのブランドをつくり続けてきたプライドを感じる時かもしれないし、株主や流通関係者にとってみれば、あるブランドが消費者を長期にわたって惹きつけててきたという事実を実感する日になるかもしれません。
そう、周年は企業を取り巻くさまざまなステークホルダーとの関係を再認識し、感謝するタイミングなのです。
新聞というメディアは企業が何かを宣言する場として使い勝手がいいので、周年広告がたくさん掲載されてきました。
「○○は今日、○○周年を迎えます。ありがとうございます。」なんて広告を目にする機会も多いんじゃないかと思います。
この周年はすごい!
6月17日からフランスのカンヌでカンヌ国際クリエイティビティフェスティバルが開催されました。カンヌは世界中の広告、プロモーション、PR、マーケティングをビジネスにする人たちが集い仕事を競い合う場であり、ネットワークの場であり、学びの場でもあります。今年も「その手があったか!」とおもわず膝ポンしてしまう、クリエイティビティ溢れる仕事が多数紹介されました。
その中で、PRパーソンである僕が「やられた!」と嫉妬心を覚えたのがドラマミンという乗り物酔いの薬の70周年企画。この周年はすごい!
ドラマミンは乗り物酔いを撲滅することがミッションですから、この薬が多くの人に利用されれば利用されるほど飛行機に置かれるエチケット袋は使われなくなるわけです。
実際、ドラマミンの販売が増え、その効果も改善されると、アメリカで生産されるエチケット袋の数は減少していったのです。
そこで、ドラマミンを作る会社はその70周年に、エチケット袋にお別れを告げるイベントをさまざまな形で実施したんです。
航空会社のデザインは優れたものが多く航空機周りのグッズのコレクターが存在します。そして、世界にはもの好きがいるものでエチケット袋を専門に収集するコレクターもいるんですね。そんな、エチケット袋の偏愛コレクターが、ある意味エチケット袋の宿敵ともいえるドラマミンの社長と出会うドキュメンタリームービーを制作して上映したんです。それから、コレクターアイテムが展示される「エチケット袋ミュージアム」が開催されたり、ウエブでエチケット袋が発売されたり。
エチケット袋 VS 乗り物酔い薬
70年間死闘を繰り広げてきた宿命のライバルにリスペクトを示すスタンスがかっこいいですよね。
たしかに、日本でも最近エチケット袋を見かけなくなりました。でも、その影に乗り物酔いの薬の活躍があったなんて普段は気にしませんもんね。
これは旅客機の歴史とともに歩んできたこの乗り物酔い薬の歴史の長さと重みを振り返ることができるよくできた周年企画ですね。
“エチケット袋VS乗り物酔い薬” この対決構造をPRのストーリーにした人はスゴい!
敵ながらあっぱれ!と、エチケット袋が今まで果たしてきた役割を認める姿勢も素晴らしい。
僕は比較的乗り物酔いをしないタイプですが、乗り物酔いをする人はこの薬に助けられ、快適な飛行機の旅をできたことを思い出すことでしょう。薬の開発や製造、マーケティング、販売を担ってきた人たちは自分たちの成し遂げた成果を実感したことでしょう。
こんな、周年企画を考える製薬会社。
好きになってしまいますよね。
ちなみに、日本では今日だけでも2つの周年が日経新聞にニュースになっていましたね。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF258T30V20C24A6000000/