セレブの「庶民コスプレ」が反感を買う理由
先週、「元祖TikTokの顔」で知られるインフルエンサーのCharli D'AmelioがWalmart(庶民向けスーパーマーケット)で、「新しいスナック体験」と称したBe Happy Snacks Popcornの発売を記念して、Walmartの従業員の服装で商品をレジに通したり、姉のDixieと共に店内ではしゃぐ動画が公開された。その動画が大きな反感を買い、アメリカの格差社会とインフルエンサー事業の問題点にまで議論が展開されている。
「Trusted Influenceとの提携を通じて、Fifth Growth Fundの支援を受けて、この製品は全米のWalmart店舗で独占的に提供される。Be Happy Snacksは、Dixieの曲「Be Happy」にインスパイアされた楽しさと予期せぬスナックを提供し、喜びをもたらし、空腹を満たすことを目指している。ポップコーンのラインナップはグルテンフリーで、天然成分を使用し、人工の風味や色素は含まれていません。4つのユニークなフレーバー:Cotton Candy、Maple Bacon、Parmesan Garlic、およびNice Spice、それぞれがD'Amelio家族の影響を受けて独自の味わいを約束しています。」
公式PR文章には、要約するとこのように説明がされている。まず、かなり意味のわからない支離滅裂な文章なのだが、要はインフルエンサー一家であるD'Amelio家の両親が"D'Amelio Brands"という名のブランド事業を起業し、Walmartと提携してポップコーンを販売しているのだ。興味深いのは、少し変わったフレーバーであるということ以外は普通のポップコーンであり、直接D'Amelio家とストーリー的に関係あるわけではないのにもかかわらず、「インフルエンサー」との隣接性を用いて、販売促進を狙っていることだ。累計約4億フォロワーを誇る一家はHuluでドキュメンタリーを持ったり、Dixieは有名アーティストとの楽曲コラボレーションでもフィーチャーされているほど、アメリカのインターネット文化においては重要人物たちだ。
Charliがレジでポップコーンをスキャンしながら満面の笑みでポーズをとったり、「一日働いてみたらどうなるか」というTikTok動画では、店内を走り回ったりショッピングカートを乗り回したり、とにかく楽しそうだ。これらの動画が反感を買う理由は、アメリカの接客業や小売従業員たちが低賃金で働いていること、そして待遇がとても悪い中で、そのような仕事をしたこともないセレブたちがまるで「バカにするように」、従業員らの苦労に一切目を向けずに透明化するような行動にある。
「人生の宝くじに当たった人が、人々の夢と希望を打ち砕く最低賃金の仕事をするふりを嬉々としてしているのを見て許せない」「一般人の日常的な苦労を逆撫するような無神経ぶりだ」「全く共感できないほど裕福で楽な生活をしているインフルエンサーに”共感性”を押し付けられたくない」といった趣旨のコメントが多く見受けられた。コロナウィルスによるロックダウン中はこのような従業員も「エッセンシャルワーカー」として一時的にのみ社会的に感謝されたが、それ以降はモンスターのような客や過酷な労働環境などに、常に戦わされている。このアメリカの「格差」問題こそが、今回の議論の中心点だ。従業員の経験をしたこともない億万長者のインフルエンサーが、まるで楽な仕事であるかのようにお店中を走り回ったりするだけで、おそらく従業員の数ヶ月分の給料が稼げるのに、「庶民のコスプレ」をされるなんて腹立たしい、という意見もある。
一方、この記事にあるように、実際にダンキンドーナッツに対して常に絶大なリスペクトと愛を示しているBen Affleckのダンキンとのコラボレーションや、庶民向けチェーン店であるワッフルハウスで食事をしていたLana Del Reyが「1日店員」をやったことがSNSで話題になったが、これらは「自然」な経緯で発生しているものとして、むしろ歓迎されがちだ。
そしてこのWalmart事件は、最近Huluのドキュメンタリーで批判の的となったDixieの発言を受けているからこそ、さらにヒートアップした可能性も高い。資産$30Mもあると推測されているDixieが「キャリア的には、玉の輿結婚が夢。もうほんとに働きたくない」と発言したことが、主にZ世代から反感を買ったが、その反響が興味深い。
ほとんどの若者は一生懸命激務で働いても薄給だし、Dixieが「仕事」の文句(「今日はネイルサロンと衣装合わせとマツエクとショッピング、マジで忙しくて大変」等)ばかり言ってるラグジュアリーな生活は、普通の人からしたら憧れの生活。嫉妬と苛立ちで号泣する人までいた。(そしてこの左の動画の投稿者は、のちに”9時5時で働きたくない”という動画を投稿して世界中で話題になった人物だ)
Emma Chamberlainも同例だが、もともと「共感できるインフルエンサー」として人気を博した若者が急にセレブになり、色々な理由で鬱や不満を抱えて文句を言い出すと、「ありがたいと思え」と一般人の怒りを買う、最近頻繁に起きている構図だ。格差の拡大は10代、20代にとっても深刻な問題であることを浮き彫りにする事例なのではないだろうか。
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