未来のメタバースはスマホになれるか

フェイスブックの社名変更もあって、メタバースがいきなりバズワードになって盛り上がっています。日本のネット企業でも参入を表明するところが相次いでいるようです。しかし仮想空間にからんださまざまな技術はまだ道半ばで、巨額の開発投資を必要とします。

上記の記事によると、日本のグリーはメタバース事業に100億円の投資を発表していますが、「100億円で利益が出るところまでできるか、懐疑的な見方が多い」という声も。

「スマホゲームなどと異なり、ユーザーは複数のメタバースを掛け持ちしにくい。1強多弱の傾向がこれまで以上に強まるとみられており、海外の大手資本に勝てる投資が続くかに懸念がもたれている」

年間1兆円という巨額の開発投資

なにしろフェイスブック改めメタ社は今後10年、毎年1兆円を投じるという驚くべき巨額の開発投資を表明しているのですから。現在のメタバースのイメージは依然としてかなり貧相な印象がありますが、これだけの開発投資をおこなっていけば、10年後にはかなりリアル空間に近い高精度な立体映像と、使いやすいユーザインタフェイスを備えたものに進化しているのは間違いないでしょう。

しかしわたしはメタバースが普及するかどうかは、関連テクノロジーの進化よりも「メタバースを何に使うのか」という命題にかかってくるととらえています。つまり現在のVRのようにあくまでもゲームやエンタテインメントとして利用されていくのか、それともメタやマイクロソフトなどがビジョンとして描いているように、オンライン会議やドキュメント、スプレッドシートなどの共同編集の場として成立しうるのか、ということです。

VRはそれ自体が「目的」だが、スマホは「手段」である

いまのVRは、あくまでもVRそのものが「目的」です。つまりユーザーはVR空間そのものを楽しむために、VRを使っている。しかしスマートフォンはそうではありません。スマホそのものが目的でスマホを使っている人はいません。地図を見るため、メッセンジャーで誰かとやり取りするため、YouTubeやTikTokで動画を見るため、天気予報を知るため、さまざまな目的があり、スマホはそのおともをしてくれる「手段」なのです。

だからこそスマホはこれだけ普及し、世界中の人びとのライフスタイルを一変させるイノベーションになったのです。生活や仕事のシーンのおともになることがなければ、これほどまでに人びとがスマホを使うようにはなっていなかったでしょう。

もちろんエンタテインメントとしてのメタバースの可能性は、じゅうぶんに大きいと思います。しかしわれわれの1日24時間の生活時間は、すでに大量のコンテンツに覆い尽くされています。ネットフリックスやアマゾンプライムビデオで映画やドラマも見たいし、ツイッターやインスタグラムもチェックしたい。好みのユーチューバーの配信も逃せない。キンドルで本も読みたい。エンタテインメントとしてのメタバースは、これら膨大なコンテンツと勝負しなければならないのです。すべてがメタバースに覆い尽くされるとは考えにくいでしょう。

生活を代替するのではなく、拡張するメタバースが求められる

つまり生活をメタバースで代替するのでは、使える時間に限りがあるということ。生活を代替するのではなく、生活を拡張してくれるメタバースになってこそ、スマホと同じようなイノベーションを引き起こせるのではないでしょうか。

現在のVRは、視界を完全に覆うヘッドマウントディスプレイが必要なので、日常生活のおともにはなり得ません。物理空間と仮想空間が透過型で融合できるARやMRなどのテクノロジーをさらに進める必要があるでしょう。この分野をメタ社がどこまで進化させていくのかを期待して見守りたいと思います。


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