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自分にどんなスキルがあるのか、語れますか?

この5〜6年で人生100年時代という考え方は浸透し、副業もある程度の市民権を得て、コロナ禍による働き方の変化しました。そのような流れを経て、今、「人への投資」についての議論が増えています。

テクノロジーの進化や業界構造の変化などによって、これまで企業が人材育成をして社員に身につけさせてきたスキルが陳腐化し、新たなスキルを身につけてもらわなければいけなくなった。これが、「人への投資」のなかで必ず上がってくるリスキリング(学び直し)という話題の背景です。そして、高齢化社会・定年延長といった背景もあり、社員が新たなスキルを身につけて今までと別の形で貢献してもらわないと、企業としても雇用が維持できなくなってしまうという危機感の表れでもあるわけです。

私は、大企業の人材に一定期間ベンチャー企業で働いてもらう「レンタル移籍」という事業をやっており、捉え方によってはまさにリスキリングのお手伝いをしているわけですが、その経験から、リスキリングをする前にやっておいた方が良いと思うことを2つ、紹介したいと思います。

それは・・・

  • 今のスキルを捉え直す

  • スキルは手段という認識を共有する

ということです。ぜひご覧いただき、ご自身のリスキリングを考えていく際、そして今後のキャリアを考える際に、参考になれば幸いです。


そもそも自分にどんなスキルがあるか、語れますか?

では早速、1つ目の「今のスキルを捉え直してみる」という点からお話をしていきます。

私たちが取り組んでいる「レンタル移籍」という仕組みでは、大企業の人たちをベンチャー企業に紹介し、半年〜1年間一緒に働いてもらいます。人材を受け入れるベンチャー企業からしたら紹介された人が「何をできるのか」「どんなスキルを持っているのか」がわからなければ、その人を受け入れられません。

裏を返せば、ベンチャー企業で働くためには「自分は何ができる人なのか」を語れなくてはいけないわけです。ところが、自分のスキルを語れる人がとても少ないのが実情です。

私自身も、思い当たる節があります。新卒で入社した会社で13年働いたのちに初めて転職をしたのですが、自分のスキルをうまく語れなかったんですよね。それなりに実績を出してきたつもりなんだけど、私には「〇〇力」があります、みたいな表現ができず、悶々としました。

組織の中にいて、周囲も同じ仕事に携わっていたりしたら、その仕事ができることは当たり前で、特別なことではない。だから何も語れないんですよね。「私は肺で呼吸したり2本足で歩いたりできます」なんて改めて言わないよな・・・っていうのと同じような感覚なのかもしれません。

でも、「スキルを語れない」からといって、「スキルがない」ということではありません。

電子部品の開発者がマーケティングをすることになったら

ここでひとつ、事例を紹介したいと思います。ある企業で、電子部品の開発をしている方がいました。入社10年くらい。それまでずっと企業の研究所でお仕事をしてきた方です。

その方が、ベンチャー企業にレンタル移籍をして任された仕事が、ウェブマーケティングでした。電子部品の開発からマーケティング、ずいぶん違うことをやることになったな、そんなところでパフォーマンス出せるの?って思いませんか?

ところが、結論から言うと、大活躍。大きな成果をもたらすことになりました。

なぜそんなことが起こったか。それは、仮説を立て、実験をして、それを定量的に振り返って改善する・・・まさに開発をしながら身につけてきたスキルが、そのままウェブマーケティングという世界で発揮されたのです。

レンタル移籍では、こんな事例が山のようにあります。

つまり、スキルというのは例えば「電子部品の開発」ができるといってしまうと狭すぎますが、「数値を正確に抑えながら仮説検証を確実に回して結果を改善できる」というように抽象度を上げて解釈をすると、実は広く応用が効くスキルと捉え直すことができるのです。

今まで身につけてきたスキルの汎用性に目を向ける

上記でご紹介したように、スキルというのは捉え方ひとつで、活かせるものに昇華していける部分が必ずあるのです。もしこれまで一生懸命に仕事をされてきた人なら、間違いなく。

ですから私たちは、一人ひとりのスキルを3階層に分けて捉えるようにしています。1階層目はその組織の中で発揮されているスキル(「組織特殊的スキル」と言われます)、そして、それをやっている中で身に付き汎用性のある要素が2階層目の「ポータブルスキル」、そして更にそこにその人ならではの考え方の癖とか趣味とか価値観とかが混ざり合って「独自のCan」という3階層目がある。そんなふうに整理をしています。

こう整理をしてみると、誰にでも2階層・3階層目のスキルというものがあります。ただ、そこまで意識して自分のスキルを認知していないので、例えば転職やレンタル移籍のような形で社外の人に自分のスキルを語ろうとしたときに、うまく語れないということになってしまうのです。

そして、この構造を意識していないと、いつまでも会社から言われたスキルの表層的な部分、つまり特定の会社や組織の中でしか発揮できないスキルだけをかき集め、次から次へとリスキリングしていかなくちゃいけない、みたいに思えてしまうんじゃないかなと思うのです。

ですから、一つひとつのスキルを身につけていく過程の中で、汎用的な部分は何か(ポータブルスキルは何か)ということを常に意識して言語化しておくことが重要です。そこを意識できれば、自分のキャリアの選択肢も広がっていくと感じられるはずです。そうしたら、新しいスキルを学ぶということに対して、ポジティブに向き合える人が増えるのではないでしょうか。

スキルの汎用性に気づくにはどうしたら良いか

では、自分のスキルの中にある汎用的な部分がなんなのか、どうやったらわかりますかね。

効果的なのは、別の環境に身を置くということです。その一つのやり方が「副業・兼業」です。異なる環境に身を置くことによって、自分のスキルのどの部分が通用するか、気づくことができます。前提条件や環境を変えることによって、強制的に汎用的なスキルをあぶり出すのです。

そして、越境経験をした人が社内に増えていくと、「社外でこんなことができた」「こんなふうにスキルが活きた」といった会話が増えていくことにつながります。実は、これが「副業解禁」や「レンタル移籍の導入」のように、越境経験(自社の枠を超えて学びを得る経験)を推奨する企業の狙いの一つであったりもします。

ですから、ご自身が越境経験をしていないとしても、自分と同じようなスキル・経験を持った人から話を聞くことで、汎用的なスキルとは何か、ヒントを得ることはできるはずです。

また、もし会社が副業禁止だったとしても、機会はあります。それは中途採用で入ってきた人の存在です。別の環境で働いたことのある人から見て、自分はどんなスキルを持っているように見えるのか。そんなことを聞いてみるといいと思います。

それ以外にも、例えば私たちがレンタル移籍をされる方のスキルをクリアにするために使うやり方として、「もし転職するとしたら、どんな仕事がいいと思うか?」というのを周囲の人に聞いて提案をしてもらう、という方法があります。もしみなさんの周りに転職経験の多い人がいるなら、そんなことを聞いてフィードバックをもらってみてもいいかもしれません。

このように、「自分のスキルの汎用的な部分は何か?」という問いを持って人と会話をしたり周囲を見回してみるだけでも、色々とヒントがあるのではないかな、と思います。

・・・

ということで、今日は、自分のスキルを抽象度を高めて見直してみるということについてお話をしてきました。ご紹介してきたように、きっと多くの人が、すでにきっと汎用的なスキルを持っていると思うんです。

変化の激しい時代といわれます。もちろんその通りだと思います。ただ、だからと言って、何でもかんでも変えればいいというわけでもないし、変えなきゃいけないということじゃないはずです。変わらずに、大切にしなきゃいけないこと、そういうものもちゃんと認識をできるといいな、と思います。

リスキリングはとても大切なことですが、そもそもこれまで自分が得てきたスキルにはどんな意味があるのかということを認知し、これまで頑張ってきた自分を正しく評価する。そこから始めてこそ、新しい学びを得るということに前向きに取り組んでいけるんじゃないでしょうか。

この記事が、お読みいただいた皆さんにとって、スキルを見直す機会になったら嬉しいです。

少し長くなってしまったので「スキルは手段という認識を共有する」という点については、日を改めて書いてみたいと思います。

それでは!

イベントのお知らせ

2022年9月14日に、イベントを開催します。今回の記事の中でも「越境をすることが自分のスキルに気づくきっかけになる」ということをご紹介しましたが、そうやって外に向かう力(遠心力)と、それを内省する力(求心力)の両方が企業にとっても個人にとっても重要ではないかと思うのです。
DeNAの南場さん、早稲田大学ビジネススクールの入山先生をはじめとし、豪華ゲストの方々と一緒に、そんなテーマでお話をします。ぜひ一緒に考えを深めてみませんか?


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