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西武・そごう、ストを株主利益と従業員利益の立場から考える〜ストが起こる潮流について〜

 西武・そごうの労働組合によるストライキに対して、応援する声もあれば、厳しい声も出ていたりと注目が集まっています。私は、今回のストライキに対して株主利益と従業員利益の2つの立場から考察する必要があると考えています。この考察が、経営者、ビジネスパーソンが将来予測をする際のヒントになればと思います。


株主利益の立場から

 株式会社の使命は何かと言われたら、あなたは何と答えますか?社会・従業員・取引先・株主・全てステークホルダーの利益を最大化するのが使命と答える人もいれば、株式会社の出資者である株主のための利益を最大化するのが使命と答える人もいるでしょう。ファイナンス研究では、前者はステークホルダー主義、後者はシェアホルダー主義と言われます。できれば、前者の利益を最大化する方が良さそうに見えますが、何を持って最大化とするかの定量化が厳しいです。そのため、セカンドベストとしてシェアホルダー主義を前提とした会社運営が行われやすいです。
  そごう・西武は4期連続で赤字であり、立て直しには、短期的には赤字是正・組織是正のためにも雇用を守らないことが株主価値最大化になるかもしれません。そのため、売却先の投資ファンドが、雇用整理するのは十分に起こりうることであり、会社そのものを守るためにもリストラは仕方ないという見方があるのは自然な話です。

従業員利益の立場から

 ただし、従業員利益の立場からは違いますよね。もちろん、ストライキをすることで、売却先のファンドが撤退すれば、会社そのもの、更には雇用も結局は失われる可能性があります。しかし、そうしたリスクを承知でストライキを行うのは、時代の流れが影響していると私は考えます。というのも、日本では米国流のジョブ型雇用の受け入れや、とにかく雇用の流動性をあげよう!という動きが起きています。しかし、その本家本元のアメリカでは、会社が従業員の雇用を切りやすいだけでなく、労働組合の行動が非常に活発です。アメリカの場合、労働組合が物言う株主として株主提案をするなどして、経営者交代を迫ることもあります。ファイナンス研究では労働組合による経営者への影響力の大きさも多数報告されています。例えば、下記のファイナンス研究では、労働組合の株主提案の影響力についても検証しています。

Yonca Ertimur, Fabrizio Ferri and Stephen R. Stubben, "Board of directors' responsiveness to shareholders: Evidence from shareholder proposals" Journal of Corporate Finance Volume 16, Issue 1, February 2010, Pages 53-72の冒頭箇所より

今後の影響

 米国同様に、日本でも雇用の流動性をUPさせようという機運が広がるほどに、自分たちの雇用を自分で守るという意識が広がっていくと考えられます。そして、今回は下記の記事のように結果的に雇用を守ることで帰結したので、労働組合にとっての一つの成功事例となっています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC30BNX0Q3A830C2000000/

今後は、経営者は、株主利益を守るのは当然ではありますが、労働組合など雇用者の行動について、真剣に向き合う機会が増えるのではないかと予想されます。その時に、どう向き合うかはESG投資ムーブメントが高まる昨今においては、株主も注視しているでしょう。

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崔真淑(さいますみ)

*冒頭の画像は、崔真淑著「投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本」(大和書房)より抜粋。無断転載はおやめくださいね♪

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